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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第六章 前世の亡霊篇
108/164

11・進展と不義の末路

――西暦2097年10月23日(水)PM12:50 明星高校 生徒会室――

「どうしたんだ、田中?」

「昼休みに召集をかけるなんて、何か問題でもあったの?」


 ある日の昼休み、生徒会は急遽かすみから召集を受けた。


「あったの。今度の展示なんだけど、源義経が奉納したとされる、国宝の赤糸威鎧あかいとおどしのよろいも展示されることになったのよ」

「マジか!?」


 確かに緊急事態だ。既に唐皮、盾無という国宝が展示されることが決定しているのに、さらに増やすなど勘弁してもらいたい。


「それって確か、義経が八艘飛びした時に身に付けてたって言われる鎧だよな。何でそんなものまで?」


 歴史研究部にも所属している壮一郎は、どうやら知っていたが、義経が前世ではないかと考えられている飛鳥は知らなかったらしい。


「源氏と平家なら頼朝と清盛だけど、どちらも義経抜きには考えられないかららしいわ」

「確かにどっちとも因縁が深いが、だからって国宝まで持ちだすことないだろ」

「学園祭なんだから、レプリカでも十分よね」


 まさにその通りだ。記念祭ではあるが、ただの高校の文化祭なのだから、レプリカであっても大騒動になりそうなものだ。


「唐皮と盾無が本物である以上、赤糸威も本物であるべきだって、奉納された神社の神主さんが仰ってくれたそうなの」


 ありがたいし、話の分かる神主さんだが、こちらとしてはいい迷惑だ。さすがに善意で提供してくれるのだから、そんなことを口には出さないが、誰しもが同じことを思っていた。


「確かに唐皮も盾無も国宝だが……また増えるのかよ」

「確か赤糸威は、愛媛県の神社に奉納されてたな」

「さすがよく知ってるわね。じゃあ盾無と唐皮が、何度も修繕や修復を繰り返されてたことも、知ってるわよね?」

「そりゃな」

「え?そうなの?」

「源頼朝の盾無は黒糸威くろいとおどしだったと言われているが、国宝として山梨県の菅田天神社かんだてんじんじゃに奉納されている盾無は、小桜韋威こざくらがわおどしという造りらしい。確か武田家が奉納したはずだ」


 口を挟んだのは壮一郎だが、いくら歴史研究部だとはいえ、ここまで詳しいものなのだろうか?


「よくわからんが、つまり奉納するために、造りを変えたってことか?」

「そう言われている」

「よく知ってるな、んなこと」

「俺の得意分野だからな。三条先輩みたいに、前世論に手を出そうかと考えてる」


 壮一郎が雪乃に惚れていることは、実はけっこう周知の事実だったりする。だがライバルも多い。公言してる輩はともかく、水面下にいるであろうライバルの存在の方が厄介だろう。


「じゃあ唐皮は?」

「それは文化庁が保管してたはずだ。壇ノ浦の戦いで失われたと言われているが、唐皮を纏っていたとされる平宗盛は、義経に捕らえられたらしい」


 こちらも簡単に答えた。時代的にも人物的にも、飛鳥の前世と思われる源義経に関係が深いのだから、実は既に前世論に手を出しているのではないかとも思える。


「それなら多少は知ってるな。確か宗盛って、言っちまえばバカ殿ってやつで、清盛の正室の子だから平家の棟梁なったらしいな」

「そう言われてるね。だけど本当は思慮深い人だったらしいよ。弟の知盛に比べると、武将としての器はなかったみたいだけど、政治家としての器はあったんじゃないかって評価されてる」


 だが学年一の秀才として、向井も負けてはいない。宗盛の評価は高くはない。むしろバカ殿に近い評価が多いだろう。だが向井は、その表層だけが流布している宗盛の人物像について、さらに詳しい情報を仕入れていた。


「じゃあ唐皮は、その時に義経が手に入れてたってこと?」

「それがよくわからないんだよな。近畿地方のどこかの神社に奉納したが、応仁の乱で失われたとも言われてる鎧だから、どんな経緯で文化庁が手に入れたのか、さっぱりわからん」


 だが問題の唐皮は、文化庁が入手するまでの経緯が微妙だ。壇ノ浦に沈んだとも言われているため、現在国宝指定されている唐皮が本物なのかどうか、誰にもわからない。


「唐皮は虎の毛皮で威した鎧らしいんだけど、当時の日本じゃ珍しいものだし、桓武天皇が内裏の御宝としていたっていう事実もあるから、朝廷が保管してたんじゃないかしら?」

「朝廷を乗っ取ろうとしてた平家棟梁の鎧を、当時の朝廷が飾ったりするかね?」


 かすみの疑問に、迅が疑問を返したが、それももっともな話だ。神仏や魑魅魍魎の類が信じられていた時代だし、縁起という意味でも良いとは言い難い。


「密かに平家の末裔が受け継いでいた、って線もなくはないんじゃないかしら?」

「唐皮は不動明王の七領の一つとされてるから、朝廷が保管しててもおかしくはないと思う」


 もはや生徒会というより研究会の様相になってきている気がするが、そこに響と飛鳥も参戦した。飛鳥の言う不動明王七領ふどうみょうおうしちりょうとは、不動明王が所有していたとされる七つの鎧のことで、唐皮は天から降ってきた兵面という鎧のことを指す。不動明王は悪を降伏するために降臨すると言われる大日如来だいにちにょらいと同一視されることもあり、当時の朝廷が手に入れた場合、祟りを恐れるあまりどこかの神社に奉納することはあるだろうが、破棄するなどということは考えにくい。


「だから神社に奉納されてるんじゃなく、文化庁が保管してるってか」

「ありえるな。いずれにしても、どれも間違いなく本物だってことで、ほとんど一般公開なんてされなかった代物だから、外部から見に来る人は多いってことだな」


 響の予想が一番あり得ると思った迅と飛鳥だが、誰の説明が正しかろうと当日見に来る人が多いことは確定しているので、そちらが気になっていた。


「土地柄、源氏には縁があるものね。飛鳥君のところや鶴岡八幡宮もそうだし」

「祭神は違うが、市内の神社はほぼ全部だな。ところで、それらはいつ到着するんだ?」

「前日の放課後に搬入されて、展示されることになってるわ。私達はそれを確認してから帰ることになるわね」

「つまり、一足早く拝めるってわけね」

「役得だな。で、警備は?」

「国宝ばかりだから、警察が厳重に警戒してくれることになってるわ」

「全国から、生成者を多数召集するらしいよ」

「おっかねえことしやがるな」

「春の事件の汚名を返上する機会としても、ちょうどいいからだろ」

「物が物だけに、国家権力も威信かけてるな」


 春の警察官による不正術式供給事件によって、警察の信用は地に落ちていた。だから明星祭の警備は、警察当局も威信をかけている。四刃王の柴木をはじめ、全国各地から生成者を召集するのも当然だろう。


「なら俺達は、そっちには手を割かずに済みそうだな」

「安心してるなよ。どれだけの数が派遣されるかはわからねえけど、お前らが無関係でいられるわけねえだろ」

「やっぱりか?」

「そりゃそうでしょ」

「むしろ頭数に入ってなきゃ、おかしいわよね」


 安心した飛鳥だが、委員長達にその甘い考えを、即座に否定された。


「警備に関しては、後日柴木署長がお見えになるから、その時に打ち合わせをすることになってるわ」


 かすみも追い打ちをかける。展示される物が物だけに、飛鳥達が無関係であるはずがないということはわかっていたから、この件も既に決定していたらしい。


「場所は?」

「ここよ。名村先生と一ノ瀬先生も来るから、特にさゆりには、絶対に逃げないように釘を刺しておいてね」


 一ノ瀬先生こと準一は、さゆりの実の兄だ。だがまだ誰にも刻印法具を見せていないため、特に妹から刺すような殺気を向けられることが多いそうだ。その兄と一緒に警備ということになるので、妹は逃げだすというよりサボるのではないかと疑われていた。


「了解。生成者だけでいいのか?」

「ええ」

「生成者って、苦労が絶えないもんなんだな」

「普通の高校生活を送るはずだったんだがなぁ」


 刻印術師ではない亨の、何気ない一言だが、飛鳥としてもこれは予想外だった。本当に普通の高校生活を送りたいと思っていたし、そのつもりだったのだから、今まで巻き込まれた事件は、予想すらしていなかった。


「普通とは真逆よね」

「そんな星の下に生まれたってことでしょうね」


 刻印術師ではない亨の、何気ない一言だが、飛鳥としてもこれは予想外だった。本当に普通の高校生活を送りたいと思っていたし、そのつもりだったのだから、今まで巻き込まれた事件は、予想すらしていなかった。


「それから宿泊研修なんだけど、名村先生が二校、一ノ瀬先生が一校ピックアップしてくれたから、こっちも決まったわ」


 だが昼休み中に話を終わらせたかったので、話題を宿泊研修へ切り替えた。


「お、決まったのか。どこなんだ?」

「名村先生が推薦してくれたのが県立福岡高校と県立下関高校。一ノ瀬先生の推薦が私立天草学園高校よ」

「公立が二つとか、よく受けてくれたな」


 公立は市町村や県、国立の学校なので、けっこう規則が厳しい。さらに刻印術に関しては、教育委員会によってある程度の自由は認められているものの、基本的にどこの学校も大差ないことしか教えていない。


「逆に公立だから、断り切れなかったみたい。問題は天草学園高校ね」

「あそこって、うち並に刻印術に力入れてる学校よね。確か、三華星の秋本光理の出身校じゃなかったかしら?」


 三華星の一人 秋本光理は、天草学園高校のOGだ。そのせいかはわからないが、天草学園高校は明星高校に匹敵、あるいはそれ以上の密度で刻印術を学ぶことができる。どの学校も、受験では定員に達することがなくなった昨今、天草学園は前述の理由から毎年定員オーバーしており、涙を飲む中学生も少なくない。


「そうよ。だから秋本さんが、今から指導に行ってるんですって」

「なんでか、泣けてくるな……」


 その光理は、今回の明星高校宿泊研修の対抗試合が決まった瞬間、母校へ足を運び、後輩達を鍛えている。そもそも準一に紹介したのが光理なのだが。


「ちなみに福岡高校はサッカーと柔道、下関高校は野球とバレーボールで全国優勝したことがある強豪だよ」

「って言われても、公立の授業って、系統ごとにわかれちゃいねえだろ?」


 向井の補足説明で、他の二校も強豪だということはわかった。だが迅の言うように、公立の高校は系統ごとに刻印術を教えてはいない。


「今年になってからだけど、関西や九州は取り入れてるわ。無系はどうしようもないけど」

「なら、探索系の授業はあるってこと?」

「天草学園は今年から取り入れたそうです。だから試合形式によっては、不利になるかもしれません」


 だが西日本は、今年から授業方式を変更していた。意外だが、探索系も選べるようだ。


「不利ねぇ」

「なんだよ?」


 だが壮一郎は、その程度で不利になることはないと確信していた。その証拠に、視線の先には飛鳥がいる。


「確かにサバイバル戦なら不利と思われるかもしれんが、探索系ならこっちだって負けちゃいねえだろ。質が違いすぎる」

「そうよねぇ。だって三上君、今もソナー・ウェーブ使ってるでしょ?」

「えっ!?」


 驚いた駆だが、先輩方は誰も驚いていない。どうやら、気づかなかったのは自分だけのようだ。


「さすがにバレるか。念のため展開させてただけなんだが」

「もしかして……いつも使ってたんですか?」

「ああ。半分は癖みたいなもんだけどな」


 飛鳥が探索系を日常的に展開させるのは、中学時代までも何度か直接命を狙われたことがあるからだ。その頃は雅人やさつきだけではなく、一斗や菜穂、そして勇輝もいたが、それでもいい気持ちではない。だから飛鳥が探索系を使い、自分と真桜を狙う輩がいないかを確認することは、ある意味では当然だった。


「癖って……」

「その時点で、普通とはかけ離れてるわよね」


 だが事情を知らない生徒会からすれば、探索系を常日頃から癖で使うような事態は想像しにくい。


「しかもかなり精巧に展開されてたから、私も最近まで気付かなかったわよ」

「こんな精度で毎日校内を監視されてるんだから、そりゃ暴れるバカも減るわよね」


 飛鳥だけではなく、雪乃、さゆり、美花が探索系に適性を持っていることは、校内で知らない者はいない。特に美花は刻印術師ではないため、飛鳥達三人以上の評価を得ている。これも美花の人気の高さに一役買っている。


「対戦形式はまだ完全に決まってないけど、こちらに生成者がいることは向こうも知ってるから、相手に有利な状況で始まることになってる」

「こいつらがチームにいなくてもか?」

「そうだよ」

「開始時点で不利とか、キツいな……」


 だがそこに、唐突にハンデが告知された。生成者を相手にするわけだから、ハンデがあるのは仕方がない。だが生成者がいなくてもハンデがあるとは予想外だ。


「生成者がいれば、さらにハンデが課せられるわけだから、それぐらいは仕方ないと思うよ」

「おいおい……」


 生成者の戦闘力は、後方支援タイプであっても強大だが、術式の組み方や積層術によっては倒すことも不可能ではない。壮一郎は、さすがにこいつらが相手ではほぼ不可能に近いと思っているが、ルールよっては生成者の存在そのものがハンデになるのではないかとも思っている。どうやら似たようなことを考えている役員もいるようだ。


「まだ詳細は決まってないそうですが、こちらには当日まで教えてもらえないそうです」

「そこまで露骨なハンデ作るのかよ」


 迅が呆れたように溜息を吐いた。だが口ではそう言いながらも、おそらく飛鳥をはじめとした風紀委員生成者は、単独でもひとつの高校を殲滅することは難しくないだろうし、もしかしたら連盟も出てくるのではないかとさえ思える。


「これじゃ選手の選考も難しいわね。試合形式が決まれば、さすがに最低限のことは教えてもらえるんでしょうけど」

「だな。さすがに当日までわからなきゃ、選びようがない」

「そうなのよね。当日まで詳細を伏せられるだけで、かなりのハンデだから、試合形式も選手選考も、まだ未定としか言いようがないわ」

「だな」


 例年であれば、この時点で試合形式や出場選手の人数が通達される。だが今年はそれすらないのだから、選手を決めることすらできない。術式試合でも術式戦闘でも、チームワークが重要になる場合が多々あるため、もしかしたら直前まで練習や模擬試合すらできないのではないかとさえ思える。


「こいつらに丸投げするにしても、例年通りならけっこうな人数がぶつかるから、ちょっとキツいか?」

「去年を見る限りじゃ、三上君と真桜なら問題なさそうじゃない?」

「だとすれば、水谷さんもいけるんじゃないかしら?」

「井上と一ノ瀬も、突破力が半端じゃないからいけるんじゃないか?」

「待て。なんで俺達が出ることが確定してるんだ?」


 出場選手の選考さえできない状況だが、それでも候補を決めておくのは当然だ。だが生徒会が候補に挙げているのは、生成者オンリーだった。さすがに飛鳥も、黙ってはいられない。


「そらお前、当日まで詳細を教えてもらえなかったら、こっちも最終手段をとるしかないだろ」

「高校同士の対抗戦なんだぞ。そんなことしたら、交流試合そのものが意味なくなるじゃないか」


 確かに当日まで選手を決めることができなければ、一騎当千の猛者を送ることになるだろう。だがそれは、相手からすれば最悪の手段だ。交流試合は切磋琢磨して互いの刻印術の技術向上を目的としているのだから、そこに高校生どころか世界最強と混じって行動してる連中が出場するのは、ルール違反以外の何物でもないだろうし、交流試合の意味そのものがなくなることになる。


「でも本当に最悪の場合は、それしかないわよね」

「田中まで……」


 かすみまでもが、その場合は止むをえないと思っていた。確かに交流試合の意味はなくなるだろうが、一流の生成者と試合う機会は滅多にない。実力差が激しかろうと、経験になることは間違いない。


「だけどそんなことになったら、こっちが生成者を中心にチームを組むってわかっちゃうと思うわよ。だから当日まで試合形式や参加できる選手の人数を伏せておくってことはないと思うの」

「でしょうね」


 だが同時に、そんないかにもバレバレなことはしないとも思う。


「問題なのは、どこの誰が決めてるかだよな」

「それは確かに。いつもは各校の先生達がオンラインで話し合って決めてたわよね?」

「ええ。去年はそれに生徒会長も加わったそうよ」


 一昨年までのルールなどは、各校の術師教員と1,2年生の学年主任がオンライン会議で決めていた。生徒の安全を考慮する必要もあるし、選手に事前に内容を知られないようにするためという理由もあった。だが去年は、当時の会長達も話し合いに参加していた。教師より生徒会長の方が出場選手のことをわかっているだろうことと、自主性を育むことも目的とされたからだ。


「会長って、竹内先輩か?なんでだ?」

「確か去年は、教頭先生がいたんじゃなかったっけ?」

「その西谷教頭が、会長を加えるべきだって発案したの。赴任されたばかりの自分より、生徒会長の方が生徒のことをよくわかってるだろうからってことで」


 だがそこで西谷の名前が出てくるとは思わなかった。飛鳥の表情が険しくなるのも、無理もないことだろう。


「なるほどね。そういえば教頭先生って、どこに転任したの?」

「そういやあいつ、神槍事件前後でいなくなったな」


 だが生徒会は、西谷が過激派の一員だったことは知らないし、何より普通にいい先生だったと思っていたから、飛鳥も真相を告げるべきか迷った。


「飛鳥君、どうかしたの?すごく険しい顔してるけど……」


 だが迷いだけではなく、殺気もわずかに漏れてしまっていたようだ。怯えた視線がいくつも飛鳥に突き刺さってくる。


「西谷は神槍事件前に、俺とさつきさんが粛清した。過激派の一員だったからな」


 だから飛鳥は、真相を告げることにした。


「過激派だぁっ!?」

「しかも粛清済みかよ!!」


 さすがにこれは生徒会も予想外だった。過激派が何をしたか、何をしてきたかはよく知られているし、何より壊滅した今もってテロリスト扱いされているのだから、あの温厚な西谷教頭がそのテロリストの一員だったとは信じられなかった。


「ああ。その事実を知ったのは偶然だったから、俺が行くことになったんだ」


 だが飛鳥にとって、相手が誰であろうと、過激派に組していた以上、完全なる敵だ。母 三上優美、真桜の父 久住怜治、従兄の立花勇輝、そして前生徒会副会長 神崎優奈の家族と、過激派によって命を奪われた者は、身近であっても数多い。そんな過激派、しかも中央に近い存在だったのだから、飛鳥が許す理由は何一つなかった。


「偶然ってことは、連盟も知らなかったってことなの?」

「残念ながらな。それに教育委員会や文部科学省の調査も潜り抜けたわけだから、あんまり表沙汰にできなくて、急遽転勤ってことにしたらしい」

「確かに教育委員会とかはともかく、連盟の目まで潜り抜けるって相当よね」

「それも過激派が絡んでたってことか。確かにそういことなら、お前が出張るのも仕方ないか」


 西谷が連盟の目を潜り抜け明星高校に赴任できた理由は、直接の上司でもあった宮部敏文が関与していたからだ。表舞台にあまり顔を出さなかった宮部は、そういった裏工作を数多くこなしていた。もちろんトップである南徳光の命令だが、ほとんど完璧に任務をこなしていたのだから、あの日雅人が粛清しなければ事態はまた違っていたと言われている。

 だがそこで予冷が鳴ってしまった。


「おっと、予鈴だ。それじゃここまでだね」

「まだ話途中なのに、タイミング悪いわね」


 選手選考の話をしていたはずなのに、いつの間にか前教頭にして過激派の一員だった西谷の話になっていたのだが、まだ話の途中だった。さすがに全てを語ったわけではないが、それでもキリがいいとは言い難い。


「話せる範囲になるけど、放課後に話すよ」


 それは飛鳥も同意見だったから、続きは放課後に話すことにした。


「そうね。それじゃ続きは放課後。と言っても、私の話はあらかた終わっちゃったから、後は各クラスやクラブの進行状況を教えてもらうぐらいかしら」

「了解。そんじゃまた、放課後にな」

「ええ」

「それじゃ、解散します」


 後味の悪い終わり方だが、かすみの号令によってこの場は一時解散となった。

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