file.addition 忘却の純愛 8
私立探偵の杉山亮が、鴨市のメモリーサーキュラー阻止してから、一年後の話
鴨市から離れた街の大蔵市。アパートで暮らしている透の隣の部屋で大きな音がして確認すると、倒れている男と聖がいた。聖を守るため透は完全犯罪を企てた。
既に探偵を辞め、喫茶店を営んでいた亮とほのか。透と親友である亮がその不可解な事件の謎を解くのであった。
ポケットに入れていたスマホが鳴っていることに亮は気づいた。画面を見ると刑事の二宮からであった。現場の同行に本来は二宮が行く予定であったが、急用のため三宅が代わりに行っていた。今は喫茶店まで送ってもらい一段落ついたところである。
「もしもし」
「もしもし、今大丈夫ですか?杉山さん」
「ええ、大丈夫ですよ」
亮は電話に応答した。二宮の通話の後ろからガヤガヤと音がしていた。まだ何か仕事をしているのだろう。
「急遽行けなくなってしまって申し訳なかったです!代わりに三宅を行かせましたが無礼は無かったですか?」
二宮は少し小声で話していた。亮は微笑むように答えた。
「こちらこそ無理を言いまして…三宅くんは警察として正しいことをしていましたよ」
「そうですか?なら良かったですよ~」
「今の用事が終わってからで良いのですが…また頼まれてほしいことが」
「もちろん杉山さんのためなら」
透はアパートの駐車場に車を停めて外に出た。聖の部屋を横目で通りすぎ、玄関の鍵穴に鍵をさした。すると、聖の部屋から大きな足音が聞こえた。ドアの鍵を開ける音がして、聖が外へ出て透に話しかけた。
「日向さん」
急いで外へ出たためか、聖は少し息が上がっていた。
「接触はしない約束のはずですよ?あの日から…」
透は聖の方を見ることなく話した。
「でも…どうしても話したくて…」
「何も話すことはないはずです。あまり話しているとどこかで警察が見ているかもしれない」
そう言い、透は解錠しドアノブに手を掛けた。その様子を見て慌てるように聖は伝えた。
「なんで私を助けてくれるんですか?ただの隣人の付き合いくらいで…
そもそも日向さんには何も関係の無いことなのに…」
聖はずっと不思議に思っていた。透が何故ここまで協力してくれているのかを。結城誠を殺したのは自分なのに事情聴取と張り込みだけで逮捕に至っていない…。
それに事件が起きた日のアリバイを話しているだけでここまでこれているのだから。
透は聖の言葉を噛みしめるように、深く息をして顔を少し上に向けた。
「…………何も心配しないでください」
透はその言葉を残し、1度も聖を見ることなく部屋へ入っていった。聖が待って、と止めたがいなくなってしまった。聖はその場でしゃがみ手で顔を覆い泣いた。
亮は再び二宮からの電話に応答した。
「もしもし、今電話大丈夫ですか?」
「もしもし、大丈夫ですよ」
亮は営業時間であったが、勝手口に出て二宮の電話をとった。
「先日頼まれていたものですが」
「何かわかりましたか?」
「ええ、さすが名探偵といった所ですね!そんなところに目をつけるとは…!」
そこからしばらく二宮に頼んだものの結果報告を静聴していた。話が進むごとに亮の表情は険しくなっていった。
「これが頼まれた件の報告です。もしかして、もう犯人がわかったんですか?」
「ええ…大方は」
言葉が詰まっているように感じた二宮。
「誰なんですか?」
「おそらく本当の犯人は日向透です。ですが…」
「え!?」
「少し時間をください。まだわからないことがあって…ここだけの秘密にしてください」
「分かりました、待っていますよ」
「ありがとうございます」
「もしもし、たっくん?」
亮はその日の夕方に透へ電話をかけた。
「これから会えないかな、話をしたい」
その言葉に察したように透は答えた。
「いいよ、せっかくだし久しぶりにキャッチボールでもしながら話そう」
「わかった」
PM19:00過ぎ 周りは暗く公園の灯りだけが辺りを照らしていた。グローブでボールを受ける音が良く響いていた。
「それで話って?」
キャッチボールを始め、少しの沈黙がありそれを打ち破ったのは透であった。
「…」
話をしたいと持ちかけた亮だったが、なかなか話さなかった。
「何を話すのを躊躇ってるの?」
「…この街で起こった焼死体事件の犯人は…君なのだろう?」
「なぜそう思うんだ?」
亮の話す内容はだいたい予測していた透はノンタイムで応えた。
「まず疑問に感じたのは、この事件の容疑者が隣人の沢村さんであるということを聞いた時からだ。
探偵をしていた性で無意識に考えてしまった。事件の概要を聞く限り、女性一人の力ではあんな死体処理は出来ないと。だから、透くんを協力者として仮定すると色々と結びついていく」
「なるほど」
「推測だが、被害者を最初に手に掛けたのは沢村聖だ。被害者の目撃情報があったのは1月20日が最後だ。ストーカーの経歴がある被害者が沢村宅に押しかけて、頭を打つかで気絶したのだろう。それに気づいた透くんはその日のうちに身体を拘束し養護施設の倉庫に次の日、1月21日の夜まで監禁した。
そして夜になると現場まで連れていき、無抵抗の被害者の頭を何度も殴打し、歯を抜き身体を燃やしたのだろう。おそらく沢村宅で頭を打った箇所を隠すためのカモフラージュとして…」
「…」
「周りには身分証と指紋があったそうだ。ここまでやっておいて、一貫性がないのが一見不自然だが、カモフラージュで身元が分からなくなるのは、犯人にとって困るから後々身元が分かるように、わざと身分証などを残したんだ」
「何故?」
「それは…沢村聖に警察の目を向けさせるため。だが、実際には沢村聖は被害者を殺していないし、沢村聖には関係の無い1月21日の話だから追求があっても耐えることができ、透くんはそれを隠れ蓑に事件が終わるのを待つことができる」
亮は一通りの事件の概要を話した。
「面白い話だね、だけど、物的証拠がなければたっくんの言っていることは推測の域を出ていない。捕まえることはできないよ」
透は話を聞き終わり、顔色は変えずボールを投げた。それを受けとる亮。
「実は養護施設の祭りに行った時、事件当日に倉庫から物音がしたと証言があった。透くんが不在の間に調べさせてもらった。髪の毛が落ちていてDNA鑑定したところ被害者と一致した」
その言葉に透は眉間にシワがよった。
「だけど、1つ。わからないことがある」
「?」
「何故人殺しをしてまで沢村聖を守ったのか」
ここでは口にしなかったが、亮は初めて沢村聖と会った時の透の顔を忘れていなかった。その顔は恋をしている顔であった。これは何の根拠にも証拠にもならないがそれが殺した動機なのだろうと。
だが、それだけで人を殺すほどの人間ではないことは、再会してからの透との付き合いで理解していた。
「何でなんだ?透くん!それほどまでに沢村聖を庇う理由って…」
透の手は止まり、ボールを握ったまま黙っていた。そして、透はグローブを手から外した。
「さあ、寒いしここまでにして解散しよう」
「透くん!」
「…探偵をしていると聞いた時からこうなってしまうことは予想していたよ」
「だから友達として真相を聞きたくて…」
「友達…?俺のことを…覚えてもいなかったくせに…」
透は去っていった。その言葉は亮の胸に深く突き刺さり止めることもできなかった。
翌日、今日も変わらず喫茶店与一は営業していた。昨日のこともあり亮は黄昏ていた。すると、また二宮から電話があった。すると、口調は慌てているように感じた。
「もしもし、どうしたんです?」
「もしもし!さっき交番に日向透が自首してきました!焼死体事件の犯人は自分だと!全て自分が仕組み殺したと」
亮は眉間に手を置いた。電話越しに二宮の呼ぶ声がしていたが出れる気力がなくなっていた。
ありがとうございました。
1月20日に被害者が聖の部屋に行き、頭を打ち気絶。それを部屋を越しに聞こえていた透は、部屋に向かい起こったことを把握。
それから被害者を拘束して養護施設の倉庫に監禁。1月21日の19:00くらいに現場に連れていき殺害。気絶したときの傷を隠すために殴打と抜歯と燃焼を行った。
2人とも逃げきるために、透は聖と誘導するために身元が分かるようにわざと置いた。
という、感じですね。書いていて自分でもわからなくなってしまいました…。次回に透の犯行動機が判明する予定です。