file.9 なぜ、彼は探偵をしているのか
前回のLostMemoryは、失踪した恋人を探して欲しいと依頼された飯塚さんが恋人を殺してしまったが、SDMを使い自分の記憶を消して忘れていた。サルガタナスのスパイと疑っていた山下ほのかは新たに探偵事務所の従業員として迎え入れることになった。
喫茶店NeverStartは休日も休みなく営業中だ。新規のお客も少しずつ増え安定してきたが…カランカラン「いらっしゃいませー」入り口を見ると幸太がいた。「おはよう、何にする?」「おっはー、ブレンドコーヒーで」
「亮、最近喫茶店の繁盛はどうだ?」「ああ、常連さんが減ってきたが新規のお客さんも増えてなんとかってかんじだね」「ふーん、常連が減ったか。接客業は大変だね」ひとしきりの会話を終え「あ、そうだ亮。少しの間探偵の仕事休んでもいいか?」「え?まぁいいけど」「すまねーな、ちょっと用事があってなー。あ、有給にしといてくれよ」なんだそれと鼻で笑う亮であった。「空くんは?」幸太が亮に尋ねた。「今はほのかと買い物に行ってるよ」「ホント仲良くなったなあの二人」
「お姉ちゃんと弟みたいな感じだな」
「空くんはお野菜食べれる?」空はこくんと頷いた。「じゃあ、野菜を使った料理をお姉さんが夜作るね!」空は笑って反応した。二人はスーパーに来ていた。「亮のお金だしたくさん買っちゃおうかな!」
「へっくしょん!」「大丈夫か?亮。風邪か?」「誰かが噂しているなこれは」
「休日だし家族連れが多いねー、どこもたくさんいるなー早く買いもの終わらせて帰ろっか!」
その日の昼食後、「ご馳走さま、なかなか美味しいねほのかの料理は」「でしょー!もっと誉めて!誉めて伸びるタイプだから!」「はいはいすごいすごい」「ちょっとなにそれ!」「ハッハッハッ」ほのかがうちに来てしばらく経つ。雰囲気がだいぶ和やかになってきて空も前に比べると表情のこわばりも少なくなってきた。「亮!なんか勝負しようよ」「いいよーこの勝負師に挑むとは恐れ知らずめ」「じゃあオセロね!あたし強いからね?」「いいだろう、じゃあ空は最初審判しててくれ」空はこくんと頷いた。
パチッ パチッ試合は進んでいき「そういえば、なんで亮は喫茶店なんてやってるの?保険?」「唐突だなー」「なんでか…昔家族と一緒に喫茶店をやっていたんだよ。その影響で探偵やってても誰かにコーヒーを淹れたくなってなー」「なんかちょっと良い話し風」「風ってなんだよ、風って!」「じゃあ、探偵は?どうして探偵してるの?」「質問責めかよー大人気だなー、なぁ?空!あ、角取ったり!」「あ、ちょっと!話逸らさないでよ!」「なんだ、回避できたと思ったのに」
「…ここはな、実は私の探偵事務所ではないんだ」「!!??どういうこと?」「何年か前にある人から譲り受けたんだ。それである目的のために探偵を続けている」「二代目ってことね、ある目的?」
「ああ、サルガタナスの殲滅だ」
「そうなんだ。よくあたしを受け入れたね」「成り行きだ。空も懐いてるし目的が似ているからかな?幸太は特に目的なくここにいるからあれだけど」空の頭を撫でながらほのかに話した。「それで、サルガタナスの居場所はどこだ?」「サルガタナスに場所はないわ。研究所はあるけど本拠地みたいにそこに居続けることはないの」「本当はあたしがいた研究所を伝えようとしたけど、この前新聞で謎の爆発事故で無くなっていた」「足取りを追わせないためか…」「そう、力になれなくてゴメン」
「それはそうと」ほのかがオセロの盤面を見ると、「あ!」「私の勝ちだ」「しまった!話に夢中になっちゃった!」「これが私の高度な話術テクニックと戦術だ」「卑怯!空くん!なんか言ってあげて!」いい大人の見苦しい攻防に苦笑いをしながらみつめる空であった。
ピンポーン 事務所のチャイムが鳴り響いた。「どうぞー」玄関のドアが開き一人の女性が入ってきた。「こちらへ」「二人はここで遊んでな」ほのかと空はオセロの続きを始めた。
今回の依頼はこうだ。依頼人は主婦の多田さん。最近お隣の木下さんの様子が気になり依頼してきた。「お隣の木下さんは三人家族で、会うたび笑顔でいつも楽しそうに暮らしいていて私も微笑ましかったの。だけど」「先月に奥さまが病気で亡くなってしまったの…最初の方は落ち込んでいて、外に出るところを見かけても私も声をかけれなくないくらいに」「なのに…」多田さんが言葉を続けた。「先週くらいから急に旦那さんとお子さんが元気になったの。何もなかったように」「だから、少し話してみようかと思って子供の琢磨くんと旦那さんに声をかけたのね。」
「お久しぶりです、木下さん。奥さまが亡くなって元気無かったけど立ち直ってきたのね」そしたら琢磨くんが「お母さん?僕にお母さんはいないよ?お父さんと昔から二人で暮らしいてるし」「そうですよ、多田さん。急に変なこと言わないでくださいよ、妻なんていないですよ。前から琢磨と私だけで暮らしてるんですから」「なんかホラーを観た気分だったわ…ショックでどうにかなっちゃったのかしら…だからどうなってるのか探偵さんに調べて欲しくて」
(急に奥さんの記憶が消えたか…十中八九サルガタナスの仕業だな) 「分かりました。この杉山亮が必ず謎を解いてみせます」
「お父さん、凄い自信ね毎回あんな感じなのかしらね」ほのかが空とオセロをしながら話していた。空の手が止まり、息が荒くなっていた。ドクンドクン 『お母さん?僕にお母さんはいないよ?』『妻なんていないですよ』空は父と母に置いていかれたときのことを思い出してしまった。「わぁー!!」頭をかかえ叫ぶ空に亮は驚いたがすぐに駆け寄り抱きしめ「大丈夫だ大丈夫だ」空の発作が治まるのを待った。
依頼人は帰り空とほのかと一緒に、一階のベッドに行き空を寝かせた。「話には聞いていたけど結構重症っぽいね」「そうなんだ。だが、まだ落ち着いてきているほうだ」寝ている空の頬には涙がつたっていた。「私は空の保護者で良いのかな…」ほのかは会ってから始めてみる亮の暗い顔に少々戸惑ったが「どういうこと?」と返した。「私は空が一人になってしまうところを、間近で見た。こんなに小さい空には計り知れないほどの出来事だ。だから、一人にならないように一緒に暮らしたんだ。だが、そんな空に私はどんな風に接したらいいのか分からず、ただ一緒に居るだけなんだ…だから、ほのかが来てから少しホッとしたんだ。正直私だけにはどうしようもなくてな…こんなことなら一緒に暮らさなければよかったのかな…」「こっちにきなさい」ほのかは亮の腕を強く掴み、空の居る部屋からでて怖い剣幕で亮に言い放った。「あんたなに言ってるの!?あんたが何て言おうと今の空の親は亮なんだよ!?ただ一緒にいるだけ?それがどれだけ空にとって大事なのか分からないの?一緒に居たくてもそれが叶わない子だっているんだよ!」息を切らし亮の肩を掴んだほのかに亮は「…ありがとう…わかった空ともしっかり向き合っていくよ」「うん、それが良いよ」部屋の向こうではベットの上でその声を空は聞いていた。
「よし!空とも向き合うし今回の依頼もしっかり解決するぞ!まずはその家族のもとに行くところからだな」
ありがとうございました。
今回は日常パート多めにしてみました。ほのかのおかげで亮の迷いが晴れるといいですね。