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第十九話 囲い

 アルヴィ達と別れを済ませた後、偵察をしながらオーレル達は森の中を前進していった。今のところシビル兵は見えないが所詮オーレル達はただの村人、ただの農夫。


 見逃している可能性は勿論あった。


「武器を捨てて手を上げろ!」


 進み続けてしばらく、オーレル達の周囲に鎧姿のシビル兵が一斉に飛び出し、取り囲んだ。数にして30名程の小さな部隊だが、全員が鉄で出来た武器を持っている。


「戦う意思はないんだ! ここを通してくれ! 俺達はただの農夫だ!」


 こうなっては仕方がなく、オーレルは持っていた棍棒を捨てシビル兵に向かって叫んだ。シビル兵の善の心を期待して。


 手を上げてそうしていると周りを取り囲むシビル兵の中から一際綺麗な黒い鎧を身にまとった兵士が前に出て、兜を脱いだ。


「……私はクラウディウという。シビル公国の伯爵だ。一番に声を上げたところを見るに、君がこの部隊の隊長か?」


 兜を脱いだ兵士はそう名乗った。深い皺をいくつも顔に作った初老の男で、頭には一本の毛もない。骸骨が歩いているのかと思うような男だった。


「どうなのだ?」


 オーレルがしばし呆けているとクラウディウは答えを急いてきた。

 

「俺は確かにこの人達を任された。だから、隊長といわれれば、そうかもしれない」


「はっきりしない男だな。だが、君達がただの農夫というなら、私は殺しはしない」


 あっさりとした返答に、オーレルは耳を疑った。


「は? え?」


 間抜けな声が漏れたのはオーレルの方だった。


「だが武器は捨ててもらおう。後ろの仲間もだ。加えてしばらく我々の捕虜として扱う。森の中でヴァニエ兵に遭遇したとき、盾に使わせてもらう」


「……命は助かるのか?」


「ヴァニエ兵が人質もろとも攻撃するのなら話は別だが。我々からは君達に暴力などを振るったりはしない。我が神に誓おう」


 クラウディウが差し出した手を、オーレルは握った。






 オーレル達はその場で座り、休むことになった。村人達は特に縛られたり、暴力を振るわれたりはしていない。シビル兵の中には親しげに話しかけてくる者もいた。


「私はこれでも昔、武人でな。そのときの名残で今もこうして戦場に出張る」


 そしてオーレルは他の村人と離され、クラウディウの横で話を聞く羽目になった。無論2人っきりということはなく、隣に護衛は居たが。


「君はなぜ戦場に出てきた? 見たところ彼等とは出身が違うようだが」


「なぜ分かるのです?」


「誰も君を庇おうともしなかったからな。加えてなにやら良い武器も持っていた」


 クラウディウは回収したオーレルの棍棒をまじまじと見つめていた。ろくに手入れもしていなかった為に血や細かな肉片が付いていたが、クラウディウはさして気にしていない。


「これはシビルで作られたものだ」


「よく分かりますね」


「分かるとも。これを使っていた人間は私の弟子だったからな」


 落ち窪んだクラウディウの瞳が、怒りの色を帯びた。


 



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