お嬢様 1万字執筆中
二作目です、どうぞ
「お嬢様、文字数500ってなんですか、ふざけてるんですか?これじゃ1分も満たないうちに読み終わってしまいます。あと9500文字何としても今日中に増やしてください。」
「あ、あのね執事。私そろそろ休みたいかなぁなんて思っているの。だって執筆して2時間位たっているのよ?もうそろそろ休んでアイス食べたいの。」
外では雨が降りしきる中、俺はお嬢様にペンの代わりにキーボードを打たせる。こんな状況でもお嬢様はワガママを言い、ちょくちょくスマホを弄ったり、外に出て逃げようとしたとことを捕まえたりしているが、あれから一向に文字が進まない。『1万字くらい楽勝よ、見てなさい』と言っていた時に現状を見せてやりたいくらいだ。
「小説書いて皆に作家として認めてもらいたいんでしょう?ならこれくらい頑張ってください。ほら口だけ動かしても意味ありません。黙って手を動かしてください。」
「執事のバカ!スパルタ!!人でなし!!!大体今日中に1万文字なんて無理よ!!アンタこれ終わったら覚悟してなさい!私の力で減給しますからね!!」
隣でギャーギャーわめき散らかしているお嬢様を横目に、どうやってあと9500文字書かせるか思案
する。いっそAIに書かせてみようかとも思ったが無い方が受けがいいのは分かりきっていた。やはりこのままお嬢様に執筆してもらうしかないな。ホントあの日なんであんな事言っちゃったんだろうか?いや、どのみちお嬢様に振り回される運命だったのだろうか?
俺は領主であるお嬢様の御父上から手配された部屋で椅子に座って今後の日程を組んでいると、扉の奥からけたたましい足音と同時に職人の息がかかっているであろうドアが見るも無惨に蹴破られ、驚き呆けていると、お嬢様がふざけたことを言い出してきた。
「執事助けて!このままだと私数年後には無職のニートになっちゃうの!!だからお願い、私を養ってくださいな。出来ればタワマン最上階で毎日執事からのマッサージと高級料理を毎日奢ってくれると助かるのだけれど。」
昔っからの付き合いで、毎度毎度理不尽な要求をしてくるうちのお嬢様。だが今回は毛色が少し違うらしい。普段の要求の仕方は口では品があり礼儀正しく見えるが、いざ要望に応えると後からリクエストが増えたり、無茶なアドリブがを求められたりと散々俺やメイドを困らさせていたのだ。
「どうしたんですか今日は。普段はもっとこう高いドレスが欲しいとか、学校帰りに店までパシリにするとか良くてそんなもんじゃないですか。もう少し話を聞かせてくれませんか?」
「あのね執事、最近色々な物が高くなったりしてるでしょう?それに最近だと流行り病が流行してたじゃない。そのせいで会社の経営が厳しくなってしまっているらしいの。それでお父様が今朝こんなこと言いだしてきたの!」
そう言うと、お嬢様は少しだけ息を吸い込む。どうやら御父上の物真似をするらしい。よく見ればお嬢様の目元が赤く腫れており、髪が整っていない。それに会話をして気付いたのだが今日のお嬢様は声普段より張り上げている。
おそらく雇い主である御父上と激しい口論が行われていたのだろう。
「おお娘よ、よく聞け。まだ正確には決まってはおらぬが儂はお前をこの屋敷から追い出そうと思っている。今すぐにとは言わんが旅一人立ち出来るよう用意をしておきなさい。ってさ、酷くない!?」
「そうですね、酷い話があったものです。」
俺は適当にお嬢様のご機嫌取りをする。正直な話、いつかそうなるのではないかとは思っていた。
10年以上前は屋敷を埋め尽くさんとばかりいたメイドや執事も徐々に減少し、今じゃ必要最低限の人数まで減り、執事も俺一人になってしまった。あんなに頼もしかった先輩達も転職して結婚し、子供もいる。
……俺もそろそろ結婚とか考えなくちゃいけないのかなぁ。
「酷いですね、じゃないわよ!どうしてくれるのよ!!私何にも酷いことしてないのにこの仕打ちは何!?ありえないんだけど!!!」
アンタ割と滅茶苦茶言いまくってたけどな。にしてもお嬢様も10年前から性格変わってねぇなぁ。
ホント見てくれだけはいいのに性格だけはワガママ娘になっちまった。変わった所といえばせいぜい身長と体重くらいか?一体どこで教育を間違えてしまったんだろう。やはり御父上の甘やかしが原因なのだろうか。
「とりあえずお嬢様の言いたいことは分かりました。では答えましょう。無理です。諦めて働くか、その辺の路上にでも転がっててください。」
「ねぇ貴方もそんなこと言うの!?私他にもメイドととかいつも塀の周りをジョギングしているおじいさんにも声かけたけどみんな断るのよ!!もう最後の頼みの綱は貴方だけだったのに!!いいのね!?私が物乞いして惨めな姿になっても貴方は何とも思わないんだ!!この薄情者!!」
お前もう皆に相談し終わった後なのかよ、あと初対面であろうジョギングおじいさんにそんな相談持ちかけないでくれ、恥ずかしいしだろ。後日詫びの品でも送っておこう。
お嬢様の罵声が響き渡る、こんなに広い屋敷なのにメイドは誰一人来ないし、それどころか足音すら聞こえない。この現状こそがお嬢様の今後を暗示しているかのようだった。
「もう一度言いますが、無理です。諦めて働くか、その辺の路上にでも転がっててください。お嬢様も20歳を超えた身、ここいらで労働の過酷さと有難さを身に染みて学ぶべきです。いい機会なので働き先紹介しましょうか?」
「嫌よ!私ずっとここでダラダラしてたいし、ゲームしてたいわ、それにまだ新作の本も読めてないのよ。働く時間なんてあったら化粧品コーナーを見て回ったほうがいいわね。とにかく労働は嫌!!執事なんとかしなさい。これは命令よ。ほら早くしなさい。じゃないと貴方も道連れに解雇いたしますわよ?」
こんのクソガキがァ!!
「お前無茶言うなよ!?自分のことくらい自分で何とかしたらどうだ!大体俺はアンタのオムツ係じゃない、執事なんだよ。し・つ・じ、わかったら今すぐ部屋に戻り、タ○ンワークでも開いてなさい。」
「そんなに酷いこと言わなくてもいいじゃない!私本気で悩んでいるのよ、ねぇお願いよ。私本気で悩んでいるのよ。家でゴロゴロして楽にお金稼げる方法何か知らないかしら?昔SNSで見たものだと手袋を落とすだけでお金もらえちゃうのがあったんだけど、」
「お嬢様、それ絶対に応募したり参加しようとしないでくださいね!?」
さてこのワガママ娘、どうしてやろうか。この会話でもう路頭に迷ってても別に何とも思わない。が、この娘を育てた御父上には俺が貧乏で道草を食うことしかできなかったときに拾ってくれた恩がある。仕方ない、出来るだけお嬢様に寄り添ってやるか。
それにあんな思いするやつが増えるのは本意ではないしな。
外では赤や黒のランドセルを背負った小学生が将来をより良いものにするために、こんなむさくるしく暑い日でも、汗水垂らして登校している。全く、お嬢様はこの子達を見習ってほしいものである。
「んで実際問題どうします?このままだと数年後には路頭に迷うのは確定です。今何かしら手を打たないと困るのは将来の自分ですよ?」
俺はまたお嬢様に問う。これでわがまま言ったらホントどうしてやろうか。
「そうねぇ、やっぱり家でゴロゴロ出来る仕事がいいわね。肉体労働は絶対ごめんよ、私のやる仕事ではないもの。あとはやっぱりお金がたくさんもらえるのがいいわね。それとSNSが触れるといいわ。私こう見えてファッションとか自撮りして投稿しているから2万フォロワーもされてるのよ。
ほら見てみなさい、ねぇ私貴方なんかより多いんだから何か言ってみなさいよ。」
しきりに押し付けてくるスマホとお嬢様のどや顔に若干イラつき、手で押しのける。写真は顔だけ隠して見事な映りだと素人の俺でもそう思った。だがまあ実際すごいことだ、俺は基本見ることしかしないし、投稿したりしない。だからフォロワーも一桁しかないのだが。
お嬢様は見てくれだけはいいから、何着ても大抵似合うしそれで増えたんだろうなぁ。
「そうだお嬢様、グラビア写真集とかやりません?その美貌でガッポガッポ稼げばいいんですよ。」
「あのね、私着たい服とかしか来たくないわけ、皆もそれを望んでいるのよ。だからそれは却下よ。」
うーむ、割といい線行ってたと思うんだけどなぁ。家でゴロゴロ過ごせて、お金もらえてSNSを活用出来る仕事。Yout○ubeか?いや腐っても令嬢がそんなことしていいのか?ネットの海に晒してしまっていいものなのか?ダメだろ普通に考えて。そうなるとプラス顔がバレない仕事になるわけか。そうなってくるともうこれしか俺の頭にはない。
「色々考えましたが思うに漫画家か小説家をオススメします。お嬢様の仰った条件、そして身の安全を考慮するとこれが最適だと思う。」
俺の辿り着いた答えにお嬢様は微妙な反応を示す。まあそうだよな。なにせ未知の領域に挑戦しろと言っているのだ。成功するかどうかもわからない。だが1つだけ言えるのはこのまま何もしないよりはマシということだけだろう。
先ほどまでやかましかっただけの空間に静寂が訪れる。唯一聞こえるのは窓から見える木に立っている小鳥の声だけである。今後を決めることだ、お嬢様もここは本気で悩んでいる。
普段は絶対見せない表情でこの話に乗るかどうか決めていた。
「少し考えたのだけれど漫画家は無理ね、基本的に絵が綺麗なのが評価されると思っているわ。例外もあるけれどそれは一旦置いといて、私画力ないのよ。」
そういやそうだった。昔お嬢様と花瓶を書いていたらそれはまあ独特な、…なんて言えばいいんだろうなアレ。悪魔を召喚する魔法陣でも書いているのかと思ったくらいだ。皆でコッソリ処分するくらいには酷かったなぁ。
「それもそうでしたね。なら小説家一択ですか?」
俺は残った最後の選択肢をお嬢様に突きつける。お嬢様はどこか諦めた表情をしていたが、覚悟を決めたようだった。
「そうね執事。私、小説家になってみせるわ。なら今日は今後の方針が決まったということで、また明日から頑張っていきましょう。
その時はアシスタントとしてテキパキ働いて私を楽させてもらいますからね。頼みますわよ。」
何故か俺がアシスタントすることが勝手に決まってしまった。俺はただお嬢様のお悩みを解決したくて提案しただけなのだが。だがここで下手に逆らうと何されるかわかったもんじゃない。だからここはグッとこらえることしかできないのが執事としての悲しい定めなのだ。
お嬢様が去ったおかげで部屋がより一層広く感じる。普段とあまり変わらないのだがそれだけお嬢様の存在感に圧倒されていたといううことなのだろうか?そんなことを考えていると日差しが更に強く感じ、冷房を付ける。これからの出来事に思いを馳せながら、今日も執事としてこなさなければならない業務をこなしつつ、このままでいいのか自問自答していた。
日が沈みまた昇ってきたころ、メイド達が集まって点呼しているのを一瞬覗き見した後、お嬢様が着る服をご用意し、先に朝食を済ませる。その後もせわしなく働き続け、お嬢様をいつでもお迎え出来るよう万全にしておき、今日も部屋の扉を優しく2回ノックするのが起こし方のコツなのだ。
「お嬢様ーー!朝です。起きてください、起きないとお嬢様が夜な夜な一人遊びしていることをバラしますよー?」
後ろにいるメイド達が何やらヒソヒソ話しているが、俺はそんなこと気にせず畳みかけようとするが赤面したお嬢様が勢いよく現れ口を防いでくる。
「貴方何口走っているのですか!?令嬢である私がそのようなことするはずないでしょう!そんな虚言を吐き散らすお口は閉ざしませんといけませんわ!ほら早く閉じなさ言ったら。」
「このかいりkhむぐぐぐぐ!!!!」
畜生!コイツ思ったより怪力で窒息するって!!
俺はお嬢様の手を遠慮なく叩くが、抵抗むなしく俺は深海に潜ったように意識を手放していた。
「…………あー、生きてるな。チョットからかいすぎた、もうやめておくか。」
俺は二度とあの手のからかいをしないと心に誓っていると後ろの扉が開く。
「全くもう執事ったらあの程度のことで気絶しないで下さいまし。おかげで二時間くらい時間を無駄に過ごしてしまいましたわ。」
目を開けて早々文句を言い放つお嬢様、まぁ俺が悪かったから文句はないんだけどさ。
「悪かったよ。んで昨日の話になりますけれど小説書いてみます?提案してなんですけどお嬢様が小説で食べていけるビジョンが見えないんですよね。」
正直本棚に囲まれた部屋で高笑いしながら、紙に適当な書類打ってるところなら目に見えるが、いかんせんお嬢様の文才が計り知れない。あまりにも酷いものがお出しされたら俺がレクチャーしてやるしかないのだろうか。
「まぁそう不安な顔をなさらないで頂戴。執事はそこでドーーンと構えていればよろしいのよ。ところで私は何に書けばよろしいのかしら?」
「そうですね、書くというか打つ感じですね。少し準備しますのでこの部屋で少々お待ちくださいね。」
俺はお嬢様に待ってもらい、早歩きで物置小屋にある余っていた業務用ノートパソコンを拝借する。
元々ここにあるのは自由に使っても構わないとの領主からの言付けなので有難くそうさせてもらう。
「お嬢様ただいま戻りました。もう少々お待ちください。」
なんとなく察してそうなお嬢様の横目に俺はパソコンにケーブルを差し込み、起動させる。
にしてもノーパソは小さい。今度頼んで24インチのモニターでも買ってもらおうか?それくらいは経費で落ちるだろ、なにせお嬢様を更生させようとしてるんだからな。
「お嬢様準備できました。とりあえずここにお嬢様のアカウント入れてチャチャっと初期設定を終わらせてください。本題はここじゃないので。」
お嬢様が初期設定をやっている間、暇なので窓から外の景色を眺める。昨日とは打って変わって暗雲が立ち込めており、いつ雨が降ってもおかしくなく、今日は外に出る予定がないことに少しだけ俺は安堵した。
「ねぇ執事終わったわよ。この後投稿サイトで小説を出すのでしょうけれどどこで活動すればいいの?」
「そうですね、『小説家になれよ』でお願いします。」
お嬢様は慣れた手つきでサイトを開き諸々の手続きを済ませる。ふと思ったのだが何故お嬢様はあんなにキーボード操作が早いのだ?お嬢様の部屋を何度か特別に掃除させてもらったことあるがパソコンなんてもの見当たらなかったぞ。
「お嬢様がパソコンに慣れてるのは意外でした。何処で覚えてきたんです?」
「こんなの小学校の授業だけでいいじゃない。そんなに驚くことじゃないわよ。」
コイツ無駄にスペック高いな。それをほんの少しでもいいから俺に分けてほしいものだ。神様も残酷なことをするぜ。
「で執事、ここに何を投稿するの?教えて頂戴な。」
「そうですね、ここは人気ジャンルで行きましょうか。候補として挙がるのは異世界転生か令嬢ものが流行っているそうですよ?」
「わかったわ、とりあえず単行本でいいわよね?1万字くらい楽勝よ、見てなさい。」
お嬢様は早速電子の紙に目を向ける、が、肝心の内容が決まっていなかったようですぐに固まってしまった。
「執事どうしましょう。私令嬢ものを書こうと思ったけれど何も思い浮かびませんわ。もう適当に『パーティから追放された令嬢、神からの贈られたスマホで無双し第一王子をメロメロにさせます』とかじゃ駄目かしら?インパクトって大事ですものね。」
「なんですかその胃に穴が開きそうなタイトルは、止めてください。出来れば今日中に1作品作り終わらせたいんですから。」
だが実際問題いいタイトルが思い浮かばない、いっそ『お嬢様○○だった件について』とかやるか?いやもう使い古されてるしその案は無いな。
外では先程より暗くなり、ポツポツと雨が降り始める。廊下では服を雨に濡らさんとメイドがバルコニーに干してあった洗濯物を籠に取り込まんと、急いでいる足音が廊下から聞こえてくる。
「決めましたわ、タイトルは『私の扇子が全てを薙ぎ払いますわ!』で行きましょう。我ながらイイ扇子していますわ。オホホホホ。」
くだらないギャグを言いながら扇子を取り出し、扇ぐお嬢様を、俺は死んだ魚のような目で眺める。だが実際俺もそこまでいいタイトルが思い浮かばなかったのでこのまま進めさせることにした。
「じゃあとりあえずそれで行きますか。じゃあ、あとはお任せしますので頑張ってください。」
「え!?執事は手伝ってくださらないの!?できれば傍にいてくださるだけでも助かるのだけれど……」
「置いてかれた子犬みたいに涙目になられても、俺がサポートしたらそれはお嬢様の為になりません。余計な口出ししたくもないので一人で頑張ってください。それじゃ。」
抱き着き、しがみつくお嬢様を振り払い、逃げるようにその場を立ち去り、扉を勢いよくバタンと閉める。ふと時計を見ると今は9:00である。ここからお嬢様に振り回されるんだろうなあ。
それにああは言ったけれどお嬢様大丈夫かな?まあ2,3時間経ってれば黙々と作業して、俺の介入なんかむしろ邪険に取り扱ってくれるだろう。それまでは少しだけ仕事をこなしていますか。
あれから2時間が経った。少し早いか?とも思っていたがあんまり意地悪するのもどうかと思ったので、俺はお嬢様の為にコーヒーを淹れてトレイに載せる。閉まっている扉を片手で開け、元気よくお嬢様を迎えた。
「お嬢様お疲れ様です。コーヒーをおm」
「遅すぎるわよ執事!貴方また意地悪したでしょう!?全然終わらないんですけれど!?私もうつ~か~れ~た~!!早く私を甘やかしてちょうだい!!!」
俺にタックルし、抱き着いてきて喜怒哀楽が激しいお嬢様、かたやそのせいで淹れたコーヒーが服に染み込んでいく。コーヒーの暖かさだけが俺を慰めてくれるが、浸って居てもしょうがないのでお嬢様を立ち上がらせ、問題に立ち向かうことにした。
「お嬢様、文字数500ってなんですか、ふざけてるんですか?これじゃ1分も満たないうちに読み終わってしまいます。あと9500文字何としても今日中に増やしてください。」
「あ、あのね執事。私そろそろ休みたいかなぁなんて思っているの。だって執筆して2時間位たっているのよ?もうそろそろ休んでアイス食べたいの。」
外では雨が降りしきる中、俺はお嬢様にペンの代わりにキーボードを打たせる。こんな状況でもお嬢様はワガママを言い、ちょくちょくスマホを弄ったり、外に出て逃げようとしたとことを捕まえたりしているが、あれから一向に文字が進まない。『1万字くらい楽勝よ、見てなさい』と言っていた時に現状を見せてやりたいくらいだ。
小説書いて皆に作家として認めてもらいたいんでしょう?ならこれくらい頑張ってください。ほら口だけ動かしても意味ありません。黙って手を動かしてください。」
「執事のバカ!スパルタ!!人でなし!!!大体今日中に1万文字なんて無理よ!!アンタこれ終わったら覚悟してなさい!私の力で減給しますからね!!」
隣でギャーギャーわめき散らかしているお嬢様を横目に、どうやってあと9500文字書かせるか思案
する。いっそAIに書かせてみようかとも思ったが無い方が受けがいいのは分かりきっていた。やはりこのままお嬢様に執筆してもらうしかないな。
「もうしょうがないので俺も案とか出しますね。だからそう落ち込まないでください。」
そして改めて500文字に打たれた内容を確認する。大雑把に言うとお嬢様の扇子で、悪徳貴族、魔王軍幹部、そして果てには魔王を吹き飛ばし、あとは人間の悩みとか悪いものを扇子で吹き飛ばす。はいはい分かりましたと。
「とりあえずお嬢様、内容をこの500文字に詰め込みすぎです。もっと間延びさせましょう。住民と会話をさせたりするだけでも話が膨らみますよ?」
お嬢様は何とか気を取り戻し文字を打ち込む作業に入る。俺も後ろで黙って様子を見つつ、誤字脱字がないか確認していた。
「お嬢様、情景描写とか入れたほうがよろしいかと、そうすることでより読者にイメージさせやすいかと思われます。」
部屋の恥には観葉植物が置かれ、今時のビジネスホテルのよな飾りつけの執務室で、頭を抱え込んみ、いきずまっているお嬢様に精一杯のアドバイスをする。
「それもそうね、ありがとう執事、助かったわ。」
そう言ってお嬢様は加筆修正をする。何か俺でも手伝えることはないか?文章構成に口出しするのは違うし、かと言ってただ見守るだけなのも居心地が悪いしな。何かいい手はないだろうか?
「執事見て!!なんとか2000文字行きましたわよ!!ほらほら!!」
「そうですね、お嬢様はすごいです。」
とりあえずやっとここまで来たかというのが本音だが拗ねられても困るので適当に合図地を打つ。
「もうこれでいいですわよね?だってもうかれこれ初めて5時間経ちましたのよ?おなかも空きましたわ。」
「そうですね、終わりにはしませんが遅めの昼食を取りましょうか。」
時刻は14:00。すでに出来上がっていたパスタを大広間で取りつつ、あと8000文字どう埋めるか考える。扇子で地球飛ばしたり他の惑星でも吹き飛ばしたりした方がウケがいいのだろうか?まあなんにせよお嬢様次第だな。
「お嬢様この後の展開とか考えてます?今のところ屑勇者吹き飛ばして終わってますけれどこの後何吹き飛ばさせますか?」
パスタをリスみたいに頬張りながら口をせわしなく動かすお嬢様
「あmy……んん。この後はそうね魔王軍の軍勢と魔王軍幹部を吹き飛ばして、仙人がいる山脈を登ったあと褒美として芭蕉扇を貰って仙人を吹き飛ばして後、魔王も吹き飛ばすつもりよ。これで少なくとも7000文字は埋まるはずよ!」
何処から出てくるんだよ、その根拠と具体的な数字は。
「じゃあもうアドバイスいらないっすね。じゃあ疲れたんで、少し休憩してますね。」
「駄目よ!困ったときの話し相手あなたしかいないのよ。メイドも最近は私の話聞き流しするし、お願い!!隣にいてくれるだけでもいいの。今月の給料あなたにだけ弾むよう無理言ってパパに頼んでおきますから!!」
そういうことなら仕方ない。
「分かりました。全力でサポートいたしましょう。プロフェッサーである私にお任せください。」
「話が早いのはいいことですわ。では早速続きを行いましょうか。」
執務室に戻るとお嬢様のタイピングが先程よりも調子づいている。昼食を取ったことで脳にエネルギーが渡り、頭が回っているのだろう。
まあこの調子なら大丈夫そうだな。じゃあしばらくは眺めてのんびり鑑賞でもしていますかね。
数時間後、予想通りといえばそうだがタイピングが鈍くなる。軽く覗き込むと魔王吹き飛ばして神様を吹き飛ばしたあたりでどう展開するか悩んでいるそうだ。
「執事困ったわ、あと5000文字もあるのにもう大体のものを吹き飛ばしてしまったわ。こうなると後は魔王の領地を吹き飛ばすくらいしかもうないのよ。お願いあなたの案を頂戴?」
もう叫ぶことすらしなくなったお嬢様はただただ俺に懇願してきた。仕方ないここは元気づけてやるか。
「んーそうですね、少し息抜きとして女性住民のスカートが風で少しめくれてしまう展開とかどうです?多分読んでくれる人も多くなりますよ?」
言い終わった後、俺は問答無用で頬にビンタを食らい、赤く染まる。お嬢様結構マジにビンタしてきたな。
「さて、女の敵は始末できたことですし執筆の続きでもしましょうか。ここは貴方の言う通り、箸休めとして、女性風呂を覗く最低野郎を吹き飛ばす話にしておきますわね。」
良かった、一名犠牲者は出たが何とか調子を取り戻してくれた。さて、頬を冷やしておきますか。
洗面台で顔を洗いつつ、頬を冷やす。時計を見てみると今は17:30。作業開始から休憩含めて8時間程度であり、お嬢様の執筆具合は7000文字と言ったところか。そうなるとあと4,5時間で終わるとして、遅く見積もって23:00……明日に持ち越したいけどここまで来たら一気に終わらせておきたいなぁ。
残りの時間をどう扱うか思考を巡らせながら執務室に入っていく。
「お嬢様どうです?終わりそうな目処はつきましたか?」
「そうね、最後は地球と火星を吹き飛ばして巨大隕石からの衝突を免れる展開に持っていって3000文字稼ごうと思いますわ。ここまできたら最後まで執事にも付き合ってもらいますからね。」
俺が思ったよりお嬢様の決意は固く、諦めていなかった。俺も覚悟を決め、ラストスパートに入る前に、俺はある物を用意し、お嬢様に届けることにした。
「お嬢様が根気入っているので僭越ながらロールケーキを持ってきました。これ食べて終わらせてやりましょう!」
「ありがとう執事、最後まで気が利きますわね。あなたを私専属のアシスタントにして正解でしたわ。」
しきりにロールケーキを食べながら言葉を思いついては打ち込んでいく。
外はもう暗く、子供がスースーと寝静まる時間帯でも一心不乱に文字を書き上げるお嬢様。書き終わったらなんて言葉をかけて差し上げようか?無難に労いの言葉か?それとも来週、いや明日にも同じことさせますと事実を突きつけるのがいいのだろうか?
「……終わりましたわ!これが私の処女作!!見なさい執事!!!」
「お嬢様、文の構成はまあいいとして、10000字到達してないんですけれど。」
頑張ったのは認める。けど9600字までは書けているのだが後400字くらい足りない。
「もうこれ以上打ち込むのは無理!!ヤダヤダヤダ!!疲れた!お布団で寝たいわ!!それに四捨五入したら10000字になるじゃない。お願いよ~また次は私頑張るから今日はホントに寝かせて欲しいの!!」
涙ぐみながら俺にしがみつき今日一番のワガママを言い出す。正直俺も寝ずにお嬢様を監視して、誤字脱字を指摘したりしていて疲れているのが本音だ。
「分かりましたよお嬢様。それで投稿しましょうか。お疲れさまでした、お嬢様。」
お嬢様は泣いてたのが嘘のように満面の笑みを浮かばせ、投稿ボタンを押す。
「これでおわりよ!!世界の皆様!!私の文才に泣き崩れるといいわ!!オホホホホホホ!!」
深夜テンションでおかしくなりつつも一仕事終えたお嬢様はどこか誇らしかった。今日はもうこれ以上お嬢様の面倒を見なくて済む。そう安堵していると唐突に眠気が襲ってくる。早く寝て明日に備えるとしよう。
「じゃあお嬢様、改めてお疲れさまでした。SNSへの投稿も忘れないで下さいね。また次もありますがその時はよろしくお願いします。」
「えー!!またあるのぉ!!私もう嫌よ!!これからはもうずっとこの屋敷でゴロゴロしてますからね。」
「いいんですか?数年後には屋敷追い出されて路頭に迷うことになりますよ?ここで頑張って書籍化できるくらい有名になってやりましょう。」
何やら不満げな顔をしているが、ここで頑張れなかったらお嬢様の望みも叶わないのだから文句言わないでほしいものだ。
「まぁわかってるわよ。ここが頑張りどころだってことは。けど一つだけ約束して、執筆中は貴方は常に私のそばにいてサポートすること。その方が筆進むし一人は寂しいの。」
「分かってるよ。お嬢様の面倒みるのが執事の仕事だもんな。」
満足した答えを聞いたからかお嬢様は執務室を出て寝室に向かう。次にお嬢様はどんな小説を書くのか期待し、屋敷の消灯確認を行うのだった。
作中で名前だすの難しいからいっそなくした。




