第八話 語り
暗く湿った洞窟の中、そこに集まった人々は交代で休みをとりながら外の見張りをする。もし敵が来たら素早く逃げられるようにするためだ。
洞窟の中は開けているところもあり、空気もしっかりと通っている。
「あちちちちっ、石が焼けてた!」
焼けた石に座ってしまったオーレルが跳び跳ねた。今は夜、洞窟の入り口付近にある焚き火のそばに座り、昼間の間に湖でとってきた赤目の魚、ローチを平たい石に置いて焼く。
そして魚を焼きながら、騒ぐオーレルの隣で矢を拵えているアルヴィに話しかけた。
「……で本当なのか? ここから先の道は全部塞がれてるって言うのは」
「本当さ」
アルヴィの話によるとこの洞窟の近くにある道はすべてシビル兵によって塞がれている。森の中ですらそれなりの数の兵士がいて、昼間のように見張りに何かあればすぐに駆けつけられるような状態になっていたのだ。
「ここから少し行ったところにはシビル軍の本隊、後ろからは多分援軍、森と道には見張りが沢山。こんな状況じゃお前の言うカウス村に帰るなんてできっこない」
「なんとかならないか?」
「ならんな。おとなしくここでシビル軍が消えるか、味方が押し返すのを待つんだな」
足止めを食らいオーレルは思わず舌打ちし、アルヴィは笑った。
「ま、ここは敵が来ても守りやすいし食い物だって沢山ある。時間もあるし、お前に罠の作り方やらなんやら教えといてやるさ。俺が居なくなってもどうにかなるようにな」
「居なくなる?」
この洞窟には今20名の人がいる。いずれもアルヴィと同じ村の人間だが戦えるような人間は少ない。そんな中でアルヴィが消えたら皆困ったことになる。
「アルヴィ、アンタは居なくなるべきじゃない。村の人を守らないと」
オーレルがそう言うと、アルヴィは片面が焼けたローチをひっくり返しながら答えた。どこか悲しい顔で。
「……俺もそうしたいが、出来そうにないんだよ。見ろ」
そう言うとアルヴィは上着をめくって腹を見せてきた。オーレルが恐る恐る腹を見ると、そこには血塗れのボロ布が張り付いていた。
「……逃げるときシビル兵に槍で突かれてな。傷は縫ったが化膿してきてる、ついでに熱まででてきてる」
「アルヴィ、アンタ死ぬのか?」
「多分な、まだ少しは持つだろうが、このザマじゃいずれ動けなくなる。その前に誰か戦えるやつに村のもんを任せたい」
「俺にそれが務まると?」
オーレルの言葉にアルヴィは笑った。
「やってくれ。やらないってんなら俺がお前を襲ってやる」
「……アンタは死なない。アンタは生きてここの人達を守るんだ」
「怪我人相手に随分無茶いってくれるな」