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闇追いのメナ  作者: 瑠璃色のてらさん
薄明の姫
20/58

文色が分かつ頃_1

振り返ったメナの視界に入ったのは、翡翠(ひすい)のような新緑の鋭い瞳だった。


その女は派手に染められた絹織物を重ね着にして、ついでのように黒い外套を上から羽織っている。

年齢は自分と大差はないように見えるが、立居振る舞いはその見た目以上に貫禄があり、やけに大きく見えた。


メナは彼女の使った自分への呼称とその格好から、その素性(すじょう)を導き出す。


「―――山の民(イカコ)の者ですね」


メナの問いかけに、彼女は応えない。


しかし代わりに、その手に引きずっていた何かをメナたちの馬車に投げ入れた。


馬車が揺れるほどの衝撃があり、メナは肩を強張(こわば)らせた。


当然のように軍用格闘技術(ラ・アエ・バータ)を用いているばかりか、彼女は明らかに周りの兵たちを率いる者の振る舞いをしている。


彼女がこの集団の長であることは疑いようもない。


「返そう」


メナは彼女の言葉と共に投げ込まれたものに視線を向ける。

メナは初め、それが何なのか認識することができなかった。


しかし、その正体が徐々に頭に染み渡っていくにつれて、怒りが沸々(ふつふつ)と湧き上がってくる。


「―――……悪趣味な」


その濃密な血の匂いに、ギノーが口元を覆った。


それは、死体だった。


彼が着ていた革鎧は赤く染まり、彼の顔は酷く腫れ上がっていて、かろうじてそうだとわかる程度だった。


だが何故か、メナにはそれが()であることを疑いようがなく思えた。


(セジン―――……)


連鎖的に、先ほど投げ捨てられるように道を塞いでいたのも彼だと分かり、メナは彼女を睨みつける。


「なぜ、このような―――……」


「なぜ?」


彼女はメナを睨み返し、憎々しげに吐き捨てる。


「そいつは私の部下を三人も(・・・)殺した、殺されたとて文句は言えまい―――……確かにこれは意趣返しでもあるが……警告でもある。余計な真似はするな。お前たちもこうなりたくはないだろう?」


言われ、メナは言葉に詰まる。


しかし代わりにドゥカイが吠えた。


「黙れ、逆賊(ぎゃくぞく)が倫理を語るか!」


彼は馬に(むち)を入れていた。馬は混乱していななくと、そのまま走り出す。


「っ!?」


メナは慣性で体勢を崩す中で、ドゥカイの姿がないことに気づく。


「―――ドゥカイ!」


メナは叫び振り返るが、そこにはイカコの伏兵に斬りかかる彼の背中が見えた。

メナは馬を止めるか迷う。


道を塞いでいたイカコの兵たちは、猛然(もうぜん)と駆けてくる馬車を避け、道を開けた。


(包囲が……!)


メナは奥歯をギリと噛み締める。何もできない自分が心底憎かった。


「―――ギノー、背後の警戒をお願いできますか」


ギノーは青い顔だが、真っ直ぐにメナの目を見つめ返し、頷いた。


メナは飛び移るようにして御者台に座り、手綱を掴む。

そしてしばらく目を瞑り、唇を噛んだ。


ドゥカイの時間稼ぎを無駄にはできなかった。


(いまは、とにかく遠くへ―――……)

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