表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/28

第二十八話

「このクソ野郎が!! 吊るせ吊るせ!!」


「縛り首にしちまえ!!」


 カウス村ではちょっとした騒ぎが起きていた。五体満足で早くに帰還した伯爵が村の女達によって縛り首にされかかっているのだ。


「待て待て待て待て!! 待ってくれ!」


「待たん! やれ!」


 村の女達が怒り狂っているのは自分達の夫が帰ってこないことであった。一応領主である伯爵が早くに村の男達を誘導し逃がしていた為に最前線にいたわりには被害が少ないが、それでも帰ってこない者は数名いた。


 後方で安全だと聞かされていた上でのことで、騙されたと感じた女達の怒りが爆発、護衛はいたもののなぎ倒され伯爵は瞬く間に捕まってしまったのだ。


「オーレルは、オーレルはどこに行ったんです? 伯爵様」


 女達の中にはヒルッカの姿もあった。相も変わらずの美しさだが、その緑の瞳には一片の光もない。


「わ、わからない! 出来る限り呼び掛けて逃がせるだけは逃がしたんだがどうにもならな──」


「みんな吊るして」


 弟のように、家族のように暮らしていたオーレルの安否が確認できなかったことで、ヒルッカも怒り狂っていた。


 村に生えている白樺の枝に縄をかけられ、いよいよ吊るされそうになった、その時だった。


「ただいま」


 気の抜けた声がヒルッカ達の後ろから聞こえてきた。


「え?」


 戸惑いながら振り向いたヒルッカ、彼女の視線の先に居たのは、内出血と腫れでボコボコになったオーレルと後ろに控えている男女の集団。


「お、オーレルなの?」


「ああ、帰ってきたよ。ヒルッ──いてててて」


「ほほう、こりゃまたべっぴんさんだな。帰りたくなるのも分かる」


 オーレルのとなりにいたアルヴィは顎に手を当ててニヤニヤと笑う。


 ヒルッカは人目も気にせずオーレルに抱きつき、緑の瞳に大粒の涙を浮かべて泣きじゃくった。


「心配したの……平原で見失ったって聞いてから、本当に」


「生きてたよ。何度か死にかけたのは間違いないけどね。……いっぱい人を殺した。ヒルッカ、俺は……生きててもよかったのかな?」


「なに言ってるの。勝手に死んでみなさい。墓を掘り返して死体でパイ焼くわよ」






 約束通り、オーレルは村へと帰ってきた。


 約束していたトナカイの肉とベリーのジャムは時期が悪くて食べられなかったが、それもいつかは叶う。生きて帰ってこられたのだから。


 時がたっても戦争のことでうなされることもあるけれど、隣には戦場で出来た友達のアルヴィと、しっかりもののヒルッカがいてくれる。


 これからは穏やかな日々を送れるだろう。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 穏やかで暖かな日々の素晴らしさを噛み締められるラストでとてもよかったです 命かかる戦地での言葉のどれだけフランクでもへばりつく重みみたいなものが好きでした
[良い点] ここは「なろう」なので基本、「指揮官側から見た戦争、かつ基本魔法等で死者なし」が普通なので、こういう兵士側で死人多数なのは久しぶりでした ウクライナ・ロシア戦争もまだ終わってはいませんし、…
[一言] 「元弓兵は帰れない。」の作者様だったのですね。 戦争って悲しいですよね。今もどこかで銃声が響いて、悲しい思いをする人が増えていると思うと切なくなります。
2024/08/29 23:15 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ