夢の時間の始まり。
「ヴィオラ。エヴァンジェリンお嬢様から贈り物が届いているぞ」
「え?贈り物?」
ヴィオラたちの住むひときわ大きな屋敷。
侍女や、従者は数名のみで、表向きのみ豪族夫婦と見えるよう美しく整えられている。
その中の一室に、
エヴァンジェリンからの贈り物が色々と届いていた。
「あぁ、これは俺に、そっちはヴィオラに……だそうだ。」
クラウディウスは手紙を読みながら、届いた荷物を指さす。
(お嬢様……一体何を送ってきたのかしら。変なものじゃなきゃいいんだけど……)
ヴィオラは試しに近くにあった大きめの箱を開けると、そこには――
今までに見たことの無い形のした布が入っていた。
「えっと……これは布きれじゃないわよね……?」
「布きれ?そんなものお嬢様が送ってくるようには見えないが……」
ヴィオラのつぶやきがクラウディウスにも聞こえていたのか、同じように箱の中を見つめる。
「一旦、出してみたらいいんじゃないか?」
「そうね……」
ヴィオラは慎重に布を持ち上げ、箱の外へ広げた。
するり、と指の間を滑る感触は、布というよりも――肌に近い。
「これは……」
「ドレス……なのか……?」
ドレスと言っても、今まで夜会で見たようなドレスとは違い、胸元は大胆に開き、背中に至ってはほとんど布が存在しない作りとなっていた。
「そうみたいね」
布地そのものは上質で、臙脂色から黒色へと変化する深い色合いと繊細な縫製が、一目で高級品だと伝えていた。
「……それにしてもこの形……攻めすぎてないか」
一緒に見ていたクラウディウスも、目のやり場に困るのか……ドレスから顔を逸らしている。
「それだけお嬢様は本気……いえ、怒っているということでしょ?」
ヴィオラはエヴァンジェリンの顔を思い浮かべた。
「ヴィオラが着るんだよな……」
「私が着る以外誰が着るのよ。」
「だよな……」
何を話していいのか分からないのか――
二人の間に沈黙が落ちた。
「その……派手だな……」
「そうね。でも……」
ヴィオラは指先で胸元のラインをなぞりながら、クスッと微笑んだ。
「これなら、誰もが油断すると思うわ。それに……」
「“噂の豪族夫婦”にはピッタリだと思わない。あなたのスーツだって……」
「相当私と同じ色のスーツになっているんだもの。」
そう言って、箱の中に入ったクラウディウスのスーツを取り出す。
「なんだか不思議ね。破談した後にこんなお揃いのものを着るなんて……」
その顔は演技とわかっていながらも、少し楽しみにしているという顔だった。
***
「よくこんなところに建てたものね。」
森の中――
馬車が通れるギリギリの道を抜けていくと、
異質な雰囲気を醸し出す建物が見えてくる。
「本当だな……なんだか、綺麗というより不気味だ……」
馬車がゆっくり足を止めると、セスが扉を開いた。
「旦那様、奥様……到着いたしました。」
「ありがとう、セス。なんだか、あなたに“奥様”と呼ばれるなんて、変な感じね。」
「ふぉっふぉっふぉっ……私は嬉しいですよ?お嬢様とまたお会いできて」
二人で軽口を叩き合っていれば、セスが一通の手紙を取り出した。
「イリス様より、こちらをお預かりしております。」
「イリス?……って……もしかして……」
セスの言葉に、クラウディウスが反応すると、ヴィオラがうなずく。
(エヴァンジェリンお嬢様からか)
そのうなずきで全てを悟ったクラウディウスはそれ以上聞くことはせず、ヴィオラが手紙の封を開けるのを待った。
「……なるほどね」
「……なんて書いてあったんだ?」
ヴィオラは手紙を読み終えると、クラウディウスに手紙を渡した。
(これは、読めということか……)
―――――
ヴィオレッタ
今夜は私の注いだお酒を
ゆっくり味わって。
乾杯の時間は、すぐそこに。
イリス
―――――
手紙を読んで、エヴァンジェリンの意味を何となく理解したクラウディウスは、馬車を降りた。
そして、フゥーッと深く息をはく。
「さて……そろそろ時間だ。」
「行こうか。ヴィオレッタ……」
クラウディウスの手に自分の手を重ねると、ヴィオレッタは馬車から足を踏み出した。
そして、一歩外に出ると――
鬱蒼と生い茂った森とは思えないほどの眩い光が二人を照らす。
外の闇を断ち切るように、木に吊るされた無数の灯りが、柔らかな金色の光を落としている。
カツン、カツン
門の前に着くと――
「ようこそいらっしゃいました。お二人のお噂はかねがね……」
燕尾服に身を包んだ男がどこからともなく現れて、2人に声を掛ける。
「あら……それは大変光栄ね。」
「そうだね……今日は楽しみにしていたよ。」
クラウスが招待状を男に渡すと――
ギィーー
ゆっくりと門が開いた。
「それはそれは……そう言っていただけて何よりでございます。どうぞ今宵は、夢の時間をお過ごしください。」
男は胸に手を当てて、身体を軽く、頭を下げる。
そして――
ガチャン
ゆっくりと門の扉を閉めた。
「さぁ、行きましょうか。クラウス」
「そうだね、ヴィオレッタ……君に似合う物が見つかるといいんだけど……」
二人は腕を組みながら、会場内を見渡した。




