file.12 なぜ、彼は真実を話すのか
前回のLostMemoryは、ついにサルガタナスの情報をつかみバイヤーを追い詰めたが、マスカレードが亮とほのかに立ち塞がった。新たな情報と亮が試したいこととは…
「この前の追いかけた時にバイヤーが落としていったこの招待状の所に明日行こうと思う」「仮面を持参?ってなに?」ハガキくらいの大きさの紙を持ちほのかに見せた。「多分、パーティーとかで著名人とかが身分を隠すために付けたりするために使ったりするものと似たようなことだと思う。ほのかの分も用意しておくよ」「ありがとうー」「この招待状には詳細がなにも載ってないからよく分からないな」
翌日の某所 指定された時間のバスに乗り、亮とほのかは目的地まで向かった。着いた場所は洋風の建物でパーティーという雰囲気の場所ではなく、店名はないが、何かの販売店のようなものであった。「金持ちっぽい人が多いね…」「だね、お金足りるかな?」二人は小話をしつつ店の中に入った。ギギッ 木製のドアを開けると薄暗いが広くちらほらと人がいた。「今日は新作は入っているかな?」「このシリーズいいね~」至るところで客の話し声が聞こえてきた。店には棚が何列にも並んでおり、デッキケース?のようなものがたくさんある。亮は試しに一つ手に取ってみると目を疑うものがあった。「…恋人との思い出?」(なんだこれ?作品名か?他のものはどんなものだ?)亮は他のデッキケースを取り出すと、家族と遊園地、高校最後の大会で優勝した さらに、友達との喧嘩等意味が分からないものばかりであった。(まさかとは思うが…)色々なデッキケースを見漁る亮に一人の店員が近寄ってきた。
「いらっしゃいませお客様。どんな記憶をお探しですか?」「…記憶?」「ええ、お忘れですか?招待状を渡されたときに伝えれられたと思いますが」「あ、ああちゃんと聞いてなくて」亮はこの状況に動揺し上手く笑うことが出来なかった。「ここでは人が生涯を全うする中で紡いできたもの…記憶の販売をしております。品揃えは良いですよ。良い思い出、嫌な思い出や平凡な一日等様々ですよ。特に人気なのが若い女性の記憶ですね、友達と一日遊んだだけの記憶でも高価で取引されるくらいです」「へ、へぇ…どんな人が買うんですか?」ひきつりそうな顔で続けて質問をする。「そうですね。お金をもて余している富裕層やコレクターの人が大半を占めております。順風満帆な生活を送っている人からすれば、必死で生きている人の記憶は興味の的になっており、大変人気になっております。お客様はどれを所望でしょうか?」「もう少し…考えます」店員は一礼し立ち去った。ほのかは絶句し一言も発することはなかった。亮も自分の頭を叩き気持ちと目の前で言われたことの整理をしようとしていたが飲み込めずにいた。亮がほのかの方を見て「ここを出よう。吐き気を催してしまう」「……うん」二人は一目を気にせずドアを開け外に出た。「はぁはぁ」息が詰まりそうな場所から解放され脂汗が出てしまうほど消耗してしまった。「頭が痛い」ほのかがしゃがみ伏せていた。「気持ちはわかる。今まで私達が把握できていない所で人から記憶を抜き取られ、ここで売買されていたのだろう」
「悪趣味にも程があるでしょ」「何億人もいるんだ、そういう人種もいるのだろう…だが…許されるはずがない!大事な記憶が消えて悲しんでいる人もいるんだ」「でも、色々なデッキケースがあったけどSDMで抜き取れる記憶ってその人にとって、大事だったり印象が強いものだけじゃないの?」ほのかが亮に質問をする。「確かにな、不自然なものまである。どう言うことなんだろうな?」「とりあえずここの場所は把握できた。ひとまず帰ろう」
二人が話し合い帰路に着こうと帰り道の方角を見ると黒いマントに仮面を被ったマスカレードが立っていた。「あれ、マスカレードじゃない!?タイミングが悪いわね!」「ああ」亮が含みのある返事をした。「やあ、マスカレード。私達に何か用かな?」深呼吸をして心を落ち着かせ、亮がマスカレードに話しかけた。「知れたことを、お前に復讐をしに来たんだ」マスカレードはナイフを取り出しこちらに向かってきた。ほのかは立ちはだかろうとすると、マスカレードは機動力が高く壁走りをしてほのかを通り越し、亮に蹴りを入れた。亮は受け身を取り後方に倒れた。「亮!大丈夫!?」「大丈夫だ」
「いつまでそんな余裕な態度でいられるかな?」ほのかとマスカレードは臨戦態勢に入ったが亮が「やめろ!」と二人を止めた。「なんで止めるの!?」亮はほのかを横にどかしてマスカレードと対面した。「…もうやめようよ…幸太!!」「え…?」ほのかが亮とマスカレードを何回も往復して見合った。マスカレードはゆっくり仮面を外して素顔が露になった。そこには杉山探偵事務所の亮の相棒の幸太がいた。「え?幸太がマスカレード?なにかのドッキリ?」連続で受け入れがたい現実に合い錯乱してきたほのかに幸太は「いいや、ドッキリでもなんでもない。おれは亮を殺すためにここにいる。だが、どうしてわかった?おれがマスカレードだと」
「きっかけはいくつもあった…マスカレードに会った時、初めて会ったような気がしなかったんだ。それに、ギフトから足元をすくわれると警告を受けていたんだ。だから、思い付きで身近な人がマスカレードだと一人一人仮説を立ててみたんだ。そしたら一番その条件に合うのが幸太だったんだ。今思えば、幸太は一度も私と捜査をしたことがなかったんだ。人には向き不向きがあるからあまり気にもとめていなかった。」「そうだ。これこそ灯台もと暗しってやつだな」
「確信が持てるようになったのは、空が声を出せるようになる前後だった。幸太だけ声が出るようになって、喜んでいる様子はなくなにか焦っているようにも見えた。それに私が行くところにマスカレードやギフト達がいることが多く、動きが筒抜けになっている感覚に襲われた。仮説通りに行くなら、私が何をするかは幸太が一番知っていてその情報をサルガタナスに流していたんだ」
「そんな…嘘でしょ」ほのかがただ見ていることしかできず立ち尽くしていた。
「お見事。さすがは自分で名探偵と言うだけはあるな」
「なぜだ!なぜ、サルガタナスの仲間に…それになぜ私の所に来た!?」
「言っただろう、お前への復讐だ」「おれの家族を奪った杉山亮に…!!」「幸太の家族を私が奪った…?」
亮の何も覚えていないような言動に幸太は歯を強く食いしばり、「まさか忘れたとは言わせねーぞ!!とぼけるなら教えてやるよお前がしたことを」
亮、ほのか、幸太の三人を遠くでカメラを持って撮影している。「サルガタナスの邪魔者と裏切り者とその裏切り者が一堂に会するこの画は最高ですね~」カメラを持っていたのは、ギフトの部下のジーンである。「高性能のカメラで一点に集中させれば声まで拾える物だ。これであの探偵の弱みを全国に拡散させてもう邪魔をしないようにしてやる」不気味な笑みでピントを合わせていた。場面は三人に戻り、幸太が口を開いた。「今から10年近く前のことだ。」
『おれはまだ小さかった。両親は俺たち兄弟を養うために朝から晩まで働き詰めで支えてくれていた。だが、当時の不景気により父親がリストラされてしまったんだ。新たに雇用してくれる会社がなく、さらに母親が父親の分まで働き体調を崩してしまったんだ。悩みに悩んだ父親は強盗や万引きなど色々な犯罪に手を染めていたんだ。当時はその事がよくわからなかったが父親の決死の判断だったんだ。「お腹空いたか?ちょっと待ってろ」父親がスーパーに商品を盗みに行こうとして俺達兄弟を置いて走っていった。それを待っていた俺達のところへ遠いところから父親の声が聞こえた。「お前達!逃げろ!」父親は誰かに追いかけられていたんだ。だが、道路を横切ろうと飛び出した父親がブレーキが間に合わなかったトラックに引かれて死んでしまった。
「父ちゃん!父ちゃん!」おれの呼びかけに答えることなく即死で救急車がすぐに来た。道路の隅で泣いているおれのところに父親を追いかけて死に追いやった奴が来たんだ。「君たちのお父さんは残念だった…だが、君達は同じ轍を踏まないように一生懸命生きていくんだよ。お父さんの分まで」父親を殺しといて侮辱とも取れる発言をしやがった…「だれ?」「私は杉山亮、探偵だ」すぐにおれは復讐を考えた。だが当時のおれにはその力がなかった。だから情報を集めて確実に殺してやろうとしていたが、杉山亮はその日から表舞台に姿を表さなくなってしまい、足取りを終えず何年も経ち諦めかけていた中で、再び杉山亮が表舞台に出てきたんだ。この好機を逃すまいと相棒として近寄ったんだ』
「だが、探偵なのもあってお前は警戒心が強く信頼を得るまで何年もかかってしまった。そんな時サルガタナスから勧誘を受けてこのSDMを貰ったんだ。これは制限はあるが、任意の記憶を抜き取ることができる代物だ。これを使い、まずはお前の周りの人から杉山亮という人物の記憶を抜き取り孤立させようとしたんだ。流石は名探偵だ。お前の記憶を抜き取るのに手間がかかってしまったよ。あとは、ほのかや空だけだったがほのかはアンチSDMで記憶を抜き取れず、空は無意識におれを遠ざけていて不自然なおれの行動に気づいていたが、声が出ないからと油断していたんだ。だが、声が出るようになりおれのことをおまえ達にチクるかと思ってビビったぜ」
「そうだったのか、まさかあの話の子が幸太だったなんてな」肩に力が抜けたような体勢になり亮が話し始めた。「なにを他人事のように言ってるんだ!これでもとぼけるつもりか!?」「本当なの?亮…」ほのかが恐る恐る亮に尋ねると、「事実だ」「ようやく白状したかそれじゃあ…」「だが」幸太の言葉を遮り亮は話を続けた。「だが、それは私ではない。もう一人の杉山亮という探偵のことだ」「!!??」
「この際だ、全てを話そう。今までいろんな人を騙してきて気が滅入っていたんだ」「なにを意味のわからないことを!」間髪いれず幸太が食いかかる。「どういうこと?」
「杉山亮は…本物の杉山亮は既に死んでいる。」
ありがとうございました。
今回で色々物語が進みましたね。幸太の過去、亮の正体とは?