大いなるカ
ふと思い付いたお話です。
なので面白さは保証しません。
ただただ作中世界の一つの出来事としてお読みくださいませ。
それは、とある日の昼下がりの事だったにょろ。
以前作った電波映像受信機を通じて現在の国際情勢を知るなり……近々、この国が戦争に参加する事を察して。
そしてそろそろ、国の上層部から戦争で使えそうな発明品を作るよう依頼が来るか……そんな事を思っていた時、彼女は現れたにょろ。
「お願いです、クルーエル様!!」
相手は見た目からして、国の上層部とは関係なさそうな女性だったにょろ。
さらに言えば彼女は、体を震わせながらこんな事をオイラにお願いしたにょろ。
「私の夫が……夫が潜入していたバルンガン帝国に、死んだ方がマシと思えるほどのダメージを与えられる発明品を……どうか……どうかぁ!!」
その顔に、般若を宿らせながら。
※
『私達はカを手に入れた!!』
とある国で発明されたという電波映像受信機から、声が聞こえてくる。
その国を始めとする国家の連合軍の代表が、私が所属するバルンガン帝国の軍に向けて放たれた声が。
『悪鬼の如きバルンガン帝国を完膚なきまでに無力化しうる、大いなるカを!!』
その内容を字幕で見るなり、軍の上層部に属する私は思わず笑ってしまう。
何かと思えば脅しか、と。
そんな脅しなど我々には無意味だ。
なぜならば我々は、とっくに……そう、加減を間違えれば、国家一つを軽く壊滅させうる超兵器を発明しているからだ。
それは、太陽が光り輝く原理を応用し発明された新型爆弾。
帝国の傘下にある国家所属の量子力学者共に作らせたまさに悪魔の兵器!!
これ以上の兵器など、作りようがない。
かの連合も、それに相当するような超兵器を作り出している可能性はあるが……諜報部の調べによると、バルンガン帝国が集めた科学者に匹敵する頭脳を持ってる科学者はそんなに多くないらしい。
というかそれ以前に、その悪魔の兵器の発明にどれだけの労力と費用が掛かったと思う? バルンガン帝国のように資金も人材も潤沢な国家ならともかく、向こうにそれに匹敵する資金や人材があるものか。あってもまだ、完成には時間が掛かるだろう。
なので先ほどの連合軍の代表の発言は、ハッタリだと思われる。
『バルンガン帝国よ、今からでも遅くない。今すぐ全戦闘行為をやめ、我々に降伏し――』
だから私は、その電波映像受信機のスイッチを遠慮なく切った。
我らが皇帝陛下が生きている間に世界征服を成し遂げねばならんのだ。でもってこれ以上聞いたところで時間の無駄である。それよりも上層部会議を進めねば。
「向こうに、我々の兵器の恐ろしさに関する情報を……真似されないよう、一部をぼかした上で伝えておけ」
同じく放送を聞いていた同胞が、部下へ指示を出す。
恐ろしい部分の情報のみを流す事で、連合軍を戦慄させ、それによって出来た隙を突く作戦のために。
「それから、そろそろランダーラ王国侵攻作戦を再開させろ。一気にカタを付ける事で、我が帝国軍の強さを改めて世界へと思い知らせてやれ」
別の同胞が部下に指示を出す。
そして、上層部会議に参加した私を含む全員が笑みを浮かべながら……その会議は終了した。
※
「全てのスパイの発見と粛清は終わっただろうな?」
「はっ! 一人残らず排除いたしました!」
私の質問に、部下は敬礼と共に即答した。
一週間前、バルンガン帝国軍の中にスパイが潜り込んでいる事が発覚した。
そしてそのスパイの排除の役割を、この部下に任せていた。
にしても、一週間も時間を掛けねば完全に排除できなかったのか。
私の部下の能力が低いのか。
それとも向こうのスパイの能力が高めなのか。
分からんが……とにかくスパイ排除の任に当たった部下には、一から教育を受け直してもらおう。
ちなみにスパイ共には、連合側の全ての情報を、人類が考えうる限りの、ありとあらゆる拷問を以てして吐かせ、ついでにその顔の型を取り、バルンガン帝国軍の諜報部が使う変装用マスクとして利用させてもらった上で、殺害。そしてその遺体を連合に属する国家の田舎に放置した。
これで遺体が発見されれば、バルンガン帝国がどれだけ恐ろしい存在か、たとえ馬鹿でも分かるだろう。
そしてバルンガン帝国へどう攻め込むべきか連合軍が考えている内に……バルンガン帝国軍が連合軍に速攻を仕掛ける予定である。
ちなみに、今回は悪魔の兵器を使うまでもない。
バルンガン帝国軍と連合軍の兵力には天と地ほどの差があるのだから。
「フッ、あと少しで世界はバルンガン帝国一色に染まるのだ」
※
だが、数日後。
ランダーラ王国侵攻作戦の実行中に……信じられない事が起きた。
「な、んだこれ…………は…………?」
目の前に広がるのは、バルンガン帝国軍の兵士共が次々に倒れていく光景。
そして、その影響で兵力が減った我々へ「さっさと国へお帰り」と、シッシッと手を動かしながら言う連合軍の兵士共の姿。
あまりにあり得ない光景を前に。
私は困惑し……同時に事の経緯を思い返す。
我々は侵攻作戦を順調に進めていたハズだ。
もちろん兵士共をベストコンディションにした上でだ。
そしてそんな我らバルンガン帝国軍の兵士共のスペックはまさに天下無双。
たとえ体温が三十九度になるレヴェルの風邪を引いても、一般人と十分前後やり合えるほどのスペックだ。
そんなバルンガン帝国軍の兵士共がなぜ急に倒れ……んっ? な、んだこの眠気は……!? ば、馬鹿な……昨夜は、今日のため、に……早めに寝、たハズ……。
※
『続いてのニュースです。ランダーラ王国へと侵攻中であったバルンガン帝国ですが、現地時間の午前十時十一分、我が国の切り札であるクルーエル・サニーティア男爵の発明品により完全に沈黙いたしまし――』
我が家の電波映像受信機が、戦況を詳しく伝えてくる。
そしてある程度の情報を頭に入れるなりオイラは……電波映像受信機を消して、先日依頼してきた女性の旦那さんであった、バルンガン帝国に潜入していたスパイの一人の葬儀のために、黒服を探しに行ったにょろ。
※
オイラは殺戮兵器を作らない主義にょろ。
なぜなら、そのせいでさらに強い兵器が他国で生まれたりしたら、さらに戦火が拡大して発明どころではないからにょろ。
そして今回オイラが、その顔に般若を宿してまで依頼してきた女性の頼みで発明したのは――新種の蚊にょろ。
蚊という生物は、血液が凝固するのを阻害する成分と麻酔作用がある成分を含む唾液を流し込んでから吸血するにょろが……今回生み出した新種の蚊は、刺されると即効で寝てしまうレヴェルまで強化された麻酔作用入り唾液を出せる蚊にょろ。
しかもしかも。
刺されてしまえば当分……それこそ、国力が低下するほど長い間眠り続ける事になるにょろ。
兵士はイコール国力。
そしてそのほとんどが眠ってしまえば少数で国を動かさざるを得ないどころか、その眠ってしまった兵士の世話も国はし続けなければいけないにょろ。
バルンガン帝国はそれでも、自国を維持せんと意地でも努力をするかもしれないけど……最終的には、その眠ってしまった兵士を見捨てるかもしれないけど、それはそれで国力の低下に繋がり他国に攻め込まれバルンガン帝国は消滅するにょろ。
だけどオイラは、この発明品を提供する代わりに連合軍とある取引したにょろ。
それは、依頼をしてきた女性の願いを叶えるための取引。
バルンガン帝国の兵士が寝始めたら手を出さず見逃すようにと。
そしてバルンガン帝国軍が自国に引き上げても、向こうが国力維持の影響で疲弊し切るまで、絶対に攻め込むなと。
女性の願い通り、より長く……旦那さんの命を、残酷な手段を以て奪ったバルンガン帝国を苦しめるようにと。
ちなみに連合軍のみなさんには、コウモリのと同じ超音波が出る携帯式ラジオを持たせたにょろ。蚊は進化の果てに、コウモリに簡単に食べられないように、コウモリの超音波を感じた瞬間に死んだフリをする習性を持ったにょろ。
なのでその超音波を流し続ければ、連合軍のみなさんはオイラが生み出した蚊に絶対に刺されないというワケにょろ。さらに言えば蚊はメスだけなので増える心配は無しにょろ!
「おっと、早く行かないと失礼にょろ」
それはともかく。
早く葬儀に行くにょろ。
というか、そのさらに後には、バルンガン帝国に攻め込まれた国々の復興支援のためのチャリティーイベントにも参加しなければいけないにょろ。
ふぅ、これだから戦争は。
発明のための貴重な時間を始めとするいろんなモノを奪う厄介な事柄にょろ。
「あ、そうだにょろ。こうなったら不老不死薬生成を前倒しに……っていやいや、今は葬儀に行かなきゃにょろ」
まぁとにかく。
オイラは急いで黒服を着て。
依頼してきた女性の旦那さんの葬儀へと向かったにょろ。
虫って、神様の次くらいに多いんでしたか。
殺した人の数(ォィ