第十八話 夜空
アルヴィ達怪我人と別れることが決定した日、その日の夜はベリーだけを夕食にした。別れる前の最後の食事で暖かい物を食べたいとは誰もが思ったが光と煙と臭いが出る。火を使う食事はとれなかった。村人たちも親しい人との別れを惜しんでいる。
涙はあった、だが決して行かないでほしいとは言わなかった。
「……辛気臭くてかなわんな。オーレル、寝る前に少し話でもしようや」
「ああ」
アルヴィなりの気遣いなのだろう。正直オーレルも助かった。
「この辺の森にも俺は来たことがあってな。秋になるとしこたま雪が降って、苔なんかを探して雪をかき分けてるトナカイに矢をぶち込んだもんだ」
「そうなのか」
オーレルとアルヴィは隣同士で仰向けに寝っ転がり、日の沈まない空を眺め語り合った。
「熊に襲われたこともあったな。たまたまなわばりに入っちまって。あの時は死ぬかと思った」
「俺の村にも熊が出たことはあった。まぁアンタのようにかっこよく狩れたりはしないが」
「当たり前だ。お前みたいな素人にポンポン狩られたら俺の仕事がなくなる」
がははと笑いながら、ここ数日の間で一番話をした。もしかしたら死ぬかもしれない、いや死ぬ可能性のほうが高かったからだろう、アルヴィも多弁だった。
「オーレル。お前が帰りたいカウス村ってのは、一体どんなだ?」
「ん? 別に普通の村さ。領主の伯爵はいつもおどおどしてて、畑はあるけど男手が足りない。けど村の人は良い人ばかり、たまに寝坊してもちょっと怒られるだけだから」
「ほんとにたまに寝坊するだけか?」
「……ホントウダ」
少し嘘をついた。
「で? 好きな女とかいないのか?」
「好きか……幼馴染というか姉みたいなのならいるな」
オーレルの言葉を聞いて、アルヴィは顔だけオーレルの方に向けいろめきたつ。どうやらそういう話が好きなようだった。
「どんなだ? 可愛いか?」
興味津々だ。
「見た目は美人だな。白髪で緑の目をしてる。寝坊したら薪で叩いて起こしに来る。あと飯が美味い」
「結婚してるのか?」
「いや?」
そうして少しの間、ぼーっとオーレルは空を見上げた。
「……約束したんだ。帰ってまたその女の子の飯を食うって」
「……だったら。生きて帰ってやらなきゃな。さてそろそろ寝るか。明日っからは頼むぞ。オーレル」
「ああ……」
オーレルは瞼を閉じる。
まずは戦闘が頻発する森を抜け、その後川を渡り、村まで移動する。
やることを頭に叩き込んで、眠りについた。




