月下の城_4
いつの間にか晴れた空の月明かりに照らされ、チカチカと輝く大理石の床。それは今いる場所が離れから本城の大廊下に差し掛かったことを意味していた。
がむしゃらに逃げてきた彼女は、何故自分がここにいるのかを理解しておらず、それらが流れていく様子をぼんやりと見ながら走っていた。
だが遂には曲がり角でドゥカイの腕にぶつかって立ち止まることになる。
小さく謝罪を口にしつつ、メナは彼の視線の先を追った。
そこには、暗いが確かに人影が見えた。
皺だらけの手。長い髭。長年の日焼けにより浅黒くなった肌。一見するとただの細身の老人。だが、その印象に反するような芯が通った影像は彼が只人ではないことを知らしめていた。
彼はこちらに気づいたのか、警戒するような表情を覗かせた。
メナはそれが誰かに気がつき、声をかける。
「―――オウマ爺?」
「メナ様、ご無事で!」
ドゥカイはそれがオウマであると確信すると剣の柄から手を外し、彼に訊ねた。
「ここで何を?」
「―――待て、誰か来る……こっちだ!」
彼の言う通り、曲がり角の向こうに複数の駆け足が近づいているのが聞こえ、彼女たちは慌ててオウマの後を追う。
オウマは老齢には思えないほど軽やかに廊下を移動し、階段のそばで手招きをしていた。
「―――老師?」
ドゥカイが問いを発したのと、オウマが壁の隠し扉を開けたのは、ほとんど同時のことだった。