第七話 湖へ
助けてくれた男は自分のことをアルヴィと名乗った。
森の中を迷いなく進むアルヴィはオーレルと同じくらい年頃の青年で、麻服を着た快活な笑顔が似合う男だ。先ほどの弓の腕と動きを見るに恐らくは兵士か何かなのだろう。
「さっきは助かったよ。捕まったら死んでた」
「ここら辺はもうシビル兵に殆ど占領されてる。俺達の村もやられてな、生き残りは逃げた」
「で今俺達はその逃げた先に向かってるわけだ」
「その通り」
オーレルはアルヴィの後ろをぴたりとついて歩いていく。彼の話ではここから敵の侵入を妨げるために罠を設置しているらしい。事実落とし穴や引っかかると上から尖らせた木の棒が降って来る仕掛けも見えた。
「俺は猟師でな、獣相手の罠をちょっと弄って作ったのさ。そら見えてきたぞ。俺達の隠れ家だ」
「綺麗なとこだな」
歩き続け森を抜けるとそこには青く澄んだ湖が見えてきた。ヴァニエには大小さまざまな湖が大量に存在するが、その中でもこの湖は綺麗な部類に入るだろう。
トナカイが群れをなし、豊かな緑の草原が僅かに見える。今が戦争中でなければ、オーレルは湖に飛び込んではしゃいでいただろう。それほどに綺麗な場所だった。
「あそこを見ろ。あの岩場の影に洞窟があってな。そこに俺達の隠れ家があるんだ」
アルヴィの指差す方向を見ると、草の繁る岸の近くに岩場があった。
「早いとこ行こう」
「おーい帰ったぞー」
洞窟の中に向かって元気に声をかけると中からぞろぞろと槍を持った男女が数名出てきた。いずれもやや疲れた表情をしている。
「アルヴィ、心臓に悪いよ。決めた合言葉を言ってくれ」
「あーすまんすまん」
「そこの人は? 一体誰なの?」
槍をオーレルの方へ向け警戒する人達。なぜかアルヴィは少し考え込んだあと答えた。
「そいつはシビル兵の捕虜だ」
「え?」
オーレルの喉元まで槍を突きつけられたのを見て、アルヴィはあわてて止めに入った。
「すまんすまん冗談だ! ちょっと和ませようと思ってだな……」
「笑えない冗談はやめてよアルヴィ!」
「まぁ安心してくれ。こいつはさっきシビル兵をぶっ殺してたんだ、ヴァニエ兵で間違いない」
「ならいいけど、やめてよねそんな冗談」
槍を下ろしてくれた。オーレルもようやく話ができる。
「早速で悪いんだけど、俺は自分の村に戻りたいんだ。君たちは地元の人間だよね? 何かいい抜け道を知らないかい?」
オーレルのこの質問に対し、隣にいたアルヴィは申し訳なさそうに言った。
「残念だがオーレル、ここから先に行こうって考えはしばらく捨ててくれ」
「え?」
オーレルが自分の置かれた状況を知るためには、アルヴィの話をもう少し聞く必要があった。