前編
※2話で終わる予定です。
「トム、お前を追放する!理由は使えないからだ。装備品は置いてけよ!」
「そ、そんな。馬鹿な。朝から晩までみっちり働いた!それに装備品は俺の物だ!」
「はあ?お前、契約書にきちんとサインしただろ。ドス。こいつの装備品を取って放り出せ!」
「んだ。リーダーの言う通りだ。ほら、さっさと出ていくだ!」
「せめて、今までのお給金を、最低給でいいので下さいよ!」
ドタン!とギルド併設の飲食店から放り出されたトムは、そのまま泣き崩れる。
「ウワーーーン。折角、お金を貯めて、村の皆も金を出し合って、送り出してくれたのにーー」
冒険者ギルド併設の飲食店でギルドの掲示版も提示している店で、仲間のパーティー員を追い出したのは、[ヨド村の希望]という地縁で集まった冒険者パーティーである。
リーダーは、剣士、ズム
タンク兼格闘士、ドス
そして、魔導師兼軍師のリリー
「リリー、お前、やっぱり頭いいな」
「んだ。オラ達の軍師様だ!」
トムの冒険者ギルドの口座もパーティー共有、いくら入ってるかしら、あら、小金貨3枚と銀貨5枚?(35万円相当)田舎者にしてはまあまあね。没収よ!
「へへ、チョロいっしょ」と悪びれも無く話すのは、魔導師リリー、村の徴税人の娘で村(46世帯)一番の秀才と名高い。
それぞれ、ズムは村一番、ケンカが強い。ドスは村一番、力が強い。
田舎者のルーキーの冒険者なんてチョロいっしょ。世の中、欺合いが常識、欺される方が悪いのよ。
それに、私にはお金を貯めなければならない理由がある。
このパーティーはそれぞれ、村の幼馴染み。15のときに、冒険者ギルドに所属し、以来10年間でB級まで上り詰めたが、A級はとても無理な実力。後は、下り坂で、いずれ、冒険者を引退しなければならないだろう。
私は良い方法を考えた。ルーキーの田舎者を募集する。条件、3ヶ月は様子見で報酬は最低限の衣食住だけで、差額は本契約後に渡す。装備品はパーティーの共有、そして、3月経つ一日前に追放を宣言する。
すると、無料働きの下調べ&荷物持ちと装備品と冒険者ギルドの口座のお金が手に入る。
しかし、この方法は一つの冒険者ギルド支部で最低2回が限界だ。3回目以降はさすがに、周りは怪しむ。
「なあ、リリー、昨晩、追放したトムって奴、朝一から掲示版に張り付いてクエストを確認したり、重たい荷物を持ったりと働き者に見えたけどな。何か問題があった奴なのか?」
とトム追放の噂を聞いた同格の冒険者パーティー[瞬殺のナイフ]のリーダー、スミスはリリーに問いかける。
「そ・・それは、言いにくいかな。私に・・・グスン」
とリリーが涙でも流しておけば、周りは勝手に判断する。
「そうか、うちのパーティーに拾ってやろうとしたけど、女癖が悪いのか、うちも女の子がいるからやめとくか」
こうして、トムは孤立無援と化し、底辺冒険者街道まっしぐら。
奴の言うことを信じる者はいない。ソロで続けても、女癖が悪い噂は冒険者生活において致命的だ。
しかし、そろそろ、大金を手に入れて、この支部ともおさらばしたいわね。
「でさ、リリー、次の作戦は?」
「んだ。そろそろ支部を変えないとヤバイだ」
と小声で話す二人に、リリーは自信を持って答える。
「うん。すごい大金を狙える手があるよ・・ほら、次のカモがやって来た!」
掲示版の張り紙。[ヨド村の希望]の聖女募集の張り紙を見つめている少女がいた。背嚢を背負って、杖を持っている。黒猫を肩に乗せている聖女服を着ているので、若いが聖女見習いなのだろう。明らかに出てきたばっかり、この辺の者ではない。田舎者。
「ねえ。貴方、聖女さんでしょう。回復職必要だから、うちに来ない!」
とリリーは声を掛ける。
「え、実は、私は、冒険者はルーキーで、登録はしたばっかりなのです」
「うん。うちは大丈夫だよ。私はリリー、ムサイ男ばかりのパーティーよりもうちが安全だよ!」
リリーは女がいることをアピールする。
「わかりましたのです!私は、ロザリー15歳、聖女見習いなのです。こちらが聖獣クロちゃんなのです」
「ニャー、ニャ」
「あら、猫ちゃん。可愛い。私はリリーよ。魔導師よ」
「「よろしく!」」
それぞれ自己紹介し、リリーがパーティー加入の申込用紙を渡す。
ロザリーは熱心に読んでいる。
「え、装備品と口座のお金は、パーティー共有?」
「あ、これね。例えば、パーティー貴方以外全滅しても、貴方は戦うか逃げなければならない。そうした場合、私の魔法杖や、ズムの剣、ドスの盾を自由に使っていいの。そして、死体になった私たちの財布からお金を取って帰るまでの旅費や当分の生活費に使ってもいい。この契約書をギルドに提出しておくと、何かとトラブルは起きない。厳しいけども、冒険者は死ぬかもしれないから・・・」
「そうなのですか?・・・厳しい世界ですね・・」
「でも。ちゃんと自分らにあった依頼を選んでいるから、そうゆう危険は滅多にないよ。たまに怪我人が出るくらい。パーティー結成以来誰も死んでいないし」
「大丈夫だ。何かあったら、オラの背中に隠れるだ!」
「そうだ。何か困ったことがあったら、リーダーの俺に相談したらいい」
「わかりました。未熟者ですがよろしくお願いするのです!!」
「ニャー」
「元気があっていいな」
「んだ。よろしくだ!」
「フフフ、女同士男に言えないことは私に話してね。お姉さんだと思って頼ってね!」
こうして、ロザリーはサインをし、契約書は冒険者ギルドに提出。
彼らは翌日、人食いトカゲの討伐に出発した。
はずだった。
・・・・・
「ええっと、ここはどこです?街道から外れた草原、馬車が輪になって止まっているから商隊の休憩所?人食いトカゲは人里に現れて困っているお話でしたよね・・・」
「ほら、さっさと、前に出るだー」
ボンと巨漢のドスが聖女の背中を押す。
「キャア、何をするのですードスさん」
彼女は、商人と10人以上の武装した護衛の輪の中に押し込まれた。
ロザリーは
「ヒィ」と思わず小さく悲鳴をあげた。
「お前がリーダーか?感心しないな。せめて、縛っておけよ。窮鼠猫を噛むだぜ」
商人がズムに問いかける。
「へへ、旦那。こいつ、ここに来る寸前まで気が付かない愚鈍です。お嬢様育ちって感じです。大丈夫ですって」
「んだ。オラが荷物持ってやると言ったら、平気で預けただ。世間知らずだ」
「そうよ。こんな毎日教会に籠もってお祈りしている聖女ごときでは何も出来ませんよ」
「あ、あなたたちは何者ですか?私をどうする気ですか?村人さんたちが人食いトカゲで困っていて、農作業に出られないってお話では・・・」
「そうだよ。この後、直接現場に行ってちゃんと退治するよ。あんたは、無謀にも私にも出来る!と勝手に前に出て、人食いトカゲに返り討ちにあう報告書はちゃんと作ってあるよ。アハハハハ-」
・・そうよ。聖女は、お高くとまって、王族や、高位の貴族や、お金持ちしか治療しない。
いい気味よ。
弟を治すには、高位の聖女の治療が必要と言われた。国に一人いるかいないかと言われる救国の聖女、そいつに会うには莫大な紹介料が必要で、さらに、莫大な治療費が必要。
金、金、金、金、弟は発病以来、薬で延命している。それも、金が掛かる・・・
聖女の駆け出し一人や二人売っても罰、当たりはしないわよ。
「オスカーさん。これ、ちゃんと聖女に書かせた契約書だよ!」
「そ、そんな。私書いた覚えありません!」
ギルドで書かせた契約書は2枚になっており、署名欄は複写魔法が掛かっていた。
下の書類は、性奴隷契約。これで、表向きは合法で売れる。
「おう代金だ!」と商人は金貨の入った小袋を、ロザリーが見ている前で渡す。
ロザリーの値段だ。
「お前ら、仕事終わったら今の支部を変えるのだろう。次の支部を教えろ」
と商人は、表向きの商会の名刺を渡す。
「まだ、決まっていません。今の支部は、聖女を止められなかったとショゲて、しばらく村に帰る予定でして、土産を買って親孝行でもしようと思ってます。しばらく帰ってなかったもので」
「んだ。オラも帰って畑仕事手伝うだ」
「私は・・・病気の弟に薬を買わなければいけないから、しばらく、二人の里帰りが終わるまで、ソロで活動します・・」
「なんだ。リリーちゃん。弟、病気なのか。そうか、おまけだ」
と数枚の銀貨を渡す。
「なあ、リリー、この聖女の値段、俺たち三人だから、分け前、リリーが4で、俺たち3,3でいいよ。なあ、ドス」
「んだ。リリーの弟はオラの弟と同じだ!」
「お前ら、感心だな」
と違法奴隷商人が感動し、リリーは感極まる。
「み、みんな・・・グスン」
その感動のクライマックスで
ロザリーは、おどおどと手を挙げて、発言した。
「あの~弟さんの病気は?私が治せるかも・・です」
最後までお読み頂き有難うございました。