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支配者

作者: 藤堂壽太
掲載日:2026/06/11

一個の生き物ではなく、そもそも生物においての成功って何だろうなと考えまして。

「人類こそ地球の支配者だ。」


教授は講義室で断言した。


「我々は動物を家畜化し、植物を栽培し、自然を管理している。」


学生たちは頷いた。


一人の学生が手を挙げる。


「先生、逆ではないですか?」


教室に笑いが起きた。


教授も微笑む。


「何が逆なんだね?」


「例えば小麦です。」


学生は続けた。


「野生の小麦は、ほんの一部の地域にしか生えていませんでした。でも今はどうでしょう。」


教授は答えない。


「人間は森を切り開きます。川を引きます。害虫を駆除します。品種改良までします。そして何億ヘクタールもの土地を小麦のために使っています。」


学生は窓の外を指差した。


「米も同じです。」


「それは人間が利用しているからだろう。」


教授は言った。


「本当にそうでしょうか。」


学生は首を傾げた。


「生物にとっての成功が、自分の子孫を増やすことだとしたら。」


教室が静かになる。


「人類は八十億しかいません。でも小麦は何兆株もあります。」


「……。」


「しかも小麦は、自分で畑を耕しません。肥料も作りません。害虫とも戦いません。」


学生は笑った。


「全部、人間がやっています。」


講義終了のチャイムが鳴った。


教授は苦笑した。


「面白い考え方だ。」


学生も笑った。


「冗談ですよ。」


その日の夜。


教授は自宅で夕食を食べた。


パンをちぎる。


パスタを口に運ぶ。


ビールを飲む。


どれも穀物だった。


ふと昼間の会話を思い出す。


人類は地球の支配者。


本当にそうだろうか。


もし小麦に意思があったなら。


もし米に目的があったなら。


彼らは何万年も前に一つの戦略を選んだのかもしれない。


「自分で増えるのはやめよう。」


「代わりに、人間を働かせよう。」


教授は苦笑して食卓を見た。


そこには小麦と米が並んでいた。


そして翌朝も、世界中の何十億人もの人間が、彼らのために畑へ向かうのだった。

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