file.addition 忘却の純愛 6
私立探偵の杉山亮が、鴨市のメモリーサーキュラー阻止してから、一年後の話
鴨市から離れた街の大蔵市。アパートで暮らしている透の隣の部屋で大きな音がして確認すると、倒れている男と聖がいた。聖を守るため透は完全犯罪を企てた。
既に探偵を辞め、喫茶店を営んでいた亮とほのか。透と親友である亮がその不可解な事件の謎を解くのであった。
聖は車に乗り込み、そそくさとエンジンをかけてアパートを後にした。
透は亮を駐車場付近で見送ることになった。亮は透の方を振り向き尋ねた。
「なぁ、透くん…つかぬことを聞くが、恋人は?」
透は、両手を口元に持っていき息を当てて暖めながら答えた。
「いないよ」
「そうか…」
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
不思議に思った透は聞き返した。だが、亮はなんとなく。と歯切れ悪く返答した。
「今日はありがとう、また今度」
亮はそう言い、アパートを後にした。透はまた今度と少し暗い声で答えていた。
アパートから亮の姿が死角になるくらいの距離になったくらいで、亮は声をかけられた。刑事の三宅であった。風貌からして刑事だなと理解した。
「朝早くすみません実は、、」
「警察の方ですよね?」
「あ、ああ、ご存じならお話が早い。お伺いしたいことがありまして…」
「何をですか?」
亮自体は警察に対してやましいことはしていない。あるとしたら、鴨市にいた時のことだ。だが、そんな雰囲気にも思えない。だとしたら、このタイミング…透についてか?と無意識に推理した。案の定、遠からずのことを聴かれた。
「沢村さんについてなにか知っていることはありますか?」
「沢村…?」
「えっと、先ほど出てきた部屋のお隣の方でして」
「残念ながらさっきが初対面でして、特にお話しできることは」
「そうなんですね、ありがとうございました」
「いえ、何かあったんですか?」
亮がそれとなく事情を聞こうとするが、まだ不確定要素ですし、守秘義務がありまして…とやんわり断れてしまった。それもそうだ。亮はもう行っていいですか?と聞いてその場から離れようとした時、三宅が乗っていた車から誰かが降りてくるのが分かった。
「まさか…杉山さん?」
その声に聞き覚えがあったが、上手く思い出せず反射的にその声の主の方向を見た。すると、そこに立っていたのは二宮であった。
二宮は亮が鴨市で探偵をしていた時に、警察の協力をしていた。亮と警察を繋げていた刑事であり、サルガタナス関連の担当をしていたのだ。だが、何故二宮さんが?と頭の中がフル回転して考えた。
「に、二宮さん?」
「あー!覚えていてくれたんですね!お久しぶりですよ!」
「1年ぶり?くらいですもんね」
「急にいなくなるなんて悲しかったですよー!」
「それはすみませんでした…あれがベストな判断だと思いまして…二宮さんこそ何故ここに?」
亮の問いに、二宮は異動があったと答えた。サルガタナスの担当の書類仕事が終わり、その後異動を告げられ大蔵市に来て三宅とバディになったとのことであった。
「お2人知り合いなんですね」
感動の再開っぽい雰囲気を見ているだけなのもあれだからと声をかけた三宅。
「そうなんですよ、この方は何をかくそう、、」
「う、うぅん!」
亮は大袈裟に咳払いをして、寒くて風邪を引いたかなととぼけた。二宮も言ってはいけないんだったと思いだし、何て伝えようか言葉を捻り出した。
「んーと、とりあえず凄い探偵さんなんですよ!今もやってますもんね?」
「いえ、今は…」
亮はこの人は、ことごとく自分の地雷を踏み抜くのか…と心の中で思っていた。
「へぇ、探偵さんなんですね」
そこまで興味は示さなかった三宅。二宮はてっきり、大蔵市焼死体殺人事件のことを調べているのかと思っていたと話した。亮は全くそのつもりもなかったし、そもそも透のお隣さんが関与していることすら知らなかった。
「沢村さんは目撃者なんですか?あぁ、でもそれだったら張り込みしませんよね」
「ええ、まだ容疑者候補の1人なんですよね」
「そうなんですね」
「あれ?あまりご興味はないですか?」
「まぁ、探偵稼業は引退している身ですので」
「そうですか…ではあのアパートにこれからも行くなら気をつけてくださいね」
「何をですか?」
「実は沢村さんが容疑者の最有力候補なんですが、アリバイもあるけど事件当日の行動が不自然でして…協力者がいるのではと、それでお隣の日向さんも何かしら関与しているのではと考えてまして…」
亮は、歩道を歩いていた。自宅に帰る前にスーパーで買い物でもしようと思い、自宅から近いところまで歩いていた。二宮が自宅まで送ると言ってくれたが、考えたいことがあると伝え二宮と三宅と別れた。
考えたいこととは勿論、大蔵市焼死体殺人事件のことである。今までまともにニュースの内容を聞いていなかった亮。それでいて改めてネットで検索して概要などを漁った。
事件が起こったのは、1月21日の19時ほどで被害者は結城誠。ドラム缶に入れられて歯も抜かれ燃やされた。と。歯の治療痕や指紋、毛髪などのDNAが根こそぎ消されてるのに何故、被害者の事が分かったのかネットニュースには詳しく載っていなかった。
顎を触りながら考える亮。何故急にこの殺人事件に興味を持ったのか。それは犯人がおそらく聖か透なのではないか…と。まだ鈍った直感で感じ取っただけの証拠も根拠も何もない状態だが、そんなような気がして仕方なかった。
次の週の休日、亮はほのかを連れてある場所へ向かった。そこは、ふたば養護施設である。透の職場であり今日は、養護施設で市民の人と一緒に祭りを行うことになっている。前々から透に誘われていたのと、透と少し話したいと思ったからである。
ほのかは車を持っていたため、乗せてもらい養護施設へ向かった。駐車場に車を停めて中へ入った。入ると受付をしてスタンプラリー式になっており、施設内を回るようになっていた。屋台や催し物もあり割りとちゃんとしてると、ほのかが言っていた。
少し歩いていると、透を見つけた。似たタイミングで透も亮とほのかに気づき手を振った。
「やあ、来たよ」
「ようこそ、たっくん。それに…彼女さん?」
「違うよ」
「即答しないでよ!」
「あはは、仲が良いんだね。案内しようか?」
「そうだね、甘えちゃおうかな」
透は施設内を案内した。透はいつも通りな口調で話していた。だが、亮は少し間を置きながら話していた。すると、唐突に亮が透に尋ねた。
「透くんは、仕事は休むことはあるのかい?」
「と、唐突だなぁ、ほぼ休まないかな?それが?」
「いや、何となくだよ」
その後は、透も職員に呼ばれ離れた。ほのかと一緒に一通り施設内を回った。
「こういうのなんか良いね」
「そうだね」
「あたし、こういう祭りとか無縁の生活してたから…誘ってくれてありがとね?」
「そう思ってくれたなら嬉しいね」
「なんで誘ってくれたの?」
「歩いてここまで来るのは遠いからね、ほのかは車持ってたし」
「え!?ただの足ってこと?」
「違うよ~」
「最っ低!」
激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームになってしまったほのかを食べ物でなだめようと屋台を探していると、倉庫の近くを通った。そこは以前に透とキャッチボールをする際に、グローブとボールを取り出していた所だ。その近くでキャッチボールをしている小学生くらいの子ども達がいた。
キャッチミスをしてボールが亮の近くまで転がってきた。ボールを拾う頃には子どもは近くまで走ってきていた。亮はどうぞと渡した。元気な声でお礼を言ってくれて可愛いなと感じながら、オジさんみたいなことを聞いてしまった。
「キャッチボールは好きなの?」
子ども達はまた元気な声でうん!と頷いた。
「普段は透お兄ちゃんが一緒にしてくれる!」
あの倉庫は透が管理しているらしく、キャッチボールなど外遊びの時には透に伝えて開けてもらわないといけないらしい。さらに、興味深いことを子ども達がはなしてくれた。
「でも、この前あの倉庫ガタガタしてたよ!透お兄ちゃんは気にするなって言ってたけど」
「ガタガタ?ちなみに何月何日かわかる?」
「んー、1月21日?あんまり覚えてない!」
「そうか、ありがとうね」
亮は倉庫に目を向け、顎を触った。すると後ろから透の声がした。
「たっくん、ここにいたのか」
「透くん」
「なにかあった?」
「いや?たまたまこの子達と知り合いになったんだ」
そう言って、子ども達と透に別れを告げてその場から離れた。透は子ども達に何を話していたか聞き、亮の後ろ姿を見つめ固唾を飲んだ。
ありがとうございました。
二宮刑事が再登場しました。そして、ようやく主人公が事件に絡み始めましたね。遅い笑