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共同生活と、ほころび始めた過去

放課後の学園裏――。


そこにあるのは、真新しさを感じるプレハブ倉庫。


「……ここ?」


俺がそう呟くと、ドアを堂々と開けたのはハギだった。


「そう。今日からここが、私たちの“クラブルーム”よ。キッチン付き。布団スペースもあるし、二重扉で防音もバッチリ」


「なにその豪華仕様!? ……まさか暗示使って予算通したのか?」


「使ってないわよ。……正規の“災害時用簡易住居”を、クラブ活動として“利用許可”取っただけ」


「いやそれ十分おかしいって!」


「“放課後の共同生活を通じて絆を深める”って目的で申請したら、すんなり通ったのよ?」


「通るもんなのかそれ?」


そのやり取りに、スズナがひょっこり顔を出す。


「ちなみに、発案者は私♪」


スズナは涼しい顔でくるくると回りながら、室内に入っていく。


「毎晩お泊まり、楽しそうじゃない?」


ハギが腕を組んで説明を補足する。


「最初は断るつもりだったけど、ハコの安全と貞操を守るには都合がいいって思ったの」


「守るって……俺そんな危険な目にあってたか?」


「うん」


即答。


さらにナズナ、ツバキ、シオンの三人もそろって頷いた。


「うわ、満場一致……!」


「だってハコくん、クラブ活動二日目のとき、あれはやりすぎたと皆で反省してたからね」


「本当にハコさんに見捨てられるもやむなしを覚悟しました」


「いまも根に持ってないか不安なんだよね」


各々がちょっと気まずそうに言うのだが、正直心当たりがなく俺はピンとこなかった。


「服脱がされて、色々と体いじられたの、忘れてる?」


スズナがほわんと微笑んで、その日の出来事を補足する。


「んー、心当たりはあるが……」


何でも言うこと聞いてあげる券で色々あった日のできごとを思い出す。


「まぁ、恥ずかしかったけど、痛い思いしたわけじゃないし、そこまで根に持つことでもなくないか?」


俺の答えにツバキが苦笑いする。


「いや、普通は根に持つよ!?」


 その隣でシオンが腕を組み、静かに呟いた。


「私は見捨てられなかったので……虎視眈々と報復の機会を伺ってると、期待してました」


「何それ怖い」


「でも、気にしていないハコさんを見ていたら、……残念なような、安心したような……不思議な気分ですね」


「怒るのが普通なのか? でも、怒りをぶつけるのって正直なぁ……」


 俺が困ったように言うと、ナズナが目を輝かせた。


「……あの、ハコくん? もしや、今後ハコくんのニャニャニャを開発をしても、不問、ということで?」


ナズナが光速で食いついてきた。


「いや、普通に勘弁してくれ……」


そんなやりとりをしている俺たちから少し離れたところでスズナがハギに耳打ちする。


「……くん、変わんないね」


「……っ!」


ピクリと肩を震わせるハギは視線をスズナに向け、鋭く問いかけた。


「今……なんて呼んだの?」


「え? ハコくんのこと?」


「嘘よ。あなた、その名前……どこで知ったの?」


 一瞬、スズナの目に何かが宿る。

 でも、すぐに――にこりと笑って。


「だって、友達ライバルでしょ?」


「“ライバル”って何に対してよ……!」


ツンとそっぽを向くハギだったが、その表情にふと影が差す。


「……スズ?」


ぽつりと漏れたその名前に、スズナが目を見開く。


「え、それって私の“あだ名”?」


「……そんなわけないでしょ」


ハギは即座に否定したが、その目はどこか不安げだった。


スズナは、そんなハギの様子を見て――にこにこ、まるで何もかもを見透かすような笑顔を浮かべていた。


◇◇◇


共同生活の準備がひと段落し、落ち着いた空気がクラブルームを満たしていた。


キッチン周りの備品や布団の確認、軽い掃除も終えて、俺たちはそれぞれの自室から荷物を持ち寄っていた。


「扉に取り付ければ、自分の家の玄関と繋がる魔女道具よ」


ハギが配ったそれは、金属の鍵のようなもので、魔力を込めると場所が繋がる“空間転移鍵”だとか。


「……普通にすごいよなこれ」

「まぁ、ないと毎日通学と帰宅で死ぬわよ」

「言い方怖っ」


それぞれの荷物が揃い、スペースもある程度整理されたところで、ナズナが俺に声をかけてきた。


「ハコくん、ちょっといいですか?」


「ん? どうした」


ナズナは少し照れたように微笑みながら、言った。


「前のお泊まり会で“自分のことを知ってほしい”って言ったじゃないですか。だから、今日は週初めにやっている私の日課に付き合ってほしいなと」


「へぇ、どんな日課なんだ?」


嫌な予感がしながらも訊ねる俺。


ナズナは、さらっと爆弾を投下した。


「ニャニャニャの開発です」


時が止まった。


「…………は?」


「つまり、自分の身体の反応を把握することで、“恋とは何か”をより深く理解しようという試みで……」


「それを俺と一緒にやる意味がどこにあるんだ!?」


「記録者として、そして……最も近しい異性として」


俺は頭を抱えた。


「ナズナ、お前はもうちょっと……いや、かなり常識を持とう」


「だって、怖いんです。実は指すら入れたことなくて……。だから、開発に協力してもらえたらって……」


「するな!! 頼むな!!」


ナズナはすがるように俺を見つめる。


「せめて、共同開発だけでも……」


「“共同”の意味を履き違えるなっ!」


「私、自分という存在を“知ってもらう”ためには、こういった情報も共有すべきだと――」


「共有する必要ゼロだからな!?」


そこにスッと差し込まれる第三の声。


「それなら、私も参加します」


シオンだった。


「……は?」


「私も経験はありませんので、ナズナさんの指導のもと、共に学ぶという形で」


「待て、待て待て! どうしてそうなる!?」


「いずれ、主と情を交わすとき、恥をかくのは望ましくありません。加えて――」


シオンは顔を赤らめながら目を伏せる。


「……はしたなく、欲に溺れる私を見て、主に軽蔑され、罵られたいという欲求もございます」


「変態宣言すんなッ!?」


ナズナは目を輝かせて拍手した。


「さすがシオンさん……! 共感、理解、共有の三拍子! 赤信号、皆で渡れば怖くありませんっ!」


聞いていたツバキが乗ってきた。


「お、その言葉、いいね~。じゃああたしも渡ってみようかな~♪」


「ストップストップストップ! 全員止まれ!!」


ツバキが勢いよく手を上げて続ける。


「ほら、いずれ来る時を考えれば必要でしょ?」


「必要……かもしれないが……それとこれは違うだろ」


俺はついに床にへたり込んだ。


「この共同生活、絶対波乱しかねぇ……」


彼女達の好奇心が交錯するクラブルームで、俺の平穏な日常は静かに、しかし確実に崩壊し始めていた――。



・オマケ


「ハギちゃん、参加しないの?」


「……さすがに、ニャニャニャは見せるとしても……ハコ限定ね」


「やったことないのに?」


「――っ!? そ、それぐらい、あるわよ……っ!」


「ふーん。じゃあ、今度一緒に開発する? 練習相手になるよ?」


「ならないわよ!? ていうかアンタ何が目的なの!?」


「“友達ライバル”としての応援、かな?」


「……ほんと、わけわかんない……」

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