序章 裏方
「これにて入学祭を閉会します!」
俺が役員を務める初の学園祭が終わった。結果は今のところ大成功。とりあえず開催時間の9時から17時は無事に過ぎていった。問題はここから。むしろ俺の仕事は開催後の後片づけにあると言ってもいい。だが大丈夫。準備は入念にしてきた。後はそれを実行するだけ……。
「喜多、お前クビな」
だが体育館の壇上で閉会の挨拶をして舞台裏に戻ってきた委員長が、突然俺のクビを宣告してきた。
「クビって……どういう……」
「前々から他の役員と話してたんだよ。雑務部も雑務部部長、喜多方喜もいらないって」
委員長だけではない。俺と同じ、この4月で役員になった他の役員たちも俺を見てニヤニヤ笑っている。
「この高校、金央学園は月に一度。年に12回も学園祭を行う超パリピ学校だ。その花形学園祭実行委員会の役員の一人がお前みたいな陰キャだと迷惑なんだよ」
「いや……俺が陰キャなのはそうかもだけどそれだけで……」
「それだけじゃない。雑務部……っていうか部員一人しかいないんだからただの雑用係だよな。それがそもそもいらないんだって。会議の準備とか後片づけ備品の管理とかしかやってないだろ? そんなの誰にだってできるだろ?」
「確かに誰にでもできることしかやってないし目立たない雑用係っていうのも事実だけど……でも……!」
「いいか? 俺たちは学園祭実行委員会。いわば参加者全員を楽しませるのが仕事だ。催しを考える企画部。活動内容を分かりやすく伝える広報部。学校を華やかに飾る装飾部。限られた予算で工夫する会計部。そしてこの俺委員長。どれも学園祭を運営するのに必須な部署だ。だが雑用係は違う。まったくもって必要ない裏方。俺の言ってることに何か間違いがあるか?」
委員長の発言は何も間違っていない。俺は陰キャだし、目立たない雑用係だし、誰にだってできる仕事しかしていない。華やかな学園祭にふさわしいのは華やかな他の役員たちなのだろう。それでも。
「俺は必要ない裏方なんかじゃない」
確かに俺は裏方だ。縁の下の力持ち。誰も見ていないところで誰かの仕事を支えるのが仕事。だが必要ないなんていうのは間違っている。俺の……俺たちの仕事は必ず誰かの役に立っているはずなんだ。だから……!
「つーかお前に選択権なんてないんだよ。委員長の俺がクビだって言ったらクビだ」
だが俺の言葉は封殺される。立場の弱い俺に発言権も、選択権も存在しない。この組織のトップが必要ないと言ったら必要ない。組織に属する以上そのルールは絶対だ。
「先輩……ごめん」
結局俺はどうすることもできず、学園祭実行委員会から追放されることとなり。次の学園祭はめちゃくちゃになるのだった。