表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私を殺す、婚約者〈完結〉  作者: 伊沙羽 璃衣


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/40

最終話 あなたは私の暗殺者

「――研究熱心なのはいいけれど、結婚してからはもう少し自重してほしいわ」


サンドイッチを頬張りながら、アイリスは言った。かつては足の踏み場もなかったレイの離れは、片付けの魔術というくだらない魔術を開発したおかげで、綺麗に保たれている。隣に座るレイは、じっとアイリスを見つめた。


「......結婚前だからだ」

「え?」

「君が妻になると思うと、落ち着かない。魔術開発をしていると、何も考えずに済む」

「......そう」


アイリスは黒の瞳から視線を逸らした。

——アイリスとレイは、ひと月後に結婚式を控えていた。昨年、他国の王女と結婚した新王に続く大規模な結婚式とあって、王都が賑わっている。アルビノが公女なんて、と顔を顰める民は、半年前から始まった舞台のおかげで少しずつ減っているらしい。虐げられていたアルビノの少女の成り上がり物語、どこが面白いのかアイリスにはさっぱりだが、ざまぁというのが昨今の流行りだそうだ。


「......そんなに、マジマジと見ないでちょうだい。穴が開きそうだわ」

「視線で穴は開かない」

「言葉の綾よ!」


レイは仄かに笑う。アイリスはむくれて紅茶を飲んだ。ミルクと砂糖が入れられた紅茶は甘くて美味しい。


「......ねえ、レイ。私、良い親になれるかしら」

「ぶっ」


レイは紅茶を噴き出した。


「――急に、驚かせないでくれ」

「ごめんなさい」


レイは零した紅茶を布巾で拭き、窓の外を眺める。


「......俺も、親が何たるかを知らない。俺にとっての親は上司だ。悪くない、上司ではあるが」


新婚旅行の半月、レイの仕事は免除された。


「家族というのは、時間をかけて作り上げていくものだと思う。俺と君と、いずれ生まれてくる子供たちと——上手く、愛せるかは分からない。もしかしたら、何かを間違ってしまうかもしれない。けれど、間違った時は、一緒にやり直したい。互いを支えて、愛して——共に年を取っていきたい」

「――そう。そうね」


或いは既に、アイリスとレイは家族なのかもしれない。互いを愛し、求め、支え——この温かな関係を、家族と呼ぶのなら、家族というのもそう悪くないものであろう。


「ねえ、レイ。あなたは、何人くらい子供が欲しい?」

「......出産するのは君だ。出産に耐えられないと言われたら、子供は要らない。出産で体が弱くなったら、ひとりでいい。もし君が健康なまま、子供をたくさん作りたいと願うなら、そのように」

「私が10人子供が欲しいと言ったら?」

「抱きつぶしてもいいという意味だと理解して、毎日君を抱きつぶす」

「っ!」


アイリスは真っ赤になった。レイは軽く笑う。


「あなたは、ほんとうに破廉恥だわ」

「俺は君の暗殺者だ。君を褒め殺すのも抱き殺すのも、俺の仕事だ」

「それは暗殺と言わなくてよ」

「殺すのはいつかと、口癖のように言うのは君じゃないか」

「だって、あなた、すぐに私を殺そうとするんですもの!」


レイは笑ってアイリスに口づける。宝物に触れるように、優しい手がアイリスの頬を撫でた。


「――お望みとあらば、いくらでも君を殺そう。俺の愛しい標的(ターゲット)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ