異世界に生まれて四年経ちました-7
投稿遅れましたすいません!!
「――俺は、虹ヶ峯翔也だ!」
がばっと起き上がる。俺は、雨野幸彦なんかじゃない。確かに、俺は虹ヶ峯翔也だった。あんなもの幻想に決まってる。
そこで、ふと周りの微妙な空気に俺は気づいた。もうあの都会の喧騒は感じられない。道行く人どころか道なんてない。そこは、静かな病室だった。真っ白な純白のカーテンが周りに張られていて、窓からは青い空が見えている。
「イルヴァ様……?」
恐る恐るといった感じでレイナが俺の顔を覗き込む。それが一瞬、あの千春とかいう奴に見えて、少し仰け反ってしまった。
俺は、そうだ。レイナの料理を食べて、倒れたんだっけか。じゃぁ、さっきの光景は夢か? 妙にリアルに脳に焼きつくこの記憶は、俺が捏造したものなのか。
俺はじっとりと汗を掻いていることに気づき、ベッドの横にかけられているタオルを手に取った。
「あ、わ、私がやりますっ」
レイナがタオルを俺から奪い取るようにして、取っていった。
そして、俺の着ている服を捲るとタオルで汗を拭き始める。
「ありがとう」
「……いえ」
レイナが俯き加減に呟いた。どうやら、あの殺人ゼリーの事で反省しているようだ。うん、良い心がけ。これからは美味しいデザート作ってなんて言わないから、せめて死なないようなものを作ってくれ。頼むぞ、レイナ。
「あの、失礼かとは思いますが」
「ん? 何だ?」
一拍間をおいて、レイナが思い切ってというように口を開く。
「――ニジガミネショウヤとは誰なのでしょうか?」
一瞬して背筋が凍る。
ヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバイ。
ただでさえ、俺の教養は一般の常識を覆している。それもそうだろう、元々俺は高校生だ。体が子供なだけである。当然、俺は数学や国語は簡単に理解出来た。理科、つまり科学というのはこの世界には存在しないのだが、代わりにあるのが魔法である。
これも、理解をするのにそう時間はかからずに出来た。
言葉も話すことが出来たし、難しい言葉もそれなりに知っている。
だが、流石にそれを全部披露してしまえば、何らかの形で疑われるのは確かだった。
故に、言葉遣いにも気をつけてきたし今の俺はイルヴァなのだから、前世の事は絶対に話さないようにしていた。
しかし、それがつい先程寝言の様な形で綻びが出てしまった。
「あー……えっと……」
「言えない様な方なんですか?」
「いや、そんな事は無いけど……」
「じゃぁ、誰なんですか? 明らかにこの国の人の名前ではありません! まさかイルヴァ様、この国を出て他の国にでも行ったのですか?」
「滅相も御座いません」
そんなことしたら、王様に嫌というほどに怒られるに決まっているからな。折角自由に身になったのに、また監禁生活になってしまう。
「では、誰なのです!?」
レイナがぐぐいっと顔を寄せる。ち、近いっ!
てか、なんでレイナはそんなに聞きたがるんだ?
「いや、つまりはそのぉ」
「もしかして、もう罪を犯してしまったのですか……?」
震える声音でレイナが呟く。
ん? 罪? 段々おかしな方向にいってる気が……。
「いや、そうじゃなくて。とにかく、言えないんだよ!」
「やっぱり!!」
レイナがヒステリックな声を上げた。な、何だ、いきなり。
「イルヴァ様! 駄目ですよ、そんな事は絶対に許しません!! そ……そんな、いくらお城での遊びに飽きてしまったからって女の子と、大人の遊びだなんて……」
おい。盛大に勘違いしていないか? どうやら、虹ヶ峯翔也というのを架空の女子だと思い込んでいるみたいだ。やっぱり、聞いたことの無い発音、アクセントだから男か女かな区別がつかないらしい。
――っていうか大人の遊びって何だよ。