第九話 報せ
翌朝、寝不足なオーレルは湖の水で顔を洗った。黒髪にいつの間にかついていた血を洗い流し、疲労で半開きの黒目をこする。
「おはようさんオーレル。つっても今は白夜で朝も夜も糞もないけどな」
オーレルが顔を洗っていると、隣にアルヴィがやってきた。挨拶を返しながら横目で見ていると腹に出来た傷口を洗っている。一応傷の手当てもしているようだ。
「アルヴィ、今日はどうするんだ?」
「色々仕事があるぞ。お前ここに来る前まで何をやってたんだっけ?」
「農夫だよ」
オーレルの答えにアルヴィは少しの間考え込み……
「よし、なら偵察に行ってもらおう。ここに居てもあんまり役には立たねぇからな」
「酷い言われようだ」
「だったら俺の代わりに罠でも作るか? それとも洞窟の出口造りをやるか? まだ小さいから拡張しなくちゃならんからな」
「……いやいい。行くよ」
洞窟に集まった人々はアルヴィの指示でその人間にあった役割をこなしていた。オーレルのような農夫はここでは役に立たない為見張りや洞窟を掘る係、猟師であるアルヴィは戦闘員兼罠の製造。女達は傷の手当てなどを担うなどといった具合に、無駄がない。
「罠のある所にはこうやって枝を置いて目印が作ってある。覚えておけよ」
「ああ、分かった」
アルヴィに罠の位置を示す目印を教えてもらった後、森の中に入ろうとした、その時だった。
先に偵察に出ていた村人が戻ってきてこう叫んだ。
「おおいアルヴィ! 急いで洞窟に隠れるんだ! シビル兵がこっちに向かってる!!」
「なんだと!? 数は?」
「100人ちょっとはいそうだ! まずいぞ!」
オーレルとアルヴィの顔から血の気が引く。洞窟に隠れている村人の数は20名余り、うち4人は怪我人でアルヴィも全力では戦えない。どうやっても戦いにならない。
「洞窟に逃げ込もう!」
そう提案した村人にオーレルは否定で返す。
「駄目だ。もし見つかったら逃げようがなくなる。俺がシビル兵ならそのまま洞窟の中に煙を入れていぶりだす」
「じゃあどうするんだよ!」
「アルヴィ、俺に考えがある。けど乗るかどうかはアンタに任せるよ」
オーレルの言葉に、アルヴィは笑顔で頷いた。
「言ってみろ。いい案なら使ってやる」