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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第三章 誓いの刻印編
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11・迎撃

――PM12:45 明星高校 校庭――

 校庭に突如、惑星が出現した。土性A級広域干渉系術式マルス。校庭にいた生徒達はもちろん、侵入し待機していた銃装大隊の隊員も驚いている。


「そこにいるんだろ。さっさと出て来いよ。それとも無抵抗なまま、一網打尽にされたいのか?」


 発動させたのは飛鳥だ。右手にはリボルビング・エッジが握られている。

 既に自分達の存在に気付かれていたことに驚いたが、同時に軍人、刻印術師でもある。隊員達はすぐさま飛鳥へ刻印術を発動させた。だが飛鳥のマルスによって隆起した土の壁によってことごとく防がれている。それならばと対象を残っていた生徒に変更したが、飛鳥がそれを見逃すはずがない。


「先輩、俺の後ろから出られますから、急いでください。それから生徒会や術師に、侵入者がいることを伝えてください」


 もしかしたら同級生だったかもしれないが、どっちでも構わない。この場を離れてもらうことが最優先だ。危険だという理由もあるが、それ以上に人を殺す現場を見られたくはない。全員がこの場から離れたことを確認すると、飛鳥はマルスを攻撃系へと切り替えた。


「お前達が何のために来たのか、そんなことはどうでもいい。お前達は既に俺の敵なんだからな!」


 同時に放たれた飛鳥の殺気に、一流の術師達が怯んだ。それを見逃す飛鳥ではなく、マルスによって生成された岩塊や金属の刃によって、校庭は瞬く間に制圧された。飛鳥は結界内の銃装大隊全員の命が消えたことを確認すると、死体ごとマルスを圧縮させ、消滅させた。


「手応えがない。陽動か?だとしたらどこかに本命がいるはず……!」


 嫌な予感を覚えた飛鳥は、マルスを解除すると同時に雪乃に連絡し、ドルフィン・アイを発動させた。


――同時刻 明星高校 刻錬館裏 材木座海岸――

 同じ頃、材木座海岸に通じる刻錬館裏の通用路では、真桜がブレイズ・フェザーを手にし、ニブルヘイムを発動させていた。


「なんでこんな所に銃装大隊がいるのかは知らないけど、そっちがその気ならこっちも遠慮はしないよ。勇輝さんの仇だしね!」


 ニブルヘイムによって巻き上げられた海水が雨のように降り注ぎ、打たれた場所から凍り付く。さほど時間をかけずに氷の像と化した隊員達は、同時に発動させていたムスペルヘイムによって完全に焼滅した。

 だが真桜も、手応えがないことに疑問を覚えていた。


「なんで?銃装大隊がこの程度なはずないのに……。もしかして、囮なの?」


 だが今はそれどころではない。真桜踵を返し、刻錬館へ急ごうとしていた。


――同時刻 明星高校 校舎裏――

「しつこい男は嫌われるわよ。もっとも、あんた達みたいなテロリストに好意を持つ人なんていないけどね」


 校舎裏では、さつきがヴィーナスによって場を制圧していた。死体は風に乗り、骨も残さず消えている。


「囮ってとこかしら。本命は……まさか雪乃?」


 雪乃のワイズ・オペレーターは希少な能力を持つ。過激派が狙っても不思議なことはなにもない。むしろ当然だろう。精神干渉系術式で洗脳すれば、自分達に忠実な僕とすることも可能なのだから、過激派が考えないはずはない。さつきは風紀委員会室にいるであろう雪乃を守るため、急いでその場を立ち去った。


――同時刻 明星高校 校門前――

「何とか間に合ったか」


 校門前には一台の車が止まっていた。雅人の愛車だ。雅人は車内からジュピターを発動させ、今にも侵入しようとしていた銃装大隊を焼き尽くした。


「すまない。こんなことに付き合わせてしまって」

「構わない。事態は最悪の展開を迎えてしまった……。もはや避けることは難しい……。だが何故、あの二人を?まだ学生だろう?」


 助手席に座っていたのは星龍だった。中華連合に不穏な気配があると知らされた雅人は、星龍の護衛任務を下された。そのために彼を迎えに行っていたのだが、鎌倉に入った瞬間、大河から銃装大隊が明星高校を取り囲んでいるという連絡が入った。星龍の護衛も優先度は高いが、雅人にとっては飛鳥を守ることが最優先事項だ。事情を聞いていた星龍も、すぐに賛成してくれた。そのため雅人は愛車を飛ばし、明星高校へ急いでいた。それは間一髪のところで間に合ったと言える。


「……あの二人なら、この事態を回避することができるかもしれないからだ。本当ならばそんなことはさせたくないんだが……」


 あの二人――飛鳥と真桜がただ者ではないことはわかっている。だがソード・マスターにそこまで言わせるなど、星龍には信じられなかった。


「どういうことなんですか?」


 乗っていたのは星龍だけではなかった。丁度志藤、安西、聖美の3年生術師がリア・シートから降りるところだった。


「機密事項だから教えることはできないが、一つだけ言えるのは、まだみんなは二人の本当の力を見ていないということだ」

「へ?」

「まだ見てないって……だってあの二人、融合型の生成者なんですよ!?まだ何かあるんですか!?」

「悪い。俺が言えるのはそこまでだ。それより急ごう。こいつらはおそらく囮だ。本命は必ず近くにいる」

「異存はない。私も微力ながら、協力させてもらう。連盟には恩義がある。恩は返さなければならないからな」

「それはこっちのセリフだ。すまないが頼む」

「そうでした!飛鳥と真桜ちゃんのことも気になるけど、今はそれどころじゃなかった!」

「三人とも、まずは三条の安全を確保してくれ。宮部と西谷から漏れてる可能性がある」

「わかりました!絶対に雪乃は、過激派には渡しません!」


 志藤、安西、聖美は風紀委員会室へ向けて走り出した。


「では星龍さん。俺達も行きましょう」

「ああ。君の指示に従おう。頼む」

「こちらこそ」


 雅人と星龍も車を降り、校内へ走り出した。


――同時刻 明星高校 刻錬館――

 真桜は海岸付近の敵を掃討するため、この場から離れている。それを狙っていたのだろう。刻錬館にも刻印銃装大隊が現れていた。


「過激派……!真桜がここから離れるのを待ってたのね!」

「数が多い……!どこからこれだけの人数を!」

「考えるのは後!今はここにいるみんなを守らないと!」


 雪乃から連絡が入ると同時に、真桜は海岸へ向かった。まどかと久美も、雪乃を護衛するために風紀委員会室へ向かったため、この場にはいない。今刻錬館にいるのは、美花、さゆり、香奈だけだ。


「小娘が三人……対象者だな」

「閣下のご命令だ。あまり時間をかけることはできんぞ」

「わかっている。本来ならば使う必要はないが、この国のためだ」


 銃装大隊の隊員は総勢八名。だがその内三人が刻印宝具を生成した。剣が一人、銃が二人。だが形状は問題ではない。刻印宝具を生成したという事実が重要だ。


「生成者!それも三人も!」

「……さゆり、香奈先輩!私が時間を稼ぎます!その隙に!」

「ここじゃ美花の適性が活かせないけど、それしかないか……!」

「ごめん、お願い!」

「はい!」


 美花もさゆりも、そして香奈も、ここ数ヶ月に立て続けに起こった事件に巻き込まれたため、不本意ながらもそれなりの実践経験を積んでいる。だから機先を制する以外勝機はないことを、三人とも悟っていた。


「なっ!?」

「イラプションだと!?あの小娘は術師ではなかったはずだぞ!」

「隙ありよ!」


 美花のイラプションは溶岩を生み出し、同時に火山弾が生成者達に向かい降り注ぐ。予想外のA級術式の発動に、銃装大隊の生成者達も驚きを隠せていない。

 そこにさゆりのラウンド・ピラーが発動し、溶岩を纏った土の柱が次々と隆起している。同じく香奈の水性B級広域術式フロスト・イロウションによって発生した霧の霜が、溶岩との相応関係によって大規模な水蒸気爆発を起こした。予想外の多重術式によって、五人の隊員は重傷を負い、戦闘不能となっていた。だが生成者の三人は無傷ではないが、生体領域によって守られていたようだ。


「……イラプション、ラウンド・ピラー、フロスト・イロウションの多重積層術か。ただの小娘だと思っていたが……」

「油断する方が悪いのさ。だがおかげで俺達の仕事が増えたな。余計な手間をかけさせてくれる」

「やっぱり生成者は無理か……!」

「だけど無傷ってわけじゃないわ。時間さえ稼げれば、誰かが来てくれる!それまで何とか……!」


 雪乃から百人近い銃装大隊が侵入していると連絡は受けた。生成者がいるという話も聞いている。真桜達も生成者と相対しているはずだから、援軍に来るとしても時間はかかるだろう。だがその時間を稼げれば、飛鳥、真桜、さつきの誰かが来てくれる。


「ですね……!それにこいつらをここに止めておけば、校内での被害も減りますし!」

「そういうことね。ちょうど三対三、って言いたいけど、向こうは全員生成者、対してこっちの術師はさゆりだけ」

「しかも私、宝具生成はできませんからね。どう考えても不利ですよ」

「それは考えちゃダメよ。誰が相手でも、絶対に退けないんだから」

「ええ。それじゃ美花、お願い!」

「はい!」


 美花は組み込まれているもう一つの火性A級広域対象術式ムスペルヘイムを発動させた。


――同時刻 明星高校 一階渡り廊下――

 連絡路は二つの校舎と刻錬館、図書館をつなぐ通路であり、普段はあまり人気がない。だが今日は少し様子が違う。何故ならそこにいたのは、生徒でも教師でもなかった。


「了解!茂みの中ッスね!」


 刻錬館から出てきたまどか、久美と合流する形になったのは大河と遥だ。職員室に異常を報せ、同時に術師を探していたが、それより先に雪乃から連絡が入った。大河は雪乃から指定された場所めがけて、携帯型刻印具を銃形態に変形させストーン・バレットを発動した。


「くっ!なぜ俺達がここにいるとわかった!?」

「テロリストごときに教える必要性は感じられないな」


 遥もまどかも、そして久美も刻印具を構えている。


「テロリスト?国を守る我々刻印銃装大隊にそんな口を叩くとは、とんだ命知らずだな。まあいい。ただの人間ごときに、我々の崇高な理想など理解できまい」

「する気もないわよ」

「それにどこが崇高な理想だよ!そんなお題目掲げる奴らが、学校を襲うわけねえだろうが!」

「理想には犠牲が付き物だ。もっとも刻印術師でもない人間など、犠牲にすらならんがな」


 この場の刻印銃装大隊は総勢七人。その内の四人が刻印宝具を生成した。どう考えても不利だ。


「生成者が四人も!?さすがにこれは……」

「キツいのはわかってる。だが放置するわけにはいかないだろう」

「せめて私が生成できれば……!」

「焦るな、水谷。焦って生成できるなら、とっくに術師全員が生成者になってる」

「わかってるけど……さすがにこの状況じゃね……!」

「佐倉、水谷。お前達が頼りだ。頼むぞ!」

「了解!」

「はい!」

「ほう、面白そうだ。ただの人間が生成者相手にどこまで持ちこたえられるか、試してやろう」

「余裕かましてられんのも、今の内だけだ!」


 A級刻印術は美花の刻印具だけに組み込まれているわけではない。夏休みに、大河の刻印具にも一つだけ組み込まれた。源神社では何度か試させてもらっているが、大河はあまり使いたくなかった。だが今はそんなことを言っている場合ではない。

 A級術式は惑星型、世界樹型、そして自然型の三種に分類される。美花のイラプションも自然型だ。大河は組み込まれている土性A級広域系自然型術式マテリアルを発動させた。


「なっ!?」

「馬鹿な!マテリアルだと!?」


 マテリアルは領域内の土を振動させる。それによって起こされる揺れは、巨大地震にすら匹敵する。地面は陥没、隆起、液状化など、あらゆる現象を引き起こす。

 だがマテリアルの恐ろしさはこれだけではない。聖書では人類の祖アダムは、土から作られたとされている。そのため肉体を構成する物質も土属性に相当する。七種の属性中、無属性を除くと土属性のみが物質を生み出している。マテリアルが作用するのは大地だけではなく、人体や装備にまで影響を与えている。

 既に三人の非生成者はマテリアルによって大きなダメージを負っている。その隙を逃さず、遥のクリムゾン・レイが貫き焼き尽くす。まどかのトルネード・フォールが刃となり吹き荒れる。久美のミスト・アルケミストが極低温の冷気で周囲を凍てつかせる。非生成者だった三人の隊員は見るも無惨な姿となり、まだ発動中のマテリアルによって倒れ、突き上げられ、崩された。


「くっ!まさかマテリアルを使うとは……!」

「だが待て。あのガキ、宝具を生成したわけではなさそうだぞ」

「なんだと?だが刻印具も壊れてないぞ」

「確かに……。まさか、新型なのか?」


 さすがに生成者は術師本人と刻印宝具の生体領域の相乗効果によって、大きなダメージは受けていない。身体を振動させられたことによるダメージは軽くはないが、行動不能というわけでも、ましてや戦闘不能というわけでもない。同時に大河の刻印具に興味が湧いた。銃装大隊は過激派であり、その過激派がテロリストと内通していた事実から、術式許諾試験の受験資格を剥奪されている。B級術式は刻印具があれば使用可能なため、剥奪される前に多くの隊員が試験を受け、正式なライセンスを入手しているが、A級術式のライセンスを入手した隊員はいない。資格を剥奪される前に受けた者もいるが、難度が高いために合格することができなかったのだ。


「あれが新型の刻印具だとすれば、後で役に立つだろう。A級に興味などないが、量産されでもすればこちらにも脅威となり得るからな」

「うむ。閣下の、そして我々の理想のためにも、あの小僧の刻印具は必要だ。殺すのは構わんが、壊すなよ」

「了解!」


 銃装大隊は刻印術師優位論者の集団でもある。国から解体命令が出ているが、そもそも優位論者は日本という国を信用していない。国を動かし、守っているのは自分達だと頑なに信じている。だから国の命令より南の命令を優先する。そのためならば仲間内で術式の横流しもするし、テロリストを利用して国力を弱めることも些細なことだと考えている。国を動かし、守っているのだから、その程度のことを問題にする方がおかしいと心の底から思っている。


「やっぱり佐倉君の刻印具に目をつけたわね……!」

「そりゃそうだろ。A級が使える刻印具なんて、佐倉と真辺のだけなんだからな。この分だと真辺のも狙われてそうだが」

「でも救援に行く余裕はありませんよ」

「だな。むしろこっちに救援に来てほしいぐらいッス」

「無理だろう。立花先輩が登校してくれてただけでも、運が良かったんだからな」

「まったくよね。それより来るわよ!」

「なるべく一人になるなよ!二人一組になって迎撃するぞ!」

「はい!」


 遥は一人になった瞬間、狙われるだろうと予想した。だが相手も四人。自分で言っておきながら、それが難しいだろうことは理解できていた。

 大河も同じ考えだが、反対する理由もないし、するつもりもない。風紀委員は二人一組で巡回をしているため、互いの適性はよく知っている。1+1=2ではない。相乗効果、相応関係を利用し、3にも4にも、場合によっては5以上にまで引き上げる。遥とまどかは左右に散り、再び大河のマテリアルと久美のミスト・アルケミストが発動していた。

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