異世界に生まれて四年経ちました-5
ついに、評価ptの伸びが止まりましたorz
「あら? イルヴァ様、もう戻られたのですか?」
俺が城に入ると、掃除をしていたメイドさんが不思議そうに見つめてきた。それもそうである。「外で寝てくる」といって出て行ったのが、丁度十分前。まさか、十分で寝れるなんて事はあるまい。そんな睡眠時間で生きていけるのなら、俺はきっとオンラインゲームの頂点に君臨出来ていただろう。
……そういえば、俺が前世で最後にやっていたオンラインゲーム。やっと、レベル百超えたのに……。勿体無いことしたかなぁ。
「うん。色々あって、眠気が取れたから」
「……? そうですか。そういえば、レイナ様がイルヴァ様を探しておられましたよ」
「レイナが?」
レイナというのは、この城に勤めている調理師の一人である。王族の直属調理師という事で、この国でも腕利きの調理師が起用されている。レイナはその中でも、調理長になっており言い換えれば、この国でも一、二を争う腕を持っている。
当然、夕食、昼食、朝食は全てレイナが作っているので全て美味しいのだが、困ったことにレイナにも苦手な料理が一つあったのだ。
そう、それは――。
「また、か……」
「でしょうねぇ」
露骨に嫌な顔をする俺に、メイドが哀れむような目線を送ってきた。どうしようか、このメイドに命令して食べてもらおうかな。
「もし、僕が代わってって言ったら代わりに生贄になってくれる?」
「滅相も御座いません!」
拒否かよ! まぁ、当たり前か。レイナの苦手な料理とはずばり、スイーツ。デザートの事である。俺が二歳の頃だったが、それぐらいの時にレイナ手作りのプリンを食べさせてもらったことがある。その時から、食事はレイナが作っていて、美味しいことは知っていたので俺は迷わずプリンを食べた。それはもうパクパクと。
――五秒で気を失ったけど。
「うーん、行かなきゃ駄目かなぁ?」
「別に、強制とは言われておりませんが、恐らく行かなければイルヴァ様のお部屋に拉致しに行かれるのでしょうね」
「つまり強制って事か……」
俺はため息を吐きながらも、レイナが待つ厨房へと歩いていった。
○○○○
「イルヴァ様、お待ちしておりました」
「やぁ、レイナ」
「実は、グネトラの実のゼリーを作ったので是非試食して頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
宜しくないのだが、来たのだから仕方が無い。どうせ、拒否しても食べさせられるんだし。
ちなみに、グネトラの実とは白い果実に青色の斑点が浮かんでいる大人の握り拳ぐらいのサイズの実だ。外見だけを見ればどうみても毒なのだが、味はその外見を大きく覆すほどの美味しさである。青い斑点は決して青カビが生えているわけではない。むしろ、その逆でこの部分が最も美味しい部分なのだ。極甘に、とろけるような舌触り…………決して腐っているわけではありません。
「グネトラか。それじゃぁ、勿論美味しいゼリーなんだよね?」
「勿論です。この間のような失敗は致しません」
この間の失敗。あぁ、あの溶けたフライパンの事か。
「それじゃぁ、今日は上手く出来たの?」
「はい、自信作です」
そういって、自信満々にレイラが厨房から皿に盛り付けたゼリーを運び出す。今まで、冷やされていたのか、湯気が出ていた。
外見も至って普通で、ほのかな甘い香りが漂ってくる。外見が普通と言ったが、これはグネトラの実だから普通なのであって、他の実を使ったゼリーでこんな青や白や赤色が混じっていたら、確実にノックアウトの領域だろう。
――これは期待が持てる! 形が崩れたケーキや、異臭を放つクッキーなんかとは比べ物にならない。遂に、レイナの美味しいスウィーツを食べることが出来るのか!
俺は謎の高揚感に包まれながら、ゼリーのスプーンを当てる。
――ゴツッ。
硬い感触。そして。
ピキィンッ。
「そんな馬鹿な!?」
ゼリーに刺したはずのスプーンが何故か折れていた。
まさかとは思うが、このゼリー。美味い不味いとかそういう問題じゃなくて、食べられないんじゃないのか? そうなると、次元が違ってくるんだけど……。
「あら? ちょっとデラチンの量が多かったのですかね?」
「そういう問題なのか!?」
「まぁ、ともかくお食べになって下さい」
そういうと、レイナがゼリーの皿を持って、無理矢理俺の口を開く。
「待って! お願い! 僕、まだ死にたくない!」
「大丈夫です。ゼリーなんかで死ぬほど、イルヴァ様のお体は柔ではないでしょうし」
違うんだ! 最早、そういう次元の問題じゃないんだよ!
ドスッ。
ゼリーが俺の口に落ちた。何この質量感。普通、ぷるんっとか、つるんっとかそういった効果音のはずなのに、何でこんな石が落ちたような音がするんだ!
しかし、そのゼリーは口の中で急速に溶けていく。どういう食材を使ったらこうなるんだよ!?
そして、味はといえば――。考えるまもなく、俺の意識は再び遠のいていった。