第1章 第5話 裏
参加者の笑顔が咲き乱れ、華々しく彩られた学内を一人歩きながらやはり思う。学園祭の何が楽しいのだろうと。
遊園地や動物園だったらはしゃぐ気持ちもわからないでもないが、所詮ただの高校生のお遊び。イベントは盛り上がりに欠けるし食べ物は特段美味しくないしその割に人がいっぱいいて煩わしいし。陽キャの祭典に参加している陰キャの俺をみんなして嘲笑っているのだろう。
だが全てがどうでもいい。俺個人の好き嫌いも。みんなが楽しんでいるとかも。後輩の今後の高校生活も。全て学園祭という世界の一側面でしかない。
俺はただ守るだけ。誰にも褒められなくても、馬鹿にされていても。学園祭を守るのが俺の託された使命だ。
「高校生が飲酒はよくないんじゃないか」
俺は誰よりもこの学校のことに詳しい自負がある。だから簡単に見つけられた。人が寄り付かない場所。隠れてコソコソやるのにもってこいの場所が。図書室なんかが設置されている特別教室棟裏。そこにいた五人の男子に俺は声をかける。
「あ? うっせぇなどっか行ってろ」
酒やらツマミやらを地面に置いて談笑していた男たちは俺の姿を一瞥すると、暴言を吐いてすぐ談笑を再開する。こいつらからしたら俺は紛れ込んだ陰キャ。ちょっと凄めばすぐに消えると思ったのだろう。
「そういうわけにはいかないな。目蔵一喜。野村和也。兵頭史郎。お前たちは新入生とはいえやってはいけないことをしているんだ」
彼らの名前を告げると、全員の視線が再び俺に集まる。やはり慣れないな。誰かに注目されるというのは。
「てめぇ……何で俺らの名前を……!」
「この学校の生徒全員の個人情報は全部頭に入ってる。何かあった時対処が楽だからな。後の二人はうちの生徒じゃないな。でも兵頭のSNSで見たことはある。探せばすぐに情報は手に入るだろうな」
ヤンキー座りしていた目蔵が立ち上がり静かに俺に詰め寄ってくる。そしてそのまま俺の胸倉を掴み上げた。
「んだよてめぇ。教師にでもなったつもりか? 偉そうにしてんじゃねぇぞ」
「教師じゃない。学園祭実行委員会雑務部部長喜多方喜だ。あぁ違う、雑務同好会部長か。まぁいいだろ俺のことなんて」
「雑務部? なんだただのパシリかよ」
「そうだな。ただの使いっ走りの裏方だよ」
俺の正体を知ったこいつらの顔に少し余裕が戻る。安心したんだろうな、俺がたいしたことない人間だと知って。
「ボコられたくなかったらさっさと消えな。調子乗んなよクソ陰キャが」
「暴力沙汰はご法度だからな。確かにボコられるのは嫌だ」
何を勘違いしてるんだろうな。裏方といえば、こういうイメージだろうに。
「でも表に出なければ関係ない」
「なっ――――!?」
俺の胸倉を掴んだ目蔵を投げ飛ばし、軽くネクタイを緩める。
「飲酒も暴力も。裏で全部俺が片づける。お前らみたいなゴミは学園祭の邪魔なんだよ」