file.13 どこで私達の時間は止まってしまったのか
前回のLostMemoryは、サルガタナスは人々から記憶を抜き取りそれを売買していることが判明した。さらに、正体不明だったマスカレードが幸太であり杉山亮に復讐を誓っていた。だが、杉山亮は既に死んでいると驚くべき告白が…
「杉山亮がもう死んでいるだと…なら!お前は一体だれなんだよ!?」
「…今から三年と少し前、私は自分の記憶を突如失くした。今となってはサルガタナスの何者かに抜き取られたと推測できるが昔の私にはなにがなんだか分からなかった。ついさっきまで生きていた自分が思い出せない。どんな人物で性格で交遊関係で…名前も…」「そんな…」
「それから荒れたよ…今では恥ずかしくて思い出したくもないよ…ギャンブルにどっぷり浸かった。そこで今の探偵の資金調達は出来ていたのが幸いだ。それに暴力沙汰もしょっちゅうしていた」
ドスッドスッ「痛てーな!おれ達がなにしたって言うんだよ!」「知るか、賭けに負けてイライラするんだよ」その少年はギャンブルに負ける度にチンピラに喧嘩を売り鬱憤を晴らしていた。だが、「あ??だれだ?」「この前はうちの仲間が世話になったな」路地裏に連れていかれ、そのチンピラの復讐に遭いリンチにされたそんな時だ。「やあ、君たち。大勢でのいじめは良くないぞ?」「ああ!?誰だお前!」チンピラ達が路地裏から出てきた推定30代の紳士的な振る舞いの男性に注目した。「見ての通り名探偵だ」「ふざけやがって!」その少年は薄れる意識の中で紳士的な男性がチンピラを撃退しているところを見て気絶をした。
「痛てっ!」「起きたかい?少年」「あんたはさっきの…」次に起きたのは海沿いで街の夜景が見れる場所であった。「ずいぶん荒れているようだね、何かあったのかい?」「うるせーよ、あんたには関係のないことだ」「いいや、君を助けた仲じゃないか。大いに関係があるよ?」「知るか」その少年ははその場から立ち去った。それから数日後、その少年は喧嘩に明け暮れていた。そこに、「また喧嘩かい?飽きないね」「またあんたか」名探偵を名乗る男が話しかけてきた。「…おれには何もない、ギャンブルして喧嘩して…これくらいしか自分を見いだせない」うつむいている少年に名探偵は「そんなことはない、少年の価値はこんなことで決まらないしもっと輝けるはずだ」「輝ける?」「どうだ?私はこの街で探偵をしているんだ。手伝ってみたいか?」「探偵?おれが?無理だよ出来るわけがない」即答で名探偵の誘いを少年は断った。また後日、「またあんたか、しつこいぞ」「良い人材を見捨てておけなくてね」「なら、あんたの目は節穴だな」「それより、あんたあんたって言われるのは嫌だな。私の名前は杉山亮。少年の名前は?」「少年って呼ぶな…おれには名前がない」「名前がない?」「ある日突然、自分のことに関して全て忘れてしまったんだ」「奇妙なことがあるんだね、だから荒れていたというわけか。若いね~」「バカにしてんのか!?」バタッと杉山亮は立ち上がり「よし!決めた!少年の記憶を私が取り戻そう!この杉山亮が!」「ものすごい自信だな手がかりはあるのか?」「いや?なにも」「なんだよそれ!?」「はっはっはっ」そこから二人の奇妙な…いや必然な出会いが少年を変えていった。
「え?今は探偵をしていない?」「厳密にはやっているんだが、直接的顔は出さず情報提供だけをしている」「なんで?」「数年前にな、当時強盗や万引きなど色々な犯罪をしている者がいた。その頃の私は調子に乗っていてな夢中になって犯人を追いかけていた。だが、その犯人を目の前で死なせてしまった」「え?」「相手がどんなに凶悪だろうが死なせてしまっては私も犯罪者と同類だ。それにその家族も近くにいて、泣いて駆け寄る姿と私を睨む眼光を見て全ての自信を失くしてしまった。だが私には探偵しかない。だから今の形で必死に続けているんだ」少年は杉山亮のどこか悲しげな表情にかける声も見つからず黙っていた。「すまないな、暗い話をしてしまった。だからこそ君にはこんなことをせず輝けることをしていてほしい!後悔する前にね」「おれにそんなことが出来るのかな」「できるさ」その日から少年は杉山亮の助手として探偵のいろはを教わっていた。仕事を覚えていく中でなんだか楽しそうであった。「師匠!なんかおれこの仕事好きかもしれない!」「師匠はやめなさい師匠は。なんかムズムズする」杉山亮と少年は絆を深めていったその数ヵ月後、「ふーんふーん」真夜中の鴨市の某所、少年は歩道を歩いていた所悲鳴が聞こえた。「うわー!」「ん?あっちでなんか声が聞こえたな…事件か!探偵の勘が騒ぐぜ!」少年は声がした所まで行き建物の影に潜み様子を伺うと、そこにメガネをつけた中肉中背の男とハットを被って顔はよく見えないが中年のコートを着た男性が一人の大きな男に近寄り何かをしていた。「くそ!やめろ!」その大きな男が大きな声を出していると、中年男性が「我々を嗅ぎまわっている輩は必ず処分をする。だが、貴様は使い道がある」と手首につけた腕時計を大きな男に向けた。大きな男は悶え気絶をした。
言葉では表せない恐怖に「なっ!?」少年は思わず声を出してしまい、それに気づいた男達は「奴を捕まえろ!」メガネをつけた男が取り巻きに指示をして少年を捕まえようとした。少年は無我夢中で走り逃げた。「はぁはぁ」少年は物陰に隠れ周りを見渡していると「おい」死角から肩を捕まれ「うわ!」少年がビックリするとそこには杉山亮が立っていた。「そんな驚くなよ、どうしたそんなに汗をかいて」少年はこと細かく杉山亮に見たことを伝えた。「なるほど、腕時計で…噂で聞いたことあるな」「どうすればいい!?」「私達の方が不利だな、一旦逃げよう」「なんでだよ!犯罪を見逃すのか!?」「勘違いをしてはいけない、探偵は警察じゃないんだ。無謀なことをして命を粗末にしてはいけない」そこに先程の取り巻きが来て「いたぞ!」「さっきの!」取り巻きに杉山亮が立ちはだかった。「師匠って結構強いんだな」「これは弟子を守るためだ。君はもう二度と暴力を振るってはいけない。生涯の約束だ」「わかったよ」「さあ、帰ろう」帰ろうとした時、杉山亮が何かに気づき「避けろ!」少年を突き飛ばした。すると、ドォン!遠くから銃声が聞こえた。「銃声!?どこから」少年が周りを見渡していると杉山亮に物陰まで手を引っ張られた。「くっ!」「師匠!!」杉山の身体から血が流れていた。「大丈夫かよ!すぐ救急車を!」電話をしようと携帯を出すと、それを杉山亮が止めた。「もう遅い、いいところに銃声が当たった。長くは持たない。君は逃げろ…」走る足音が聞こえ取り巻きが近くまで迫っていた。「そんなことできるかよ!一緒に逃げるんだよ!まだ教えて貰いたいこともあるし!それにおれの記憶を取り戻してくれるんだろ!?」
「その事なんだが私なりに色々考えていたが、もう私は長くない。だから良いことを思いついた」「なんだよ」「君が、杉山亮の名前と探偵事務所を受け継いでくれ。探偵の極意はデスクの中にある。そして、自分の記憶は自分で取り戻すんだ。依頼を果たせなくてすまないな…この依頼は君に…いや杉山亮に引き継ぐとしよう」「なに勝手なことばかり言ってるんだよ!師匠!無理だよ!偉大な師匠を引き継ぐなんて!」「いいや、できる。私が見込んだ男だ。私の一番の功績といっても過言ではない」「過言だろ…」名探偵はゆっくり目を閉じ杉山亮の手の中で生涯を全うした。「うわぁーーー!!」銃声の通報を受けたパトカーが到着し、その悲痛な叫びはサイレンに飲み込まれた。
「それからおれは…いや私は杉山亮を引き継いだ。表舞台に姿を現せば殺したはずの人物が生きていると焦って行動にでると思い探偵を続けた。師匠を殺した犯人を探し出すために…」「うそ…」ほのかは手で口を押さえていた。幸太は信じられないものを見るような目で亮を見ていた。「杉山亮の名前を言い続けたのは犯人を炙り出すためと、偉大な師匠の名前を皆の心に刻むためにしていたんだ」
「そんな!復讐の相手がもうこの世にいない?じゃあおれは今まで一体なにをしていたんだ!」「なあ、幸太…」 「くそ!もうおれには生きる意味がない…」幸太は手を持っているナイフを自分の首に当てた。「いや!幸太やめて!」ほのかが我に返り幸太を制止した。「来るな!もう放っておいてくれ、生きる目的もなくなって、お前達を騙して、おれには居場所もない」幸太は目を閉じてナイフを持った手に力を込めた。「待て幸太!」大声で呼ぶ声にハッとなり亮の方をみた。「この世に生きる意味のない者などはいない。もしそう思っているのなら私が生きる意味を与える」「…え?」「探偵事務所にもどってこい!もう一度一緒にやり直そう」「無理だよ、そんなことが出来るはずがない」「いいや、できるさ!私が見込んだ男だ」笑顔で幸太に笑いかけた。「…ありがとう」幸太は泣き座り込んだ。「ちょっと!その一緒にってあたしは入っているんでしょ!?」しんみりした雰囲気にほのかが割ってはいった。「もちろんさ、空も含めて皆でやり直そう」
「くそっ!幸太め!何を泣いている。早くそこの探偵と裏切り者を始末しないか!」遠くでその様子を見ていたジーンは、「使い物にならないな、あいつらといて毒されたか」録画していたカメラを止め、カバンの中から拳銃を取り出した。亮に向けて拳銃を向け狙いを定めた。ドォン!引き金を引いたジーンが目にしたのは、亮をかばった幸太であった。「しまった!」ジーンはその場からすぐに立ち去った。
「おい!幸太!?大丈夫か!?」「幸太!銃声がしたけどどこから!?」幸太に二人が駆け寄り声をかけ続けた。「すぐに救急車を…」「やめろ、これはダメだもうもたない」幸太の口から血が流れ吐血した。「そんなこと言うな…また私から大事な人を失わせる気か…」「亮…さっきは嬉しかったよ…これまですまなかったな。復讐ばかり考えて生きていたが、亮達と過ごした日々は全部が全部嘘って訳じゃない、楽しいこともたくさんあった」
「遺言みたいに言うなよ!生きろ!」亮は幸太の上半身を起こした。すると幸太が亮に紙を一枚渡した。「これはサルガタナスのボスがいる場所だ。探しているんだろ?頑張れよ…」「…幸太っ!」「ったく、おれがいないとなにもできねーな…おれは本当に…イケメンで…優秀で…亮の相棒で…」亮の腕には、さっきまで力のあった幸太の身体の重みが伝わってきた。幸太は幸せそうな顔で動かなくなってしまった。亮とほのかは幸太の死を悟り泣いた…。「なぁ、幸太?幸太!!相棒ーー!!」
ありがとうございました。
亮の過去が分かりましたね。ですが、幸太は…
次回からクライマックスに近づいてきますのでご期待ください。