第二十一話 死傷
シビル軍は比較的川の水量が少ない場所、ヴァニエ軍の右翼側から攻撃を仕掛けた。
「進め進め! 止まれば射貫かれるぞ!」
「盾を付き出せ! 死んだ奴は盾に使うんだ!」
ヴァニエ兵達は向かってくるシビル兵に対し、矢を射かけ岸への接近を防ぐ。川の水はすぐに血の色に染まり、下流に向かって死体が流れていく。
「シビル兵共を止めろ! ここを突破されるとまた押し込めるのに時間がかかるぞ!」
「駄目だ! 弓兵が足りねぇ! 奴等死体を盾にしてきやがる!!」
ヴァニエ兵達は怒号を飛ばしながら弓を引いた。
ヴァニエ兵達は有利な状態であったが、兵の配置が広範囲に及んでいた上、弓兵の数が不足していたせいもあり、一塊になって川を渡河してくるシビル兵を押し止めることが出来なかった。
「上がってくるぞ! 槍兵前へ! シビルの豚野郎共を川に流してやれ!」
「故郷に帰れ豚野郎共!!」
「ヴァニエ万歳!」
両軍の歩兵が接触したことでケリ川での戦いは消耗戦に突入する。岸はぬかるみ、怒号と悲鳴が響き渡り、付近には血の臭いが漂う。
折れた槍を敵の目玉に突き刺し、まだ生きている負傷者はシビル兵の肉の盾となった。岸へと無傷でたどり着いたシビル兵は安堵した瞬間槍で突き刺され川へと強制的に戻されていく。
「援軍は来るのか!? 早くしろ!」
「もう少しだ。よし見えてきたぞ」
両軍がぶつかり合って暫く、左翼側に展開していた部隊が右翼側に合流を開始、シビル兵を側面から攻撃し始めた。
「仲間を見捨てるな。敵の横っ腹を食い破り分断してやれ!」
二方向からの攻撃により、ヴァニエ軍は多数の犠牲を払いながらもシビル軍の勢いを止めることに成功する。
両軍の兵士がぶつかり合い、入り乱れ、混戦の様相を呈し始めることになった。
「酷すぎる、なんて戦いだ」
ケリ川の戦いを少し離れた茂みの中から見ていたオーレルと村人は呆気にとられていた。ヴァニエ、シビル両軍共に夥しい数の死体を作り出し、まるで川を死体で埋めようと競争しているような、そんな光景が目に入ってくる。
「お前達も動けるものは手を貸せ! このままでは食い破られる!」
オーレル達に向かって、見張り兼護衛の兵士がそう言ってきた。彼等も兜を被り直し、あの地獄のような川に向かうらしい。だがオーレル達はそんなことごめん被る。
「俺はもう……」
「来い! 言っておくが奴等は我々を全滅させるつもりで戦争を仕掛けてきたんだ! 相手が農民だろうが襲いかかってくるぞ! ここが食い破られればいずれお前達の故郷も滅ぼされる! そうしたくなければ、俺達と共に来い!」
お前達の故郷も滅ぼされる。兵士のその言葉にオーレルは動かされた。正直嫌で嫌で仕方がない。平原での一方的な戦闘を経験した上で、それでも向かっていく勇気などもうなかった。
けれども、ここが落ちれば。もしヴァニエが負けて、そのままシビル軍の侵攻を許してしまえば……
カウス村に残したヒルッカがどうなるのか、わからない。
「ああ、嫌だなぁもう」
情けない声を上げつつ、オーレルは立ち上がった。
「なにか武器を下さい! 行きます!」
「よく言った!! よしこいつを使え!」
オーレルは村人達を置いて、兵士から薪割りに使う斧を受け取ると戦場となっている岸へと急いだ。




