第二十三話 突破
シビル軍は援軍で来た兵士約2千を別動隊として編成、渡河する部隊とは別の地点にある森の中に隠して待機させ、頃合いを見計らって投入する予定だった。この部隊の指揮を執ったのは骸骨のような風貌の男、クラウディウ伯爵だった。
「伯爵様、そろそろ行かねば総崩れとなります!」
「待つんだ、そう急くものではない。頃合いを見計らうのだ」
だがクラウディウは既に本隊が交戦に入った後でも部隊を動かそうとはしていなかった。部下からの問いかけにも一切聞く耳を持たず、ひたすら何かを待っている。
そして両軍が混戦状態に入ったあたりで、クラウディウの下へと報告に来る兵士がいた。
「報告です伯爵様! 用意が出来ました!」
この報告に、クラウディウは歯を見せて笑った。
「出来たか! よし直ちに突撃を開始する。総員掛かれ!」
こうしてクラウディウ率いる別動隊はヴァニエ軍を左翼から強襲することとなった。
左翼からシビル軍の攻撃を受けたヴァニエ軍は徐々に押され始め後退することを強いられた。勢いはシビル軍にあった。
「一旦退け! 死ぬぞ!」
「ああ待ってくれ!」
逃げようとして足を滑らせ味方に踏まれて息絶えた兵士がいた、逃げる人の群れに逆らって何かを探している兵士もいた。その兵士が探しているのは切り落とされた自分の片腕だったが。
このままでは囲まれてしまい、壊滅してしまう。そう判断したヴァニエ軍は撤退することを決定した。そして逃げるヴァニエ兵に混じってオーレルの姿があった。
「ハァっ……ハァっ」
息を切らしながら斧を持って全力疾走するオーレル。彼の黒髪と麻の服には血と泥と汗が混ざり合い異臭を放っていた。だがそんな些末なことを気にしている場合ではない。
オーレルの頭の中にあるのは、不安と焦りだった。
──ここを突破されたら後ろはがら空きだって言ってた。このままじゃ攻め込まれる! 村が、俺の故郷が!
背後から忍び寄って来るシビル兵はヴァニエ軍を追撃しようと次々とケリ川を渡り、ヴァニエ軍に迫ってきていた。
逃げまどうヴァニエ兵をシビル兵が追撃する。まるでイトラ平原での再現をしているかのように思えた。
「一旦退け退け!」
この時点でヴァニエ軍はケリ川に投入した戦力の実に3割を失っていた。
シビル軍も同様の犠牲を払ってはいたが、勢いがある分、シビル軍のほうが優勢。
だが、この直後に起きた事件によって、戦況は大きく動いた。




