貴石の影_3
「何事ですか」
メナは訊きつつも、彼の背中の向こう側、行先の道を塞ぐように何かが倒れているのを見つけた。
「あれは―――……?」
嫌な予感がして、メナはドゥカイに訊ねる。
ドゥカイはメナの問いには答えず、ただ一言「急ぎます」と馬を旋回させた。
しかし、その顔が険しいものであることをメナは見逃さなかった。
「―――っメナ様、囲まれていますわ!」
悲鳴のような声でギノーが言う。
メナはその時になって悟った。
(待ち伏せ……!)
いま来た道を塞ぐようにして立っていたのは黒衣の集団。
つまりは、城を襲った連中だった。
彼らは今や馬車を取り囲み、ジリジリと近づいてくる。
丘の陰に潜んでいたのか。
メナはそう直感する。
ここまで来れば、もう安全だと考えていたこともあり、その衝撃は大きかった。
メナの頭をよぎったのはまず、彼らがどうしてここに居るのか、だった。
ここは教会領だ。
無断で兵を潜伏させていたのだとすれば、彼らは王朝だけでなく教会との対立も明確に示したことになる。
(それとも、初めから―――……)
「―――……間違い」
メナはその最悪な想定を頭から振り払う。
今は考えるべきではない。
そして、この状況を打破する方法を求めてドゥカイに振り返った。
彼の顔は険しい。それが何を意味するのかは明らかだった。
行くも帰るもできなくなったメナたちと、それを取り囲む黒衣の伏兵、両者の間に張り詰めた緊張が走る。
その張り詰めた沈黙を破るように、何かを引きずる音と、低めの女声が聞こえてきた。
「よく、ここまで来られたものだ。どうやって城を抜けた。セプ・アタナティス?」