file.addition 忘却の純愛 3
私立探偵の杉山亮が、鴨市のメモリーサーキュラー阻止してから、一年後の話
鴨市から離れた街の大蔵市。アパートで暮らしている透の隣の部屋で大きな音がして確認すると、倒れている男と聖がいた。聖を守るため透は完全犯罪を企てた。
既に探偵を辞め、喫茶店を営んでいた亮とほのか。透と親友である亮がその不可解な事件の謎を解くのであった。
喫茶店与一は、筒状の焙煎機で焙煎を行うシリンダータイプを使っている。亮達の前任者のマスターがこだわって使用していたのもをそのままにしている。
苦味から酸味まで広くバリエーションがあり、口当たりがまろやかものや、シルクのようにきめこまかいものまで多種多様の珈琲を扱っている。以前営業していた喫茶店NeverStartで培った知識と経験を元に使いこなしていた。だが、ほのかは珈琲はさっぱりでカフェオレとカフェラテの違いが分からないくらいだ。基本ホールで接客を担当していた。
営業は平日のみのAM07:00~16:00までだ。短い時間だが繁盛していた。珈琲と軽食の評判はもちろんのこと、何より顔が良い。
新規の客達はそれ目当てで来るものも多い。午前中はご高齢の人達、昼からは大学生と思われる人が来ることが多く、客足は途切れることなく忙しい。何回か地元のテレビ局から取材のオファーが来るが全て断っている。
特にカウンター席は人気であった。何故なら、眼鏡姿の亮の顔を拝みながら飲む珈琲は格別だとSNSで広まり、この前なんか団体でカウンターに座りたいなんて言ってきた客もいたくらいだ。
人気メニューはサンドイッチで、隠し味にマヨネーズに味噌を混ぜてありそれが好評である。
亮とほのかが何故この喫茶店与一を経営しているかというと、約一年前に鴨市で記憶が失くなっていくという謎の現象が発生していた。その裏では、サルガタナスという組織が糸を引いており人々から"大事な記憶"を抜き取り、それを富裕層が買い取るビジネスをしていた。
亮もその被害者の一人で、自分の記憶を失くして自暴自棄になったところに本物の杉山亮が現れた。生きる意味を教えられ、杉山亮が凶弾に倒れた後は、名前を引き継ぎ、事件の解明と自分の記憶を取り戻すため奮闘していた。
ほのかの父親はサルガタナスのボスの石動であり、ほのかも科学者として手を貸していた。だが、不信感を覚えたほのかは組織を抜け出し、亮に協力するようになった。
サルガタナス壊滅させた後は、亮は偽名を使い探偵活動をしていたことを世間にばらされたため、ほのかと一緒にひっそりと鴨市からいなくなったのであった。
新天地として選んだのは大蔵市であった。この街は鴨市からも離れており、都会と自然が上手くバランスを取り良い街である。亮はその街にある喫茶店与一に立ち寄ったところ、マスターが淹れる珈琲に惚れ通いつめたのであった。だが、マスターが高齢であり持病の腰痛を患っていたため店を閉めようとしていた。
亮はこの味を失くしてはいけないと自ら立候補し、店の名義はマスターのままで跡を継いだのであった。
PM16:00をまわりほのかが店の入り口の看板をopenからcloseに裏返した。その足でカウンター席に座りへたれた。
「ぶわぁー!疲れた…」
ほのかは喫茶店で働くときは長い髪をしっかり後でまとめ清潔を守っている。歩くときに香る匂いが良く、通った後の匂いを嗅ぐ客もいる。亮もさりげなく嗅ぐ時もある。
「今日もたくさんお客さんが来たね」
「嬉しいんだけどさっ、さすがに来すぎじゃない??喫茶店ってこんなにバタバタするイメージがないんだけどっ」
ほのかは自分が思い描いている喫茶店のイメージをしつつ、愚痴のような嬉しいようななんとも言えない事を言っており、亮は、はははっと軽く笑いながら皿とコップを布巾で拭いていた。
「ほのかはよく働いてくれてるよ、頼んだわけでもないのに」
「いや、一緒に鴨市出たのに一人で喫茶店やりますって言われたら悲しくない?そりゃ、あたしもやるよって言うよ」
「そうだね、日頃のお礼に明日予定なければ夕食を奢るよ?」
「はい!はい!暇です!予定ありません!彼氏もずっといないです!」
「じゃあ、決定だね。レジ締めをお願いできる?」
「はーい」
ほのかは手を上げ、さっきまでの疲れを感じさせない子どものように飛び上がりレジに向かった。
そんな和やかな雰囲気の中で、喫茶店に設置してある一台のTVから地元のニュースが流れた。それは、ジョギングコース近くで焼死体が発見された事件である。
亮は殺人事件の単語が耳に入りTVを凝視、概要を聞いた後何事もなかったように、テーブル拭きを始めた。
そんな亮の姿にほのかは、探偵の血が騒ぐの?と問うた。軽く笑って流されたがほのかは追撃の如く、もう探偵の仕事はしないの?と続けた。
すると、笑顔がなくなりテーブルを拭いている亮の手が止まった。ほのかは怒らせたか?と内心ドキドキしたが、すぐに笑顔になり
「もう、探偵はしないよ。喫茶店の仕事の方が向いてるかもね?」
と、冗談を言うように振る舞った。その笑顔はどこかぎこちないのはすぐに分かった。だからこそ、ほのかは聞くのを辞めた。
片付けも終わり2人は私服にエプロンを畳み店の灯りを消した。亮はこれから友達に会うようだ。なにやら幼い頃の友達だとか、その再開はつい最近であった。確か、1月21日の朝であった。
いつものように開店し同時に常連客が入ってくる。一通り注文を聞いた後、黒のセットアップのジャンパーを着用した男性が来店した。ちょうどカウンターが空いていたためそこへほのかは案内した。少し落ち着かなさそうな様子に亮も気になったが、その男性はブラック1つと注文をした。その男性は服装は怪しそうだが、顔はかわいい顔したイマドキの系統であった。
注文してからソワソワと周りを見たりと挙動が怪しかったが、ふと目の前で調理をしている亮を見た後から、挙動が落ち着き何度も顔を見ていた。
亮はチラチラ見られることは慣れているが、それにしても何度も見てくるため、つい何か顔についてますか?と聞いてしまった。話しかけられ少し驚いた表情をしていたが、恐る恐るその男性は亮の顔を見て尋ねた。
「もしかして、たっくん?」
ありがとうございました。
亮とほのかが鴨市を立ち去ってからのざっくりとした説明を書きました。