file.Altruism 忘却の純愛 1
私立探偵の杉山亮が、鴨市のメモリーサーキュラー阻止してから、一年後の話
鴨市から離れた街の大蔵市。アパートで暮らしている透の隣の部屋で大きな音がして確認すると、倒れている男と聖がいた。聖を守るため透は完全犯罪を企てた。
既に探偵を辞め、喫茶店を営んでいた亮とほのか。透と親友である亮がその不可解な事件の謎を解くのであった。
日向透の朝は、スマホのAM 07:00に設定したアラームの音で目覚める所から始まるのであった。
透は規則的な生活をしており、寝る時間は日付を越える前には必ず布団に潜り、アラームの設定と睡眠時に流す動画サイトの動画を流し就寝している。
そして、AM 07:00に起きる習慣があるためアラームが鳴る前には目が開くこともしばしばあった。だが、今日はアラームの音で起きた。昨日は本を熱心に読みすぎて布団に入っても中々寝つけなかったのが原因だろうと、透は起きてから分析してしぶしぶ布団から出た。
透の仕事は、養護施設の職員をしている。8時30分には始まるためそれより早く家から出られるように、ルーティンのように着替え、洗面、うがい、軽食、昼食の準備をした。
季節は1月で、透が家から出る頃は寒く、十分寒さ対策をしたがマフラーをしてくればよかったと後悔するが、取りに行くのも面倒なんで玄関の鍵を閉め、車のエンジンをかけた。
住んでいるアパートは2階建ての1階の奥にあり、お隣さんの玄関の前を通ることになる。
お隣さんも仕事に行くために支度を始めている音がした。お隣さんは沢村さんと木村さんカップルが住んでいる。彼氏の木村さんは現在出張で不在であり、彼女の沢村さんはネイリストをしている。
2人は婚約しているそうだ。…近々結婚を控えており結婚式も予定しているそう。もちろん透は呼ばれることはないだろう。
透とお隣さんは近所付き合いは多くはないが、偶然会えば話すこともあり良い関係を保っている。
聖は婚約している彼がいなければ惚れていたと思うほど、透とはうまが合い知らず知らず深い話をしてしまう。
1月20日透はその日残業をした。来月養護施設で行われる街の人を招待する祭の準備をしていたからだ。透は腕時計を確認し、PM 21:00頃となっていた。この時間は特に冷えるためさっさと部屋に入り暖を取りたい所であった。駐車場に車を停めた。
駐車場の外灯は薄暗く縁石に足を取られないように、小走りに部屋に向かった。アパートの前には塀があり道路側からは見えづらいようになっていた。透は、ふとその方向をみるとアパートをジロジロ見るような黒のジャケットを着た男がみえた。透は目が合ったが、特に気にも止めず部屋へ向かった。
お隣さんは既に帰っており、部屋の明かりがついていた。良い匂いが透の鼻を刺激した。カレーであった。透は足を止めそうになったが、なにかを振り払うように頭を振り、部屋のドアの鍵を開け中へ入った。
透は急いで暖房のリモコンを手に取り電源をつけた。部屋の中も凍えるように寒く身体を擦りながら荷物を椅子に置いた。温水で手を洗い、浴槽を洗ってスイッチを押した。その頃には部屋もさっきより暖かくなってきていた。
透は、夜ごはんを何にしようかと冷蔵庫を開け考えていた。だが、買い物をあまりしていなく食材もさほどなかった。どうしようかと顎を触りながら考えていると、壁の向こう側、お隣さんから大きな音が何回か聞こえた。一回くらいならたまにあるが、短い間で何回も聞こえ不思議に思い冷蔵庫を閉めた。
その数分前、透の部屋のお隣さんこと聖はネイリストの仕事をしている。専門学校を卒業し市内でネイリストととして働いていた。
専門学校で出会った友人の智子に現在働いている職場のオープンスタッフに誘われ共に働いている。昔からの憧れであった仕事なだけに毎日が充実していた。
今日も仕事は19時に終わり、自己研鑽で職場に残り勉強をしていた。終わったのは20時で帰りに24時間営業のスーパーに行き、買い物を済ませ帰ったのが20時30分。
そこから、肉を炒め野菜を切りカレーを作っていた。玄関を開け中に入り横を向くと、すぐキッチンがある。そのため21時くらいにお隣さんの透が帰ってくるのが分かった。
聖はなんの仕事をしているか聞くと透にはぐらかされた事があるため、分からないが忙しそうなことはわかる。透とは積極的に話すわけではないが、帰りが同じタイミングだった時などは立ち話をするくらいの合い柄であった。
今のアパートに引っ越した時にはもう透が住んでおり、全くの初対面であるがビックリするほどうまが合い、話が弾むことが多く同棲している彼氏の翔に焼きもちを妬かれることもしばしばあった。だが、気が合う隣人でありそれ以上のラインは越えない距離感である。
彼氏の木村翔は営業の仕事をしており、出張も少なくなかった。今も一週間の出張で5日目である。
一人で食べるため2日くらい持つように作っているカレーを煮込んでいる時、玄関のチャイムが鳴った。聖は最初翔かと思ったが、まだ帰る日ではないし帰る連絡もなかった。誰か分からないため、恐る恐るドアのロックを外しゆっくり開けた。
すると、男性の大きな手がドアを強く握ってきた。瞬間的に危ないと判断した聖は開けかけていたドアを閉じようとした。だが、既に手があるため閉めることができなかった。外からは痛って!と声が聞こえた。やはり翔ではなかった。しかもその声には聞き覚えがあった。聖は血の気が引き、がむしゃらにドアを閉めようとしたが、男の力には敵わず開けられてしまった。その衝撃に聖は尻もちをついた。そんな聖を見下ろすように見ていたのは、黒のジャケットを着た男 結城誠であった。
「みぃつけた」
ニヤニヤと笑い声を抑えていた。
「な、なんでここが…」
「おれからは逃げられないよ?」
そう、結城誠は聖のストーカーであった。街中ですれ違い声をかけたのがきっかけであった。その時は隣に男がいたが関係なくナンパしたが、隣の男に引き離され失敗に終わったが諦めきれず後をつけたりして養護施設にいることが判明した。
その後も施設の周りをうろつき、外に出掛けようとしている聖にしつこく話しかけることもあった。聖は警察に通報し、厳重注意をされそれから姿を現すことはなかった。
「い、いや!」
聖に近づく結城誠から離れようと部屋の奥の居間まで逃げた。だが、逃げ場はなくそれを分かっている結城誠は変わらずニヤニヤしながら土足で部屋に入った。
結城誠は聖に抱きつき匂いを嗅いだ。
「いい匂いだ」
聖の悲鳴をよそに、胸を揉んだ。その恐怖から逃れようと両手で結城誠の身体を押した。その拍子に壁にぶつかり姿勢を崩した。息を乱した聖を結城誠は、先ほどまでの笑みを消し睨み付けていた。
「いてぇな、てめぇ!」
結城誠は怒りに任せ、聖を蹴り飛ばした。
その時にテレビに当たり、テレビ台から聖上に落ちてきた。結城誠は何度も倒れている聖を蹴った。聖は身体を丸め耐えていた。だが、蹴りをやめる気配はなく何度も何度も。
次に結城誠は聖の髪を掴み起き上がらせた。抵抗する聖を裏拳で殴り、聖はキッチンまでよろけた。玄関はすぐそこで外へ逃げ助けを求めようと、身体を玄関に向けた。聖の意図を読み外へ行かないようにしようと、居間から追いかけようと走った。
「逃がすかよ!」
だが、踏み込んだ瞬間的に下に敷いてあるカーペットに足を滑らせ、聖の横の机の角に側頭部を強打をした。
うっ!と聞こえそのまま倒れた。動かないため聖は顔を覗くと、強打した側頭部から出血をしていた。
その光景を見て、聖は死んでしまったと思い身体の力が抜け、腰が砕けた。過呼吸のように乱れた呼吸の中、聖の脳内は警察を呼ぶべきかや翔に連絡をするべきか等、動揺の中で最大限脳を働かせていた。
その少しの静寂が流れていた部屋に、打ち破るかのようにチャイムが鳴った。その音に聖は心臓が飛び出るかのように、強く鼓動を始め口を手で覆った。
さらにもう一度チャイムが鳴った。二度目はそれほど驚かなかったが、少し冷静になれ今度は誰が来たのか考えた。とりあえず震えた声であったが、どちら様ですか?と尋ねた。
すると、玄関の外から聞き覚えのある声が聞こえた。
「隣の日向です」
ありがとうございました。
ロストメモリーの続編?になるお話です。
ある小説に影響を受け、完結させたこのシリーズを復活させてしまいました…。素人表現はおおめに見てニュアンスでたのしんでください。