ラノベ転生1話(クズ主人公注意)
「ん?」
俺はその場で固まった。
周りは、赤く派手な制服で身を固めた、可愛い女学生ばかり。
一見して、どこかの通学路のような気がするのだが――記憶にない。
ミニスカートから覗く、眩しい太ももを見ていると、女学生たちがヒソヒソとこちらを見ている。
そんなムチムチの太ももで、ミニスカを穿いているほうが悪いだろう。
下着が見えそうだし。
周りがムチムチの太ももだらけだったら、どうやっても目に入ってしまう。
俺だってなぁ……そう思って、俺の服の袖を見る。
「あれ?」
服の襟を確認すると、ブレザーだと解った。
肩には肩掛けカバン――白いシャツと赤いネクタイを引っ張る。
俺は、女の子たちと同じ色の制服を着ていた。
俺って、その日暮らしのしがないサラリーマンだったような……。
なんでこんな制服を着ているんだ?
なんだか、記憶が混乱している。
その場で立ち止まったまま考え込んでいると、記憶が二重になっているのに気がついた。
サラリーマンだった俺と、学生だった俺の記憶が2つ存在している。
どういうことだ?
二重人格? それとも、憑依?
学生の記憶を辿ると、このまま歩いて学園に向かわないと駄目らしい。
どうやら学生っぽいしな。
それは理解したのだが、周りは可愛い女学生ばかり。
男子生徒の姿はまったくない。
これはあれか?
ずっと女子校だったが、今年から男子も通学するようになったとか?
俺1人だけ浮いているので、周りからヒソヒソ……。
まぁ、これが子どもなら気に病んだりするところだが、中身はオッサンなのでどうってことはない。
痛い視線でも、当たらなければどうということはない。
俺は我が道を行く。
なんでこうなってしまったのか仕方ないが、学生になってしまったのだから、このまま演じるしかないだろう。
それにしても、また学生か?
可愛い女の子に囲まれるのはいいとして、いまさら学校の勉強なんてしたくはないんだが……。
勉強の内容なんて、すっかり忘れているだろうし。
そのまま女学生の流れについていくと、学園が見えてきた。
石でできた荘厳な作りで、学園というよりは、貴族の屋敷――みたいな感じ。
「あれ?」
俺の記憶がまた反応した。
この建物ってどこかで見たような……。
学園の校銘板に目が止まる。
「聖白薔薇学園……ん~?」
どこかで聞いたような……。
記憶を辿っていくと、ある単語がヒットした。
――聖白薔薇学園のゼロ魔法使い。
「俺が読んでたラノベに出てきた学園じゃん!」
そういえば、周りにいる女の子の制服も、ラノベの挿絵に載っていたものに似ている。
「なんだそりゃ? 俺は、ラノベの中に入り込んでしまったっていうのか?」
もしくは、転生?
そういえば、乙女ゲーの中に転生するって話が流行っていた気がする。
俺は、ラノベの中に転生したのか?
もしそうだとしても、読んだのは結構前なので、詳しくは覚えてないぞ?
そんなバカな――と、思ったのだが、決断するのはまだ早い。
もっと情報を集めなくては。
俺は、学園の門を潜った。
学園内に入ったのだが、相変わらず男はおらず、周りは可愛い女の子だらけ。
皆こちらを見て、ヒソヒソしている。
まぁ、女の子だらけの中に男がいたら、そりゃそうだろう。
俺の記憶からすると――まずは、ここの理事長に会う必要があるらしい。
俺の分の下駄箱はまだないので、とりあえず正面玄関から入った。
左側に小さな窓があって、そこが事務室になっているっぽい。
俺は窓を開けて、中にいる事務員に話しかけた。
中にいるのも、紺色の制服を着たお姉さんばかり。
「あの~、本日転校してきました、榊ゼロと申しますが……」
そうそう、主人公の名前はゼロだったわ。
こりゃ、俺が読んでいたラノベに転生ってことで間違いないのか?
いくらなんでも、ここまで合致すれば、間違いないような気がする。
「……伺っております。理事長室に向かって下さい」
美人のお姉さんの白い視線が突き刺さる。
なんか、あまり歓迎されていないような気がするが……。
「理事長室ってどこですか?」
女性が、ちょっと冷たい視線で上を指した。
「この上です」
見れば正面玄関の前に階段がある。
この階段を上ればいいということだろう。
「ありがとうございます」
靴を脱ぐ。
さて、靴をどうしたもんか……。
廊下にいるのも、みんな女の子ばかりだ。
じっと、こちらを見ている。
まじで男子学生はいないのか?
そういえば、カバンの中に靴を入れていたような気がする。
カバンを開けると、コンビニ袋に入れた上履きが入れてあった。
まだ俺の下駄箱も決まってないし、履いてきた靴をそのまま入れてしまおう。
俺は上履きに履き替えると、そのまま正面の階段を上った。
踊り場にある大きなステンドグラスから、七色の光が差し込んでくる。
多分、こんな作りになっているのは、正面の階段だけだよな。
階段にいる女の子たちが、スカートを押さえている。
そりゃ、そんな短いスカートを穿いているからだろう。
睨まれても、俺のせいじゃねぇ。
女の子たちを躱して、踊り場を180度ターンすると、階段を上りきった。
眼の前には、立派な黒いドアがある。
多分、あれが理事長室ってやつだろう。
近くまで行って上を見ると「理事長室」と、書いてある。
間違いない。
俺は、ドアをノックした。
「Come in」
なんか英語が聞こえたぞ?
俺は訝しむと、ドアを開けた。
「失礼します。榊ゼロ、入ります」
「来たわね!」
中にいたのは、えんじ色のミニスカスーツを着たメガネのお姉さん。
豊満な山と、見事な谷が露わになっている。
それなりの歳だと思うのだが、ウェーブした茶髪がゴージャスで、およそ学校法人の理事長という感じではない。
小説の挿絵でキャラを見たが、やっぱり本物は一味違う。
思い切り巨乳をモミモミしたいところだが、ここはぐっと我慢。
「来ました」
「ちょっと背が伸びた?」
「まぁ、成長期ってやつでしょうから」
どうやら、この女性は俺と知り合いらしい。
前に読んだラノベの記憶の中から大きな胸を漁ってみる。
彼女は俺の叔母さんで、親戚だな。
つまり、親戚のコネで、この学園にやってきたわけだ。
――となると、やっぱり甥っ子が、叔母さんの胸を揉むのはマズいな。
「お久しぶりです。叔母さんも、ご息災でなによりです」
「理事長と呼びなさい! 理事長!」
彼女が不満げな顔をしている。
叔母さんと言われるのが、嫌なようだ。
だって美人だけど、BBAやろがい。
そこは否定できないはず。
――と、思ったのだが、口にするのはマズい。
あくまで、この男子生徒を演じなければ。
「これは失礼しました。理事長」
「もう! 今回、こんなことになったので、すねているのね?」
こんなことというのは、彼女のコネで、俺を無理やり転校させたことだ。
「そのことなのですが――私の他には男子生徒を見かけなかったのですが、男子はなん人いるんですか?」
「……ゼロよ」
「はい、私はゼロですけど」
「違う! 男子生徒は、君の他にはいないの!」
「……やっぱりそうでしたか」
物語では、この学園は共学になったのだが、男子生徒からの出願がまったくなかったらしい。
それで、1人でも男子生徒を入れようということで、理事長のコネで甥っ子の俺に旗が立ったという。
呼び水係ってやつだな。
1人でも男子がいれば、他のやつらも釣られて入ってくるかも――みたいな皮算用だ。
そう上手くいくかね?
ちょっと難しいと思うのだが――それには理由が色々とある。
「それでは、今日から勉学に励むのよ♡」
「はい、叔母さん」
「理事長!」
「失礼しました。理事長」
「もう!」
俺が読んだ話では、ここは全寮制の学園だったはず。
彼女に話を聞くと、やっぱり寮があるらしい。
部屋もすでに決まっているというので、その場所を教えてもらった。
寮は学園からちょっと離れた場所にある。
持ってきた荷物を置いてから、教室に向かおうか。
木が茂る通路を歩いていくと、石造りの白い建物が見えてきた。
屋根は緑で綺麗だ。
「なるほど、こういう建物だったのか」
ラノベで読むのと、実際に見ると大違いだな。
屋根がついた玄関から入る。
理事長の話では、一番端っこに俺の下駄箱も用意されていると――あった。
ちゃんと榊と書いてある。
「げっ!」
変な声が聞こえてきたと思ったら、女子がこちらを睨んでいた。
男子が俺だけってことは、この寮も女子だらけってことだ。
「今日から入る榊だ。よろしくね」
一応、愛想をよくしてみる。
「!」
俺の笑顔を見て、女の子が慌てて逃げていく。
逃げることはないじゃないか。
こっちは中身サラリーマンだから、そんな行動を見ても、子供っぽいな――としか思わんが。
俺がガキの頃にもこんな感じだったろうか?
それとも、もっと子供っぽくしたほうがいいか?
う~ん――止めよう。
下手なことをしても、どうせボロが出る。
「うわ!」
廊下を歩いても、女の子たちから変な声が上がって、扉を閉じられる。
俺は病原菌かなにかか。
そのまま階段を上がる。
俺の部屋は、端っこの201号室だと聞いた。
茶色の扉の前まで来ると取っ手に手をかける。
鍵はかかってない。
「ふ~」
中に入る。
「きゃあ!」
甲高い声にそちらを見ると、裸の女の子が着替えをしていた。
美しい赤い髪の少女が、俺のほうを見て部屋の中央で固まっている。
彼女の髪は、燃えるような深紅の波となって肩を覆い、とても柔らかそう。
その輝きは、窓から差し込む光に照らされ、さらに鮮やかさを増している。
彼女の肌は陶器のように滑らかで、淡いクリーム色を帯びており、光を受けてまるで光を放つかのよう。
その完璧な肌は、赤い髪とのコントラストで、その魅力をさらに引き立てている。
プロポーションも美しく、長くしなやかな手足がバランスよく調和していた。
腰のラインは優雅にくびれ、どの角度から見ても美しい曲線を描いている。
肩は華奢だが、芯のある美しさを感じさせ、首筋は白鳥のように細くて繊細。
「おっと、失礼」
確か、このキャラは……。
「きゃああああああ!」
女の子が制服らしき布で身体を隠すと、叫び声を上げた。
俺は少し戻ると、扉の数字を確認する。
間違いなく201号室。
「ここが俺の部屋だって聞いたんだけど?」
「ふざけないで!」
「いやぁ――俺は理事長から言われただけなんだがなぁ……」
彼女がなにか投げつけてきたので、受け止めた。
思わずクンカクンカする。
「きゃああああああ!」
「なんだよ、まったく」
「お、男の分際でぇ! 私の裸を!」
彼女が顔を真っ赤にしている。
女が言った、「男の分際」という言葉だが、ちゃんとした理由がある。
このラノベを模倣したような世界では、男の価値が低い。
価値観逆転世界ってやつだ。
つまり男は、女よりかなり下の存在ということになっている。
「それは申し訳ない。理事長から、ここが俺の部屋だと言われてやって来ただけなんだけどなぁ」
「うるさい!」
「ちゃんと謝っているじゃないか」
「決闘よ!」
女が突然、叫び声を上げた。
「ええ?」
「男なんて、この学園には必要ないわ! 決闘で追い出してやる!」
「そんな無体な……」
「うるさい!」
この女が言っている「決闘」というのは、学園のシステムに組み込まれているものだ。
トラブルが起きても、決闘で決着をつけて、敗者はそれを受け入れなければならない。
まるでラノベみたいな話だが、そうラノベなのだ。
ここはそういう世界になってしまっている。
決闘の勝負は絶対――俺もそのシステムに従うしかないだろう。
「それじゃ、受け入れるしかないか」
「解ったなら、今すぐ荷物をまとめて出て行くことね!」
「いいえ、決闘をお受けいたしますよ」
「はっ?! あなた、正気? 私に勝てるとでも?」
「勝負はやってみないと解らないでしょ? エーリカ・フォン・アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン様?」
「私の名前を……知ってて、こんな無礼を働いたってわけね?!」
そりゃ、ラノベに出てくるヒロインの1人だからな。
容姿端麗、学業優秀に加えて、この学園の生徒会長でもある。
そうヒロインの1人なのだが、こいつは性格が悪い。
昔流行った、暴力系ヒロインってやつだ。
ことあるごとに、主人公に暴力を働いてきて、読んでいて辟易した記憶がある。
俺には、ラノベの知識で、この世界を先読みすることができる力があるんじゃないか?
もしそうなら、気に入らないこの女を少々痛めつけて、俺の思い通りにすることもできるはず。
ここで、中身大人の底意地の悪さが炸裂するぜ。
「私が決闘を受けるとして、エーリカ様はなにを賭けます?」
「は?」
彼女が俺の言葉に、予想外――といった顔をしている。
「エーリカ様が勝ったら、私は黙って学園を去る」
「そのとおりよ」
彼女がふんぞり返った。
「私が勝ったら?」
「あはは! 男のあなたが?! そんなこと万が一にもありえないでしょ?」
「その万が一があったら?」
「そのときには、なんでもしてあげるわよ!」
「なんでもって言いましたね?」
「貴族――エーリカ・フォン・アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンに二言はないわ!」
まぁ正確には、貴族の子どもはまだ貴族ではないのだが……。
「それじゃ、私が勝ったら、エーリカ様は私の奴隷になってください」
「な、なんですって!?」
「エーリカ様のご実家、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン家には、隷属の首輪がありますよね?」
「な、なぜそれを!?」
なぜって、ラノベを読んでいると、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン家が、そのアイテムを持っているという話が出てくるのだ。
もっとも、その展開は、もっと先の話なのだが。
ここでそいつを使って、このうるさい暴力女を大人しくさせて、俺の駒として使おう。
それに、俺のお気に入りのヒロインは、物語の後半で出てくる、「聖女」だし。
こんな暴力女はどうでもいいのだが、見てくれだけはいいからな。
「どうしました? もしかして、男から勝負を挑まれてビビっているとか?」
「うるさい! そんなこと、エーリカ・フォン・アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンの名において、あり得ない!」
「それじゃ、勝負を受けるのですか?」
「当然よ!」
俺は後ろを向いた。
そこには、騒動を聞きつけた、野次馬が黒山になっていた。
「女子の皆さん、聞きましたか? このお貴族様は、男に負けたら奴隷になると宣言されました。皆さんが証人ですよ」
「「ざわざわ」」
「奴隷って……」「エーリカ様が、男に負けるなんてあり得ないでしょ?」
貴族といえども、学園の決闘ルールには従わなくてはならない。
負けたから「やっぱりなし」「ノーカン! ノーカン!」とはならない。
それこそ、貴族の面子に泥を塗ることになる。
まして、相手は男となれば……。
「ははは!」
俺は、思わず笑ってしまった。
俺が読んだラノベの知識を使えば、この世界で美味しい思いができるかもしれない。
まずは、この暴力女で試してみよう。
こいつを好きにできたら、お貴族様の実家から金を引っ張れないだろうか?
そうすれば、かなりいい生活ができるぞ?
まぁ、他にも色々と手はあるが。
後で入手できるレアアイテムなどの場所も解るから、事前にゲットしたりとかな。
夢が広がるぜ。
「なにがおかしいの?!」
「おっと、これは失礼。今なら、私に謝罪をして許しを請えば、決闘もなかったことになりますよ」
「私が謝罪する必要を認めないわ」
「それじゃ、決闘をするということで」
「くどい!」
――と、いうわけで、俺と貴族の女で決闘をすることになった。
こいつは、プライドだけは人一倍だからな。
俺が煽れば、こうなるのは目に見えていたし、沢山の目撃者と証人もいる。
今更、止めたとは言えないだろう。
実際に、すぐに彼女は実家から、隷属の首輪を持ってこさせた。
負けるとは微塵も思ってない様子。
この学園では、「決闘」はすべてにおいて優先される。
もちろん、授業も中止されて、全校生徒が決闘の見物をしにやって来た。
これだけの公衆の面前で、「やっぱりなしで」とは、お貴族様が言えないだろう。
理事長のオバサンからも怒られてしまったのだが、向こうから決闘を申し込まれた――と、言ったら黙ってしまった。
まぁ、相手はお貴族様だし、この学園で決闘は絶対。
そういう世界観になっている。
これはもう神が決めた舞台だからひっくり返すことはできない。
それを知っているのは俺だけなのだが。
校舎の隣に設置されたすり鉢状の闘技場にほぼ全校生が徒集まり、決闘の開始を待っていた。
俺のほかは全部女の子なので、黄色い声援ばかり。
もちろん、俺には100%怒号である。
「エーリカ様ぁ!」「会長!」「男なんてぶっ殺せ!」
なんだが、物騒なことを叫んでいる女も多い。
女ばかりになったら、こうなるんだよな。
「静粛に!」
魔法の拡声器らしきもので通された言葉で、闘技場が一瞬で静まり返った。
声を発したのは、生徒会の副会長。
背が高く、スレンダーなボディ、流れるような黒髪とメガネの中の鋭く冷たい目。
「これより、エーリカ・フォン・アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン様と……なに?」
副会長がこちらを向いた。
俺の名前を知らないらしい。
「ゼロだ! 榊ゼロ!」
「エーリカ様と、虫けらの決闘を行う」
「おい!!」
俺の抗議も、闘技場の大声援にかき消された。
この副会長もあとで、可愛がってやるからなぁ……。
副会長を睨んでいると、彼女がプイと横を向いた。
「本当に決闘を受けるなんて、バカの極みね。まぁ、男だから仕方ないのかもしれないけど」
エーリカがふんぞり返っている。
「能書きはいいので、早く始めましょう」
「くっ! 虫けらがぁ!」
彼女の身体から、炎が巻き上がった。
こいつが「魔法」ってやつだ。
この世界には、魔法がある。
この学園は魔法を学ぶための魔法学園という設定。
それなのに、なぜ男がいないのか?
この世界の男は、魔力が極端に少ないのだ。
それゆえ、女から疎まれて格下に扱われている。
眼の前にいるヒロインの二つ名は、「爆炎姫」――文字どおり炎を操る。
「さぁ、這いつくばって、許しを請うなら今のうちよ」
「こっちのセリフなんだが」
「くっ!」
「始め!」
副会長の合図で、戦闘が始まった。