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第二十四話 後ろ

 オーレルは村人達の存在を思いだし、彼等が隠れていた場所まで戻ることにした。もう全員逃げきっていると思った、きっとオーレルがそこに辿り着いたとしてもただの徒労で終わる。


 そう信じていた。


「あ、アンタ! オーレル! なにやってんだい早く逃げるよ!」


「なんでまだ残ってたんだ!?」


 なんと村人達はもといた場所にほど近い茂みに隠れシビル兵達をやり過ごしていたのだ。幸運にも誰も怪我なく生き残っている。


「何もクソもアンタを待ってたんだ。ほら早くいくよ! 村で嫁さんが待ってるんだろう?」


 村人に言われ、オーレルは頭の中にあることを思いついた。


 ──もうこうなったら村までなんとか走って皆にシビル軍がきたことを伝えるしかない!


 オーレルはヴァニエ軍を抜け、カウス村まで走ることを決めた。村人も連れていく。カウス村の男達は殆どが亡くなっているはずで、畑仕事にも人手がいる、きっと受け入れてくれるだろう。そう考えて。


「皆、俺の村まで走るぞ。戦闘には参加しない。なにがなんでも逃げきるんだ」






 オーレル達とヴァニエ軍が敗走していくのを見たシビル公国の大公、アポストラーチェは後方で護衛に囲まれながら大笑いしていた。


 手には杯に並々と注がれた葡萄酒、傍らにいる護衛にはシビル公国の名産品、テレメアとよばれるチーズを持たせまるで劇でも鑑賞しているかのようだった。


「ハッハッハッハッハ!! 見ろ。ヴァニエ人共が逃げていくぞ。やはりさっさと突撃させるべきだったのだ。こんなひなびた川で待つ必要などなかった!」


 呵呵大笑するアポストラーチェ。自軍にもかなりの損害が出ているのにも関わらず、彼は逃げるヴァニエ軍を笑った。


 だがそんな彼の笑みは消え失せる。


「大公殿下! 後方からヴァニエ軍の一団が来ています!」


「な、何ッ!?」


 アポストラーチェの周りにいる護衛は約20名程度、他は見張りに数名程度を残して川を渡河し前進し続けている。後方からの異変に気が付いたのは僅かに残していた兵士のみだった。


「て、敵の数は!?」


「およそ40! しかし止められません!」


 アポストラーチェは青ざめ、杯を放り投げて逃げようとした。


 だが遅かった、報告に来たときには既にヴァニエ軍はすぐ後ろへと迫っていたのだから。


「決死隊突撃!! 我々で戦争を終わらせるのだ! 敵将アポストラーチェの首を獲れ!!」


「ひぃぃぃぃ!!」


 アポストラーチェが振り向いたときには既にヴァニエ軍が僅かに残った兵士を蹴散らし、彼の首を獲ろうと殺到している最中だった。


 鎧に真新しい返り血を浴びたヴァニエ兵達、彼等はただ真っ直ぐにアポストラーチェへと駆けてくる。


「ま、守れ! この私を守るのだ! 全員でかかれ!」


 情けなくわめき散らすアポストラーチェ。彼の周りに居た護衛は抵抗を試みたが勢いも気合いもヴァニエ兵が勝る。


 すべての護衛を失ったアポストラーチェは喚いた。


「わ、私を誰だと思っている! シビル公国が大公、アポ──」


「口を閉ざせ馬糞野郎!!」


 白刃一閃、アポストラーチェ・ルチェスク・シビルはケリ川付近で死亡した。

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