第十話 開戦
シビル兵達が湖にまで来たのは水の補給の為であったが、そこで彼らは思いがけず獲物を見つけた。20名程度のどこかの村から逃げ延びた農民と見られる集団、それが湖の畔にある洞窟に居るというのだ。
「偵察帰ってきました。奴ら戦うつもりみたいです」
「ハッハッハ! ヴァニエ人共は馬鹿だな! 数も質もこちらが上だというのに勝てるとでも思ってるのか! やっぱりベリーばかり食っている奴等は頭が回らんらしいな!」
シビル兵の隊長はこう言いながら笑った。
彼等は後方から来た増援だった、槍で武装している彼等だが本隊と合流する前に何か手土産でも欲しいと思っていたのだ。
「よし! 夕方には水の補給も終わらせて本隊と合流するぞ! 突撃!」
全てにおいてシビル兵達は勝っていた、洞窟に潜むヴァニエ人は20名程度に対しシビル兵達は100名。力も技も普段から鍛えているシビル兵が勝り、気合いもシビル兵に軍配が上がるだろう。
唯一彼等が劣っているとするならば、それはこの自信からくる慢心だろう。
シビル兵達の勢いは最初だけだった。
「ええい面倒な! 罠まみれじゃないか!」
シビル兵達が最初にいた場所から洞窟までには森があった。だがそこはかなりの数の罠が仕掛けられていて、シビル兵達はそれをいちいち注意していかなくてはならなくなった為に進軍速度を落としていた。
「がああッ!! ベリー食いの糞野郎共が!! 俺の足に穴開けやがった!」
罠に引っ掛かる者も一部存在した。
片足がはまる程度の穴に先を尖らせた木の枝を設置した落とし穴や、空の陶器を蹴ったら上から重い丸太が降ってくる罠もあった。
そして時折、何処からか矢が飛んでくる。
「矢じりに糞が塗りたくられてるぞ」
「当たりたくねぇ……」
矢を射ってくるヴァニエ人の姿は見えない。下や上には罠。少数ではあるが負傷していく味方。それを見てシビル兵達は徐々に不安に駆られるようになっていく。
自分は無傷で帰れるのか、と。
「糞忌々しいヴァニエ人め、見つけたらぶち殺してやる」
こう言った彼は次の瞬間、下草に隠されていた縄に引っ掛かり罠が作動、上から降ってきた石で頭を打ち死亡した。
重い兜は戦闘が始まる直前につけるつもりだった為に起きた不幸。これがシビル兵最初の死亡者となった。




