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闇追いのメナ  作者: 瑠璃色のてらさん
薄明の姫
21/58

文色が分かつ頃_2

「―――メナ様!」


メナは唐突に強烈な閃光で視界が一瞬白く染まり、目を閉じる。

そして背中に何かがぶつかったのを感じたのと同時に、馬車から吹き飛ばされた。


何もわからぬままに頭を包まれ、長い浮遊感を味わった後、地面に叩きつけられた衝撃でメナは我に返る。


(―――何が)


考えるうちに衝撃と共に聞いた轟音を思い出し、それがあたりに(ただよ)った()げつく匂いと結びつく。


「火薬……っ」


メナは慌てて身体を起こそうとする。


しかしその時、彼女の背中から何かが地面にずり落ちた。


「―――……」


メナは嫌な予感がして、ゆっくりと視線を向けて絶句した。


「ギノー、そんな―――……」


メナは慌てて彼女の肩を掴んで揺すり、声をかけるが、返事はない。

彼女の(ひたい)を伝って血は(したた)り、地面に赤い染みを作った。


「主人を(かば)って死ぬとは、不幸だが殊勝(しゅしょう)なものだな。馬鹿馬鹿しいが、おかげで助かったよ」


メナは聞こえてきたその声を振り仰ぐ。


「何が……っ!」


視線の先にいた彼女の全身は赤黒い班で覆われていた。


返り血だろう。


それが誰のものなのかは、確認するまでもなかった。


彼女の冷たい翠眼(すいがん)が、メナを見下ろす。


「何を怒っている、セプ・アタナティス(アタナシスのヒメ)。これは、お前が選んだ結果(・・・・・)だろう?」


それは違う。


メナは口を開いて、しかし何かに引っ掛かって言葉に詰まる。

頭の片隅に金色の光が煌めき、その色が彼女の瞳を思い出させた。


(鴉羽の使者―――……)


彼女は確かに選択肢を示した。


(―――わたしたちは道を選んで(・・・)いる)


間違えたのか。


(あの時、意地でもカゥコイ家に向かうべきだったと……)


何も言えずにギノーを抱えて(うつむ)くメナに、彼女は冷たく言い放った。


「―――無様だな。まあ、所詮は卑怯者(・・・)の直系、無理もないか。―――安心しろ、お前はまだ殺さない。イカコ・ネフター・ニコイの名において(ちか)おう。さあ、()く立て」


メナはかろうじて顔を上げ、彼女を睨む。


「どうして―――……」


「立て」


メナはギリと歯を食いしばり、ギノーを地面に横たえた。


メナは彼女の眠るような横顔に謝る。


(ごめんなさい、わたしの所為(せい)で―――……)


メナはよろよろと立ち上がり、その間を埋めるようにニコイに訊ねる。


「わたしがここに来ると知っていたのですか?」


ニコイがそれを「話すと思うか?」と鼻で笑ったのを聞き、当然かと(くちびる)を噛む。


対してニコイは少し考える素振りを見せ、考え直したのかニヤリと笑った。


「―――……まあ、これくらいは話してもよかろう。正直これに関しては、賭けだったものでな、当たった今は気分が良い」


「―――賭け?」


メナはさりげなく半身を引いて腰の剣に手を当てつつ訊ねる。


「城内に入った筈のお前たちが見当たらない。一人ならともかく三人もまとめて見失ったとあれば、抜け道でもあると考えて、その後の動きを予想すれば良い……抜け道を探す方が手間だ。救いを求める姫君の行き先としては、教会が一番妥当だろうよ」


メナはそれに空返事をしながら、今後の動きを頭の中で試行していた。

ともすれば、これから自分が行うことは、彼らの思いを無碍(むげ)にすることだ。


(―――だけど)


メナはドゥカイに教わった術を思い出し、身体に神経を集中させる。


メナにもわかっていた。

ドゥカイが敵わなかった相手に、自分が(かな)うはずがない。


(それでも!)


メナは(かたき)を見据え、一気に踏み込んだ。


メナが放った居合いは鋭く、ニコイの胴体に吸い込まれていく。


不意をついた渾身(こんしん)の一撃。


(入った!)


彼女はそれを確信する。


しかし―――……


「遅いよ」


ドス、と重たい衝撃を腹部に感じ、メナは地面に転がった。


訳もわからず(うな)ることしかできないメナの頭の横にしゃがみ込んだニコイは、メナの髪を掴んで持ち上げる。


メナは呼吸もできないような痛みに(もだ)えながらも、彼女の声をはっきりと聞いた。


「―――話も聞かず、時間稼ぎをした挙句の不意打ち。やはりお前は、卑怯者の末裔(まつえい)だ」


そのまま投げ捨てられるように地面に転がされたメナの(ほお)を冷たい涙が伝った。


無様に転げられたメナを尻目に、ニコイは部下にメナを運ぶように指示をだした。


それに従って幾人かのイカコ兵が整然と動き出す。


(あぁ―――……)


メナの元に近づいてくる彼らの足音を聞きながら、メナはどうしてこんなことになってしまったのかと、自問自答を繰り返す。


気が遠のいていく中で、メナは鴉羽の使者に提示された選択肢を思い出して目を閉ざした。


(―――やはり、初めから我が身を差し出すべきだったのでしょうね)


目を閉じる間際(まぎわ)に見えた明けの空は、白々しいほどに晴天だった。


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