異世界に生まれて四年経ちました-3
こんばんは。
本日も宜しくお願いします。
「ロジック!」
ぐにゃり、ぐにゃりとどんどん空間が捩れていく。
ライラットの授業を受けた一時間後。俺は、早速理解したばかりのロジックを使って遊んでいた。空間を歪める、歪める、歪める。つまり、多重歪空間。それが、このロジックの効果だった。構造としては、歪めた空間を分解するといったところだろうか。
上手く説明する事は出来ないがそういうことだ。空間中位魔法にはあまり触れなかったのだが、このロジックはその中位魔法でやる、空間を歪めるという事から始まる。
まずは、魔力を全身から放出させる。それを、複雑に絡ませる事によって少しづつ空間が歪んでいく。これが出来れば、ひとまず中位魔法は成功といったところだろうか。
上位魔法であるロジックでは、その歪めた空間を分割させていく。これは、どうこうやると説明するよりも、実際にやってみないと感覚が掴めないだろう。小刻みに魔力の放出を止めたりしていくと、少し筒歪んだ空間が分かれていくのである。
これが、空間上位魔法ロジックだ。
「流石ですね。もう、完璧に使いこなせているとは……」
ライラットが心底驚いたというように、目を見開く。確かに、俺も魔法の習得って以外に簡単だなと思っていたところなのだが。これも、王族の血ってやつが関係しているのか。それとも、前世の記憶が残っていたりする、この状態のおかげなのか。
「まぁ、すぐに忘れてしまうのが残念ですが」
全く、その通りである。もっと働け俺の脳!
流石に、遊びすぎたのかそろそろ魔力が切れ始めてしまったようだ。さっきまでは、八重くらい出来たのだが、今はもう三重程度が精一杯である。
「ふぅ……ライラット。今日はもう疲れたんだけど……」
「そうですね。今日教える事は全て終わってしまったので、これで終わりにしましょうか。あ、そうそう次のお稽古は、少し違うものになるので覚悟しておいて下さい」
「少し違うもの?」
「えぇ、まぁ詳しくは言えないのですが楽しみにしておいて下さい」
俺はこの時のライラットの不敵な笑みが、酷く印象に残った。
俺が稽古場から出ると、そこにボーッと立っていたユリンが、突然エネルギー充電の完了したロボットのように動き出した。
「イルヴァ様、お稽古お疲れ様です」
その目は妙にギラギラと輝いている。そして、それに全く合わないような優しい猫撫で声に、俺は背中に冷や汗が伝わるのを感じた。
「う、うん。有難うユリン。それじゃぁ、僕は部屋に――」
適当に言い訳をして、部屋に帰ろうとする俺の手をガシッとユリンが掴んだ。
「まぁまぁ、まだいいじゃないですか」
「いやいや、本当にもう疲れてるから」
「それじゃぁ、手短に済ませましょうか――」
「えーと、ちなみに何を?」
「――第二ラウンドです」
そんな馬鹿な!? 一度は白目を剥いて倒れたというのに、これ以上続ける気か! ゾンビもビックリの生命力だよ!
予想外に怒っているらしい(というより壊れてる)ユリンが俺に一歩づつ近寄ってくる。
もうあの魔のメリーゴラウンドを体験するのは御免だ。そう思った俺は、すぐさま魔力を全身から放出させる。
つい先程習ったばかりの空間上位魔法ロジックだ。
ぐにゃりと空間が歪む。それが幾重にも重なって、俺とユリンの間の空間がぼやけていく。こうすれば、ユリンは俺の姿を正確に把握する事が出来ないし、その間に自室へと逃げ込めば後は――
グイッ。
手を引っ張られた。
「それで逃げたおつもりですか?」
ユリンが俺の手を掴んでいる。その手には、もう絶対に離さないという意思がひしひしと伝わってきた。……あれ? ロジック失敗したの?
歪んでいたはずの空間は正常に戻っていた。
「そんな……正確に手を掴むなんて出来ないは――くぷっ!?」
妙に既視感のある上下反転の光景。頭に血が上っているようなこの独特な感じ。
「理由は後で説明します。まぁ、イルヴァ様も疲れているようなので早速始めますか。TKO勝ちの宣告をします」
ドクターストップだろそれって! ていうか、この世界にもドクターストップってあったんだな。そうか、こういう人がいるからなのか。
…………。
「いやだあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
俺の声は空しくも廊下に響いただけだった――。
――後で俺の悲鳴を聞いて駆けつけた他の使用人たちが、疲れ果てて燃え尽きたボクサーのようになって倒れているのと、白目を剥いて倒れているユリンを見て頭を悩ませたのは言うまでもない。――後ほどしっかりと叱られました。
――ユリンのやつ、俺が大きくなったら絶対に……。