表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

平等な共有と、願った代償

放課後、例のクラブ活動室。

昨日に続いて、今日も“儀式”めいた緊張感がある。


「そういえば不公平」


唐突にスズナが口を開いた。


「ハギとハコ、同居してズルい」


その場にいた全員の目が、俺とハギに向く。


「……ああ、そういえばそうだったな」


俺が苦笑気味に頷くと、ハギはなぜか胸を張って答えた。


「それは当然の権利です!」


「権利?」


「うんっ。一番最初にハコを“手に入れた”のは私だしっ」


言い方怖ぇよ!?


「それに、朝ハコがいないと朝食逃すし、遅刻するし、生活が破綻するのよ?」


「……お前、俺をタイムカードか何かと勘違いしてない?」


そんな俺のツッコミを無視して、スズナが一歩踏み込む。


「じゃあ、私が朝のお世話、担当しよっか?」


「え?」


「私の家に泊まった翌朝、一緒にハギの家まで行って起こす。

もちろん“起こし方”は……うふふ、得意だから♥」


「やめろ、その笑顔が一番こえぇよ!」


場の空気がざわっとした瞬間、俺は一応言っておくべきことを思い出す。


「てか、そもそもさ――俺、中身は男なんだぞ?

女子の家に泊まりに行くのって、やばくね?」


ナズナがスッと眼鏡を持ち上げて口を開く。


「では、単刀直入に質問します。

ハギさんとハコさんの間に、ニャニャニャな関係は?」


「おまっ……ばかっ……!」


俺の顔が赤くなるのが自分でもわかる。


「あるわけないだろ!? ていうか体は女だし! できるわけねぇだろ!」


ナズナはコクリと頷くと、なぜか得意げな顔になる。


「――甘いです、ハコくん。

女性同士でもニャニャニャは可能です!」


「やめろっ!?」


「知識だけですが必要あらば、ハコくんと私の身をもって――」


「しなくていいっ!! させねぇっ!!」


「……とにかく!」

俺はテーブルを軽く叩いて話を戻す。


「お泊りって話自体、俺としては簡単に了承できるもんじゃないんだよ」


「私は大丈夫だけど?」


あっけらかんとツバキが手を挙げる。


「一人暮らしだし、親もいないし。

むしろ来てくれたら安心って感じ?」


「俺が誰かに安心感与える存在になったとは……」


自分でも信じがたいが、ツバキの言葉は冗談じゃなさそうだった。


「私は、実家ですけど――別邸で一人暮らしの練習中ですから」


すました顔で、シオンが続く。


「誰も来ないと寂しいですし……

あの、できれば……一緒に……」


ボソボソと控えめな願望を混ぜながらも、意思表示はしてきた。


「私は当然、一人暮らしだよ~♪」

スズナはにっこり。


「ハコくんが来てくれたら、ふかふかのベッドも用意するし、

朝起こすのも、お風呂も――一緒に♥」


「一緒に、は要らねぇよ!」


最後にナズナが眼鏡越しにこちらを見つめて言う。


「私は実家ですが、両親は仕事で帰りが遅いです。

よって、泊まりに関しては特段問題はありません」


「全員条件揃ってんのかよ!?」


すごいなこのクラブ、泊まらせる気満々の精鋭集団か!?


そして、静かに押し黙っていたハギが、ぼそりと呟く。


「……でも、やだ。ハコと離れるの、やだ……」


小さな声なのに、妙に胸に刺さった。


「ハギ……」


「クラブの方針、独占はダメ」


スズナがさっとハコの背後に回ると、後ろからふわりと抱きついてくる。


「共有するなら、平等に。

それが“ハコ共有同盟会”」


「そ、それは……」


「独占が許されるなら――ここで私、

ハコをニャニャニャするまで徹底的にニャニャニャして、

他の誰も入れないくらいに仕上げるけど?」


「はっ? えっ? なんでっ!?」


その声と同時に、スズナがぐいと俺を押し倒し――

覆いかぶさってきた。


「ま、待て待てっ! なんでこっちに飛び火すんだよっ!?」


必死に抗議する俺を尻目に、スズナの手が、するすると――


「おい、おいっ!? ちょ、マジでやめろって!? 襟がっ……!」


「ふふ……大丈夫? クラブ内の合意。それに基づく行為だから」


「その合意に俺含まれてねぇからなっ!?」


襟元のボタンが外れ、うっすらと素肌が覗く――

その瞬間、鋭い声が響いた。


「やめてっ!」


それはハギの声だった。


「ハコを……ハコをニャニャニャするまでニャニャニャするのは、ダメ! 絶対ダメぇ……!」


普段は強気なハギが、声を震わせ、目に涙を浮かべている。


「でも……ハコの“共有”の必要性はわかってる。わかってる……でも……でも、自分から手放すなんて、そんなの……そんなの無理だよぉ……」


顔を覆いながら、膝を抱えて縮こまるハギ。


「ハコが……ハコがニャニャニャされちゃったら……あたし、どうしたら……」


(……これ、どうすりゃいいんだよ)


無理だ。誰の味方についても泥沼になる未来しか見えない。


「――だったら」


俺はポケットから、例の券を取り出した。


「この券、使う」


場が一瞬、静まった。


「この“なんでも言うこと聞いてあげる券”でお願いする。

俺が、日替わりで全員の家に泊まる。それを許してくれ」


その瞬間、券が光を放ち――

金色の粉のようになって、ふわりと空中に舞い消えた。


「あっ……」


ハギが小さく息をのむ。


「この券でのお願いなら……聞いてくれるだろ?」


俺がそう言うと、ハギは小さく息をのんで――

少しだけ伏し目がちに、やさしく微笑んだ。


「……ありがとう。でも――」


そのまま、ふっと笑顔を引き締めて。


「“私から離れる”のは許すけど――“私から逃げた罰”は、与えるね?」


「……え?」


ニッコリと、悪意ゼロの笑顔。

笑顔のまま言うな! その表情が一番怖いんだよっ!


(これ、もうヤバいやつだ!)


俺の脳が危険信号を全力で鳴らす。


――逃げるなら今しかない!


「にゃああああああっ!!」


反射的に猫化! 身体が小さくなり、すばやく教室のドアへ駆け出し、ドアの前で人にもどる。


よし、いけ――


「……開かねぇ!?」


取っ手をガチャガチャやるが、ドアはびくともしない。


「ふふ。鍵、かけておいたわ」


振り返ると、ハギが人差し指を立てて得意気な顔。


「おまっ……まさか、俺が逃げるの、読んで――」


「あと、さっき猫化制限もかけたから、もう変身できないよ?」


――完全に詰んだ。

変身も逃走も封じられた。俺、いま詰将棋でいう“詰め”状態。


「よし、じゃあ、調べようか♥」


スズナがウキウキした顔で近づいてくる。

その表情だけで、もう嫌な予感しかしない。


「まずは服を……」


「やめろっ! あ、まって!」


俺の叫びを、誰も止めてはくれない。


「私も……ハコのニャニャニャ、知っておきたいし……」


ハギが赤い顔で呟く。


「ニャニャニャの把握は、記録にも重要ですから」

ナズナはすでにノートPCとメモ帳を手に持っている。


「ツバキっ、助けてくれっ!!」

すがるように叫ぶと、ツバキが顔を真っ赤にして目をそらしながら言った。


「……ごめん。あたしもちょっと興味あるから……」


ちょっ、ツバキ! 気持ちはわかるけど……


ダメだ、ならば――最後の希望!


「シオンっ、頼むっ、助け――」


「ぁあ……主を裏切る愚かな私を、どうか……とことん責めてください……」


自罰モードに突入してて会話にならねぇっ!


包囲網が完成していた。


俺の尊厳が、またひとつ、クラブ活動室に溶けていく。


どれくらいの時間が経ったのか、よく覚えていない。


ただ、ひとつ言えるのは――


「ハコのニャニャニャに関する情報」は、徹底的に調べられました

という事実だけが、クラブ記録として残された。


◇◇◇


日はすっかり傾き、校門の先には帰宅途中の生徒たちの影が長く伸びていた。


「……なぁ、ハギ」


「……なに?」


俺は遠い目をしたまま、ハギの隣をとぼとぼ歩く。


「反省……してる?」


「……うん。ちょっとだけ、やりすぎたと思ってる」


「“ちょっとだけ”なんだな……」


「だって、ハコが可愛いのが悪いんだもん」


俺はもう何も言えなかった。言葉を失うって、こういうことなんだと思う。


「……しばらくクラブ活動、でなくていい?」


「ハコがいなかったら、意味ないからダメ」


「クラブ解散……」


「絶対ヤダッ!!」


俺は心の中で思った。


(野良猫になってみるのも……いや、生き残れる自信ないなぁ……)


今は現実逃避をすることしかできない。


尊厳という名の防具が、今日もまた、砕け散る音を聞きながら。


最後まで読んでいただき感謝!

毎日投稿は一旦ここで区切りになり次の更新予定は24日、そこから一週間ゆっくり更新していけたらなと考えてます

またはストックができたら毎日更新やるかもですが、個人的に先生にかいていただいてるもう1作品(なろうに投稿しようと思えたきっかけの作品)の調整リメイクも投稿できたらなと考えてるので、投稿できたらそちらもよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ