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七つの鍵の物語シリーズ

七つの鍵の物語 『生贄』

作者: 上野文

 むかしむかし、あるところにとても凶暴な竜が住んでいました。

 彼の鋭い牙は兵士達のよろいをつらぬき、真っ赤なうろこは槍や剣をはじいてしまいます。

 竜は砦をおそって壊したり、お金持ちから宝物をうばったり、女の人に言い寄ってハレンチなことをしたり、散々にあばれまわりました。

 困った兵士達は、身寄りの無い女の子をイケニエとして差し出すことにしました。

 竜は町から女の子を連れ去って、洞窟へ帰っていきました。

 人々は安心しました。ああ、これで竜が女の子を食べている間、町が襲われることはない。……と。

 けれど、納得のいかない者もいました。

 自分よりも弱いものをさしだして笑うことが、一人の女性にはどうしてもできなかったのです。

 勇敢な女性は、竜の住処である洞窟へと乗り込みました。

 仕掛けられた罠を踏み越え、洞窟にすむ怪物達を叩きふせ、たどり着いた洞窟の奥深くに、なきじゃくる女の子を必死でなだめる竜の姿がありました。


 竜は、巣にやってきた女性に向かって、怒鳴りました。


「おい勇者。子育てってどうすんだよ。栄養とかわかんねーよ。どんな服を着せればいいんだよっ」


 勇敢な女性はにっこり微笑むと、問答無用で竜をぶん殴り、彼の頭に噛み付きました。

 めでたしめでたし。



 揺り椅子に腰掛けたおばあさんが、絵本の最後のページをめくりました。

 輪になってお話しを聞いていた孫達が不満そうに声をあげます。

 おわってない。どうしてめでたしなのかわからない、と。

 

「ごめんね。おばあちゃんも、この物語の終わりは知らないの。でも、物知りのベルさんなら、知っているかも」


 ベルさんは、昔からお屋敷で働いているお手伝いさんです。

 彼女を探して、子供達は居間を飛び出しました。

 ひとりのやんちゃな男の子が、台所でスープを煮込みながら、食器を洗っている女中服を着た女性を見つけました。

 ねえねえベル。

 いけにえの女の子はどうなったの?

 竜と勇者さんはどうなったの?

 口々にたずねながら、子供達はベルさんのエプロンにしがみつきます。


「いけにえの女の子?」


 子供達の問いかけに、彼女は小首をかしげ、やがて得心したとばかりに頷きました。

 遠い遠い昔、絵本作家になった彼女の家族が書いた古い古い物語。

 それは真実とは違ったけれど……。


「そうね。きっと、みんな、幸せだったんじゃないかしら」


 そう言って、ベルさんは、子供達に優しく微笑みました。



                     ― FIN ― 


拙作をお読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 評価間違えて4になってました。(-_-;)
[良い点] 勇敢な女性は龍より強し!
[良い点] 女の子はどうなったんですか。なんか竜がかわいそう
2019/10/06 02:02 退会済み
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