file.8 なぜ、失踪した恋人を探し続けるのか
前回のLostMemoryは、突如サルガタナスで科学者をしていた山下ほのかが探偵事務所を訪れ、創始者で父の石動要を止めて欲しいと依頼された。それと同時に失踪した恋人を探して欲しいとの依頼もあった。
コンコン 探偵事務所のドアを叩く音が聞こえ入ってきたのは、刑事の二宮だった。「どうも、頼まれていたこと調べてきましたよ、ん?彼女は?」「二宮さんありがとうございます。あー、別の依頼人?ですかね、お気にせず」「はぁ、じゃあ」と封筒に入った資料を取り出した。「飯塚さんと山田さんの間には特に変わったことはなく、なんなら同棲をしていますね。飯塚さんはそことは別に仕事用に別のマンションを借りているそうですでそこに今はいるようです」「そうですか…同棲していた部屋はどうなりました?」「今は誰も住んでいませんが、その部屋は飯塚唯の名義で今もあります」
「二宮さん、私その部屋を調べてみたいのですが…」「わかりました、準備しましょう」
「本当に連れ戻さなくてもよかったのですか?」地下道をギフトとジーンが歩く音が響いている。「しつこいぞジーン、家族が離れるのは心が痛いが仕方ない。それに…」「それに?」ジーンがギフトの含みのある言葉に引っかかる。「今回、あの探偵が追っている失踪事件、おれの家族がまた変わった形でSDMを使っていて中々面白いことになっていてな、そっちの方が気になる」
ガチャっ タワーマンションの一室の玄関が開く音がする。有名作家が同棲で住む場所だ、外からの眺めもよく外のアクセスも良い場所だ。その部屋に亮と二宮が大家から借りた鍵で入った。部屋に入ると整理整頓され綺麗な部屋に二人の写った写真や思い出の品などが置かれている。「特に変わったものはなさそうですかね」二宮が亮に話しながら棚などを開け見ていた。「どうでしょうね」と亮も返事をしながら机の引き出しの中を確認していた。そこに一つの日記があった。パラパラと亮はめくり眺めていた、二人の付き合ってから今までの事が色々書いてある。「これは!?」ビクッ 亮が大きな声を出し二宮が驚き「どうしましたか?」「二宮さん、この日記の最後のページとこれを見てください」「なっ!まさか…」二宮の目が開き日記と手元の物をみてさらに驚いた。「山田さんの失踪の謎がこれで解けました」
ブロロ キッ!一台の車がついた場所は崖の下では海の波が打ちつけ潮の香りが心地よい海岸であった。そこにはその車より先に亮がいた。
「飯塚さんを連れてきました」桜木が運転席、助手席から二宮が降りて後ろのドアを開け降りたのは、飯塚唯さんだった。「どうしたんですか?探偵さんわざわざこんな所に、しかも此処って…」「ご足労ありがとうございます、そうですここは飯塚さんと山田さんと交際して始めてきた思い出の場所です」「なんでそれを?」「すみません、少し調べさせてもらいました。お気を悪くせず」「はぁ」「山田さんの失踪した理由が分かりましたのでお話をしようかと」「え!?海斗の居場所が分かったんですか?」飯塚さんの表情がパッと明るくなり「良かった!居なくなってから仕事も全然手つかずだったんです…それで?海斗はどこに?」
「…お伝えします。海斗さんは…」「え?なに?」何かを濁す探偵に戸惑いながら聞くと、探偵が持っていた袋から一つの日記が出てきた。「これは何かわかりますか?」「ええ、私の日記ですが」「最後のページをみてみてください。そこに真実が書かれています。貴方の言葉で」飯塚は渡された日記に目をやると
『殺した殺した殺してしまった海斗を 全部海斗が悪いんだ』
驚くべき事が書かれており飯塚は動揺し「え、え、え、」と言うだけであった。「これは?」「やはり書いた記憶はないんですね。なぜかわかりますか?」と言って亮は持っていた袋に手を伸ばした。「これは、SDM型腕時計というものです。同棲していた部屋にその日記とこれが一緒に置いてありました」「なにそれ?」「この腕時計を使うと記憶を抜き取ることが出来るんです」「記憶…を?」意味が分からず困惑している飯塚を待たず「推測ですが、貴方と山田さんの間で何かトラブルがあり、この海岸で山田さんを殺めてしまった。それで貴方はこの腕時計を使いその記憶を抜き取り忘れてしまった」衝撃の言葉を羅列していく探偵に飯塚は「何を訳の分からないことを言ってるんですか!!ふざけないでください!海斗を私が殺した?絶対にあり得ません!」大声で探偵の言うことを否定していた。それに対し「……全てはこの腕時計のリューズを逆回転させれば分かることです。良いですか?」「はい、意味の分からないことを!もし違えば訴えますからね!」亮はゆっくりリューズを逆回転させた。次の瞬間「うっ!」飯塚が頭を押さえ息づかいがどんどん荒くなっていった。抜いた記憶が戻っていったのだ。「そんな!そんな!私が!?海斗を!?」
三ヶ月前 「え?唯と別れろ?」「そうだ、君と交際していると唯のイメージが悪くなってしまう。だから君と別れて欲しいんだ」「どう言うことですか!そんなことを言う権利があなたにあるんですか!?」事務所内で飯塚唯の会社の社長と山田海斗が言い争っていた。「これは唯のためなんだ、分かるよな?」「唯のため…?」
その日の夜、「うーん!この潮の匂い好きだわ」「そうだな…」飯塚と山田は例の海岸で海を見ながら話していた。「それで?海斗、話って何?」山田は自分の手を強く握り小刻みに震えていた。「…別れて欲しい」「え?どういうこと?」「その言葉の通りだよ、俺達は合わなかったんだよ最初から…だから、別れようそして別々の道を歩んでいこう」「なんで!?嫌よ!なんで急に!」「もう決めたことなんだ!」飯塚の手を振り払い山田は背を向けた。(これも唯のため…)
「いやよ!あなたと別れるならここで死んでやる!」そう言い飯塚は崖の前の手すりを乗り越え飛び降りようした。「唯!やめろ!」「離して!あなたと一緒に居れないなら!」飯塚が落ちないように身体を押さえる山田だったが「うわっ!」足を滑らせ崖から落ちてしまった。「海斗!」落ちた山田は暗く探すことが出来ず、夜の海に消えていった。
同棲していた部屋に戻った飯塚は取り乱し日記に『殺した殺した殺してしまった海斗を 全部海斗が悪いんだ』と殴り書きをして「はぁはぁ!私が?海斗を殺した?」頭を掻きむしり発狂していた。そこに「良いですね~あなたのその感情」部屋の中に黒ずくめのメガネをかけた男が一人立っていた。「誰っ!?あなた!どこから!…」その言葉を無視し「嫌な記憶は忘れたいですよね?これを使えば嫌なこと全て忘れられますよ」その男は飯塚にSDM型腕時計を渡し「記憶を忘れることが?」「はい、さあ使ってみてください」その信じられない誘惑に戸惑うがこの否定したい気持ちを忘れるため、縋る思いで飯塚はその腕時計のリューズを自分に向けて回した。「うっ!」目を強く閉じた飯塚が次に目を開けた時、「あれ?私、何してたんだろ?こんな暗い部屋で。海斗はまだ仕事かな?ご飯用意しておこうかな!」そう言って、日記とよく知らない腕時計を引き出しにしまった。そして、さっきまでいた黒ずくめの男もそこから消えていた。
「きゃーー!」全てを思い出した飯塚は発狂しのたうち回っていた。「飯塚さん!落ち着いて!」二宮が落ち着かせようと近づくと「来ないで!」と強く拒否した。
「貴方は自分の犯した罪を…記憶を忘れることで、自分の心の平穏を保っていたんですね」「山田さんは貴方のためを思って別れることを決意したんです」
「そんな!ごめんなさい!海斗!」そんな悲痛な叫びはこの広い海に消えていったのである。
事件は解決した。まさかこんな結末になろうとは…飯塚さんはあの後、逮捕され山田さんの捜索も行ったが見つかることはなかった。お互いを思う気持ちが悲惨な結果を生んでしまったのだ。「ところで、なんで君はここにいるんだ?」亮が探偵事務所をほのかが掃除をしているところを止めた。「ん?なんでってあたしもここで働くことにしたから」「まじで!?こんな美女が!?うちの事務所で?大歓迎だよ!」幸太ははしゃぎ喜んでいた。「全く…」その姿に呆れていた。「はい、これ」とほのかぎおもむろにポケットから腕時計を取り出した。「これは?」「それは、身に付けている者にSDMで記憶を抜かれるのを防止できる物よ。信用してくれたお礼よ」ニッコリ笑いまた掃除を再開した。「それより!空くんめっちゃ可愛いんだけど!」一緒にいた空を撫で回していた。「あんまり空をいじめるなよ」だが、空は満更でもない表情しており、亮は呆れつつ「まぁ、いいか」賑やかな事務所になってきたな。
ほのかを新たな事務所のメンバーとして迎え入れることになった。
ありがとうございました。
なかなか悲しい事件でしたね。じぶんも忘れたい記憶はありますがそういうものに限って忘れられないんですよね。
最後にほのかが仲間に加わりました。亮はほのかの依頼を達成することが出来るのでしょうか。