第二十五話 反転
異変はすぐに起きた。
追撃を仕掛けていたシビル軍の勢いがなくなり、後方に向かっていく兵士が増えていた。彼らの士気に止めを刺したのは味方であるヴァニエ兵の言葉だった。
「シビル公国大公、アポストラーチェ・ルチェスク・シビルはこの私が討ち取った! もはや貴様等に勝利はない! 速やかに剣を納めよ! 無駄死にするな!」
天も割けよとばかりに声を張り上げるヴァニエ兵、彼はシビル兵達の後方にいた。
無論こんなことを言っておいてただですむはずはない。怒り狂った一部のシビル兵は主君の仇を討とうとそのヴァニエ兵に殺到、仲間諸とも切り捨てた。
だが彼等が討ち取られても、シビル兵達に広がる動揺は消せはしない。
「大将が死んだだって? 俺たちは負けたのか?」
「後ろにとんでもない数のヴァニエ兵が居るらしいぞ! 冗談じゃねぇ俺は帰る!」
シビル兵達の中には正規兵の他に傭兵、各地から集められた農民も混ざっていて、まずその手の者達が追撃を取り止め逃げていった。
「敵の勢いが失せた! 今度はこちらが押す番だ! 奴らを押し返してやれ!」
ヴァニエ軍はシビル兵の戦意が消えたとみるや反転し攻勢に出る。無論抵抗してくるシビル兵も居たが、先程までの勢いはなく、徐々に押し返されていく。
「なんだ? いつの間に反転してるんだ?」
異変は逃げていたオーレル達にも伝わった。後ろを振り返った彼等が見たのは鬨の声をあげながら押し返していくヴァニエ兵達の背中だった。
先程まで敗走していたはずの自軍が何故か押している。その事実にオーレルは混乱した。
「何が起きてるんだ? 一体何が……」
「勝ってるの?」
困惑しているのはオーレルだけではなく、一緒についてきていた村人達もだった。
「オーレル、私達戻ったほうがいいんじゃないか? 勝てるかも」
「いややめとこう。どっちみち命が危ないことに代わりはないから。さっさと逃げるんだ」
オーレル達はまだ戦場のほど近い場所にいて、シビル兵が来ないとも限らない状況だった。それにもう戦う気もなかったオーレルは一刻も早く逃げ帰りたいと思っていたのだ。
だがその逃走を妨害するものがいた。
「ベリー中毒のクソ野郎!!」
「ぶち殺せ!」
恐らくヴァニエ兵の目から逃れすり抜けて来たのだろう。ボロボロのシビル兵達がオーレル達の真横から突撃してきた。
数にして10名程度、とるに足らない最後の足掻きを、彼等は見せた。




