file.Xtra Edition 憎しみのその先には 前編
今回の話は、file.10とfile.11の間で起こった事件の前編です。
20XX年7月10日 今日の鴨市の天気は快晴。昼下がりでこの暖かさは皆眠くなってしまう時間帯だ。だが、亮は刑事の西尾と二宮と一緒にある建物の屋上へと続く階段を駆け上がっていた。「後少しで屋上に出ます!」二宮が二人に声をかけた。バンッ!屋上の扉を開け、亮達は息を上げながら足を踏み入れた。ベンチと転落防止用の腰より上の柵があるだけの殺風景の場所、そこには拳銃を持った女性が快晴の大空を見上げ一人立っていた。「…もうこんなことはやめるんだ」
なぜ、こうなったかというと、今から一週間前になる。ある事件に遭遇し二人の警察官と巡りあった。この出会いが悲しい事件の始まりになるとは…
20XX年7月3日 一週間前の鴨市某所の動物園 「空!楽しいか?」「うん!」亮とほのかと空の三人で動物園に来ている。もちろんプライベートである。サルガタナスの事件で訳ありの家族と出会い、今まで声を出すことができなかった空が遂に声がでるようになった。それの記念で空が行きたかったという動物園に来たのだ。「空が動物が好きだったなんて知らなかったな、帰りに動物の本でも買っていこうか」「ありがとう!お父さん!」「お父さんだって!良かったね亮!」「嬉しいが慣れないものだな」
動物園の中を一通り見て周り、餌体験や触れ合いをしてきた。退園して本屋があるショッピングモールに三人が向かっていると、ピーポーピーポー 救急車とパトカーのサイレンが混ざりあったような音が一帯を包み込んでいた。「なにか事件でもあったのかな?行ってみる?」ほのかが亮に話しかけた。「どうだろうな、空もいるし遠回りして行こう」亮が遠回りできる道を探していると、「ボクは大丈夫だよ、気になるなら見に行ってきてよ」と空から許可が出たので好奇心に駆られサイレンがする方へ赴いた。向かうとすでに野次馬で溢れており奥を見ることは叶わなかった。救急車一台とパトカーが数台も停まっており、亮は野次馬の大群をかき分け先頭まで出ることができたがテープが貼ってありこれ以上進むことは出来なかった。その現場では鑑識が検証していることはわかるがブルーシートが視界を遮りどうなっているのかは分からないようになっていた。「なんだ、何が起こったか分からないのか」少し落胆し空達の元に戻ろうかと考えていた亮に声をかけたものがいた。「あれ?杉山さん?」声がした方向はテープの奥からであった。「あ、二宮さんこんにちは」刑事の二宮がおり軽く会釈しあった。「さすが杉山さん、事件の匂いを嗅いで来たんですか?」冗談交じりに話す二宮に、「いえ、今日は空とほのかと動物園に行っていてその帰りなんです。それで、近くのショッピングモールに寄ろうとしてたら物々しい雰囲気だったので様子を見に」「空くん達とですか、そういえば声が出るようになったと言ってましたね良かった良かった」「ありがとうございます」軽く会話をした後亮が「ここで何があったんです?」「ここでは何ですので概要がまとまったら探偵事務所に行きます。もしかしたら助けを頂かないといけないかもしれないですので」「分かりました」
「二宮」「あ、西尾」亮と二宮の話に入り込んできた人物の名前は西尾という刑事で長身イケメンときた。「うちの後輩の小田切見てないか?」「いや?現場ではまだ見てないなー」「ったく」「では杉山さんまた今度」二宮と西尾はブルーシートの中へ入っていった。
亮は空達のところへ戻った。「どうだった?」「ブルーシートでよく分からなかったよ。とりあえず本買ってここを離れようか」「うん」
20XX年7月7日 探偵事務所へ二宮と西尾ともう一人刑事が訪れた。「昨日は事件お疲れさまでした」「いえいえ」軽い会話をして二宮は「では、紹介させてください。こっちのイケメンが同僚の西尾で隣の子が後輩の小田切です。二人は刑事課で働いておりバディを組んでいます」「こんにちは」「こんにちは」挨拶を交え西尾が亮に話しかけた。「あなたが街一番の探偵と伺いました。もしよければ助言を頂きたく二宮に同行させて貰いました」「そんなに堅くならないでください。街一番って言っても私しかいないので…」礼儀正しい印象の西尾と少し人見知りっぽい印象の小田切という小柄の可愛らしい女性で紅一点で頑張っているそうだ。「二人は付き合ってるんですか?」唐突にほのかが二人に尋ねた。二人は慌てることなく対応した。「いえ」「スマートな対応だ」「よく聞かれますので」
亮は刑事三人を応接間に案内し飲み物を提供した。「どうぞ」「ありがとうございます」「では、事件の概要を説明していきます」二宮が鞄から大きめの封筒を取り出し写真と資料を机に並べていった。「今回の事件の被害者は村上郁子(21)市内の大学生です。死因は転落死となっております。ショッピングモール横の建物の屋上から彼女の指紋が検出されそこから落ちたものと見られます」「事故死や自殺の線は?」「今のところその可能性は少ないですね」「なぜ?」「転落する前に通行人が屋上から誰かと話す声を聞いた人がいました。それに、この事件は同一人物による連続殺人事件の可能性が高いからです」隣に座っていた西尾が二宮に続いた。「連続殺人事件?」「はい、ここ数週間のうち鴨市で死亡した人が連続で五人います。共通点として今回亡くなられた村上さんと同じ大学のサークルに所属していたということが分かりました」「偶然にしては妙ですね…」亮は顎を触り資料に目を通していた。「そのサークルとは?」「小田切、頼む」「はい、サークルの名前は演劇サークルと言って人数は15人程でありコンクールにも優勝経験があります」「変わったとこはあまりなさそうですね」「いえ、連続殺人事件の前に一人の女性が自殺をしているんです」二宮が話し始めた。「自殺を?」「はい、原因は分かってはいないですが一人暮らしのアパートの一室で首吊り自殺を…」「そうなんですか…」「その後からです。サークル内の連続殺人事件が起こったのは、その担当刑事になったのは私と小田切でして…手掛かりが掴めず二宮に応援を要請したところで杉山さんに出会ったということなんです」「なるほど、そういうことですか」
「これからも殺人が起こる可能性があります。ご協力をお願い致します」「こちらこそ微力ながらお手伝いをさせていただきます」
「連続殺人事件の共通点は同じサークルにいるくらいしかないんですか?」亮が写真を見ながら質問をした。「今のところは…殺害場所も方法も全部別々でして法則性も見当たらないのが現状です」「それだと未然に防ぐことは難しいですね…15人のうち5人が殺害され1人が自殺となると後9人を守るにもどのタイミングでその犯人が行動するのか予測がたてづらい」「そうなんです…」「とりあえず、そのサークルの人達に聞き込みをしましょう」「今はそのサークルは活動停止になっているんですよ、色々ありましたし」「そうですか」「ですが、共通点になるかは分かりませんが殺害された5人と後一人の子達は仲が良く一緒によく居たそうですよ」「では、その子だけでも話を聞きに行きましょう」身支度を始めると小田切が西尾の元へ行き、「すみません西尾さん。ちょっと体調が悪く何日か休ませて欲しいです」「…そうか、ちゃんと治せよ」「すみません、失礼します」亮達に一礼をして退室した。「またか」「またって?」「今回の事件が起きてから体調を崩すことが増えてな…あんまり言いすぎるとパワハラって言われる時代だからなあんまり言えない」「辛いね」二宮と西尾が話しており、「小田切さんって人はどんな人なんですか?」「小田切は二年前に新人として刑事課に配属され私が教育係として今もバディを組んでいます。若干無愛想ですが、真面目で真剣に仕事に取り組んでくれます」「良い子そうですね、私にもあんな、おしとやかな女性が居たらなー」「なによ!」ほのかが亮に蹴りを入れた。「いたっ!」
鴨市某所 「試作機が盗まれた?」「すみません!刑事から逃げている時にどこかに落としてしまい…」「この間抜けめ!世が世なら切腹ものだぞ!」「まあまあそんなに怒るなジーン、謝りにきただけでも大したものだ」ギフトとジーンとその部下が集まっていた。「石動が試作機の子機をバイヤーに渡していて買い手に使わせようとしたがそれがバレて落としたというわけか」「ですが、あの試作機はまだ理論上の話でしかなくどんな効果があるかも分かりませんよ?」「まあ、様子を見てみようじゃないか」