ハガネブルーム
巨木をぐるりと囲む金属製の階段。
冴えた空気の中、重いブーツの音と共に登る。
鉱石ランプの明かりが僕を感知して灯り、通り過ぎると消えていく。
踊り場で足を止め、暗い街を見下ろす。
まだ眠る街。もう1刻もすれば、白い煙が立ち上り始めるだろう。
それまでに終わらせなきゃ。少し歩を速める。
辿り着いたのは金属製の扉。
周りを這う蒸気と電気のパイプはまだ冷たく静かだ。
「よっと……」
重たい扉を開け放し、中へ。
久しぶりの部屋は、少し埃っぽい。
鍵穴に息を吹きかけ、鍵を差し込む。
きりきり、きりきりきり……
動かなくなるまで回したら、隣に並ぶボタンを撫で、設定を確認する。
「季節。気温。天候……」
小気味よい音と共にONにすると、小さな真空管が連動して灯る。
全て灯ったのを確認して、最後のスイッチを押した。
かちゃり
間髪入れずに「ぴん、ぴぴん」と何か弾けるような音がした。
外に出ると、空の端が白み始めていて。
ぴん。と弾ける音が頭上から降ってきた。
それは、薄桃色の金属片が弾け開く音――花が、咲く音だ。
1刻もすれば、この木は薄桃色に輝く花で満開になるだろう。
ああ、春がきた。
小さな春の音を聞きながら。
僕は目覚めていく街を眺めていた。