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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第三章 誓いの刻印編
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16・焦燥

――PM1:10 材木座海岸 外れ――

 真桜は苦戦していた。最初に制圧した部隊はただの先遣隊だったようで、今真桜の相手をしているのは、かなり高レベルの術師達だ。全員が刻印宝具を生成している。


「しつこい!いい加減にしてよ!!」


 真桜はシルバリオ・ディザスターを発動させた。既に何度発動させたかわからない。海岸のいたるところに銀の像が立っている。真桜のシルバリオ・ディザスターによって銀に変えられた銃装大隊達だ。新たに銀像が、真桜の前に生成されていく。だが真桜も、かなり印子を消耗している。ここまで連続して使ったのは初めてだ。


「こ、このっ!きゃあっ!!」


 今までS級術式であろうと無効化してきた真桜に、ついに刻印術が直撃した。命中したのはアイアン・ホーン。土属性の術式では、風属性に適性を持つ真桜に大きなダメージを与えることは難しい。アイアン・ホーンも生体領域によって、かなり威力が削がれていた。

 だが真桜は、先程から高位の術式を多用していた。そのため印子だけではなく、体力も消耗している。威力を削いだとはいえ、アイアン・ホーンは鉄の塊だ。弱っている身体では相克関係があっても大きなダメージと成り得る。真桜は地面に倒れながらも、アイアン・ホーンを発動させた術師にウイング・ラインを発動させた。同時に近くの岩に身体を預けながら、ヴィーナスを発動させた。攻撃のためではなく、防御のために。

 だがそれこそ、待ち望んでいた瞬間だった。


「ようやく息が上がってきたか。呆れた小娘だな」

「あなたは……!」


 真桜は驚いていた。現れた男は南徳光。一斗と菜穂が参加した粛清から逃れ、潜伏していたはずの男が、今自分の目の前にいる。


「そんな……!お父さんとお母さんから逃げたって話は聞いてたけど……なんでこんな所に!?」

「簡単なことだ。西谷が消された瞬間、連盟が動くとわかっていたからな。私は精鋭達を引き連れ、一時的に身を隠したに過ぎん。今、君の学校を襲っている連中は、ほとんどが銃装大隊に入隊したばかりの新兵だ。君の目の前にいる者達こそ、銃装大隊の精鋭であり、次代を担うに相応しい者達だ」


 総勢二十名の生成者が、敬礼をもって南を迎えている。驚いたことに全員が若い。幹部は粛清されたと聞いていたが、切り捨てられたのではないかと思えてしまうほどだ。だがそんなことは真桜にはどうでもよかった。


「何が次代を担うに相応しいよ!過激派ごときが調子に乗らないでよ!」

「別に調子に乗ってはいないさ。なにせ我々がこの国の頂点に立たなければ、中華連合との戦争を回避することはできないのだからな」

「せ、戦争!?どういうことなの!?」

「知らないのも無理はないが、一時間程前に中華連合は我が国に対し宣戦布告を行った。既に艦隊も派遣されている。対して国防軍はロクな準備ができていない。戦争を回避するために中華連合が出した条件は、我々による軍事政権の樹立だ」

「それって……あなた達が中華連合の手先に成り下がったってことじゃない!それで戦争回避なんて、よく言えるわね!」

「口を謹みたまえ。我々が中華連合を利用しているのだよ。もっともこれは、どちらにも利益があることに違いはないが」

「だがそれはお前の利益であって、この国の利益ではない。それどころか中華連合の利益にすらならない」

「久世雅人……。来ていたのか……」

「真桜!大丈夫!?」

「長々と演説、感謝するよ。おかげで真桜ちゃんの救援に間に合った。我が姫を傷つけたことの意味、わかっているだろうな?」


 姿を見せたのは雅人だけではない。美花、さゆり、香奈、星龍の姿もある。さゆりはレインボー・バレルを手にしている。


「姫か。確か君と立花兄妹は、三上の息子と久住の娘に忠誠を誓っていたんだったな」

「わかっているようだな。ならば次に俺が何をするか、それもわかるだろう?」


 仲間達は驚いている。さゆりも知ってはいたが、改めて口にされると、その重さが伝わってくる。事実、雅人からは既に殺気が放たれている。あの日――勇輝が死んだ日と同じような、全てを焼き尽くすかのような激しい殺気だ。


「無論だ。前から思っていたが、君とは主義も主張も合わないからな」

「当然だ。テロリストごときが、この国の未来を語るな」

「やむを得んな。ん?そこにいるのは……まさか王星龍!?なぜここに!?」

「決まっている。祖国を救うためだ。お前の話を聞いて、全て理解できた。お前が生きている限り、我が国にもこの国にも、平和は訪れはしない」

「ちっ……圓め、不穏分子を取り逃がしておったのか!どうりで我々も多大な犠牲を払うことになったわけだ!構わん!この場にいる者は全て殺せ!我が祖国のためにも、他国の裏切り者と内通していた売国奴を粛清するのだ!」


 南のセリフには私情が込められている。だが銃装大隊は気付いていない。彼らは南徳光という男に心酔し、思想に賛同しているからこそ、今この場にいる。


「真桜ちゃん、そこで休んでいてくれ。そんなに時間をかけるつもりはないよ」

「すいません、雅人さん……」


 雅人の姿に安心した真桜は、ヴィーナスを解除し、その場に倒れ込んだ。刻錬館に向おうとしていたことが幸いだった。既に雅人は真桜の前を歩いている。


「真桜!」

「真桜ちゃん!しっかり!」


 美花と香奈が慌てて駆け寄った。こんなボロボロになった真桜の姿は、美花も初めて見た。さゆりはレインボー・バレルを構え、星龍とともに真桜の前に立った。香奈も真桜をかばいながら刻印具を構えている。


「星龍さん、みんなを頼みます」


 星龍はさゆりより一歩前に出て、連盟から贈られた剣状武装型刻印具を構えた。雅人に頼まれずとも、指一本触れさせるつもりなどない。


「心得ている。彼女達にも君の姫君にも、指一本触れさせるものではない」


 既に銃装大隊は刻印宝具を生成している。だがそれは雅人も同様だ。氷焔之太刀を生成すると同時に氷焔合一を発動させ、早くも三人の生成者を葬った。


「ここから先は通さん。いや、退くことも許さん。姫を傷つけた報い、その命で償ってもらう!」


 雅人は新たに開発した無性S級広域対象系術式ヒート・ディストラクションを発動させ、この世とあの世を繋ぐ結界を作り出した。


――PM1:15 明星高校 刻錬館前――

 飛鳥は恐怖に駆られていた。講堂前で真桜の危機を感じてから、我を忘れていたかもしれない。何度か銃装大隊が襲いかかってきたが、周囲を気にもかけずにミスト・インフレーションを発動させ続けた。今もまた一人、ミスト・インフレーションによって鮮血を舞わせながら絶命していく。


「どけよ!俺の邪魔をするな!真桜を傷つけるな……!」


 小さく叫び、道を塞いでいる銃装大隊達をミスト・インフレーションで斬り捨てながら、飛鳥は海岸へ――真桜の下へと急いでいた。自分の印子を無駄に消耗させていることも気付かずに……


「飛鳥!待ちなさい、飛鳥!!」


 さつきが追いかけるが、飛鳥は止まらない。だがさつきも焦燥感に駆られている。真桜の盾である自分が真桜を守れないなど、無様にも程がある。真桜の身に何かあったら、自分の命だけでは足りない。連中を皆殺しにしても、何の足しにもならない。

 行く手を阻む銃装大隊はいない。飛鳥が往く道を血で染めながら進んでいるため、迷うこともない。

 だが同時に、誰も近づかない。ハリウッドのレッド・カーペットも驚くほど鮮やかに紅く染まった道は、恐怖の対象でしかない。

 さつきはチラリと後ろを振り返ってみたが、追ってきた風紀委員達も真っ青になっている。本来であれば今の飛鳥の姿は、誰にも見せたくはない。今もまた一人、ミスト・インフレーションによって道を染める塗料となってしまった。いや、道どころか、既に飛鳥の全身は返り血で染まっている。こんな姿を見られたら、飛鳥は学校にいられなくなるどころか、この街に住むこともできなくなる。

 生徒を講堂に集めたことは正解だった。護や沙織が術師を集め、講堂を守ってくれているが、あまり時間はかけられない。真桜の安全を確保したら、速やかに戻らなければならないだろう。だが自分にもその余裕があるか、さつきにはわからなかった。

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