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エンドロールが流れた後で  作者: 柏木 遊
幕開け
9/19

雨天決行

雨が、降っていた。

其れは、泥を払い除け、草葉を押しのけ、雨に打たれながら、走る少年の身体を濯いだ。

少年は身体が熱いのか、寒いのかさえも判らない。

少年の顔は、慟哭に濡れていた。

それでも雨は。

泪雨は降り続いた。



「雨、止まないわねえ」

金髪のエルフが言った。

未だ他人の声が聴こえるくらいの軟らかな雨粒に現れた木の葉と濡れた土の匂いがエルフの鼻をくすぐった。

「んー、折角街道に出たって言うのにねえ」

もっと色んな人を見られると思ったんだが、残念と、少しも表情を変えずに言ったのは、エルフの女とは対象に、黒髪を靡かせ、北の異民族の服と鎧を着込んだ男たった。

「人を見るのって楽しいかしら?」

「まア、服装とか、荷物、あと匂いで大体どんな人で、何処から来たかとか、そういうのは分かるから」

楽しいよ。

ぶっきらぼうに男は言った。

二人は今、森を抜け、シラカワ領へと続く街道を歩いていた。雨が降っているにも関わらず、かの魔族との大戦後造られた石畳の道は意外と歩きやすく、簡単な防水魔法を使い先へと進んでいた。

「人間観察が好きなのね」

「そうかな」

「そうなんじゃないかしら?」

「君は好きかい、カメリア」

好きか嫌いかで言えば、どちらでもない、と言うか苦手なのだがと、男は思案の沼にハマり掛けた。

そのせいか、微妙に会話を続ける取っ掛りを見つけられなかったので、男は取り敢えずエルフの名前を呼んで、訊き返してみた。

「私は魔法の方が好きね、ナハティガル」

意外なことを聞いたと、男、ナハティガルは驚いた顔をした。

「貴方は勇者パーティに夢を見すぎなのよ」

ナハティガルの表情を読み取って、カメリアはちょっとだけニヒルに笑おうとする。

それを眺めながら、あざといわァ、とナハティガルはエルフの種族補正に戦いた。

「しかし、ニヒル度は四十点」

「じゃあ元魔王軍幹部の貴方にお手本でも見せて貰おうかしら」

悪戯っぽくカメリアは笑った。

「オヤ、夜に一人で寝られなくなっちゃうかもよ」

「はっ、子供じゃないんだから」

「マアデスヨネエ〜。えいっ」

パッとカメリアの方へ向き、魔王軍時代良くしていた悪い顔を作った。

少なくともそこら辺の冒険者はまず間違いなく泣き叫ぶであろう顔であった。

と言うのも、ナハティガルは決して好戦的な方ではなく(魔族基準)、温厚篤実(魔王軍幹部基準)であったので、舐められたら終わりなリアル人外魔境な魔王軍で生き残るために、当時齢幾許かの若造が考え出した自衛法がこれであった。

因みにだが、行動に関してもどうすっかなあ〜と自分のキャラ設定に悩んだ挙句、わが祖国、日本の平安〜鎌倉辺りの武士をJK当時の浅知恵で演じていた。

すると見事にナチュラルサイコなバーサク認定を受けた。誠に遺憾である。

周りからクソほど引かれたのは不本意だったが、舐められない、という本懐は達成したのでナハティガルはそれで良しとした。

途中で多少マイルドに方向修正した時は嬉しさのあまり部下に泣かれたのは記憶に新しい。

さて、そんなナハティガルの渾身の悪人顔である。

一般魔族を恐怖で黙らせてきた実績は十二分にあったが、とはいえ相手も普通ではなかった。

「深淵みたいな顔ね」

魔王軍にたった五人という、少数精鋭と言えば聞こえはいいが、かなりの強行軍で挑み、そのまま幹部の1人を除いてと魔王を討ったパーティに所属していたカメリアは、そんじょそこらの猛者とはやはり格が違った。

「凄い。真顔で返されたのは君が初めてだ」

「まあ、伊達に長く生きていないから」

「いや、凄いよ。普通のエルフは悲鳴を上げる」

感心したようにナハティガルはカメリアを褒めた。それに、カメリアは少し照れたように謙遜する。

「私は、普通のエルフじゃないから」

それはどう言う──

そう、ナハティガルが言い掛けた時である。

「血の匂いがする」

「え、物騒」

すんっ、と犬が匂いを嗅ぐときのように鼻を鳴らし、ナハティガルは空気中の血の香りを嗅ぎとった。

「沢山の人間の血の香りと、色んな、香辛料?とか木、それも装飾や加工がされてるやつと普通の木が有るね。其れが、燃えた後の煤の匂いがする。しかも割と新しい」

「つまり」

「商隊が山賊に襲われて全滅してるっぽい」

「よし行くわよ」

カメリアが即断した。

「何故?生き残ってる奴はいないと思うけど」

「それでも万が一ってもんが有るでしょうに。それに、誰も生き残ってたなかったら山賊の根城まで追跡してそのまま退治してお宝を戴くわ」

「成程、山賊より恐ろしい発想だな」

「それが割とメジャーな手法なのよねぇ。あと山賊が居るとこの街道の人の流れが悪くなって物流も滞るのよ」

「で、本音としては?」

「折角見つけたんだから退治したいじゃない」

「好戦的ィ。しかしそのお宝を私財にしようとは、カメリアよ、お主もなかなかに悪よのう」

「あら、そんな経歴一瞬ですもの。お褒めに預かり光栄で御座いますが、ナハティガル様には敵いませぬよ」

素知らぬ顔でカメリアが言った。

「おいおい、天の勇者が泣くぞ」

ナハティガルの本音としては、面倒臭いだが。

「でも、そうね。勇者(あのこ)ならきっと盗賊を退治しに行くと思うわ。本当に、無鉄砲な子だったから」

その声色には哀惜と、懐古が混じっていた。

意外とこのエルフ、素直では無い。

「取り敢えず、通行税と登録料があれば良くないか」

「工面する術があるなら聞こうかしら」

「うわ〜耳が痛い。ていうか、それ諸々で幾ら掛かるの」

「ごちゃごちゃ言ってないでほら、行くわよ」

「はあい」

やっぱり根はいい奴なのである。

少なくとも、カメリアの目はナハティガルから見て金銭欲に濡れた目では無かった。

と言うかむしろ。

あの頃、勇者の存命していた頃のソレ。

熱く、力強い。

太陽のような瞳を彷彿とさせるような。

いや、かつての煌めきをそのままにした瞳だった。

ナハティガルが一目見て、眩いと焦がれたかつての瞳だった。

最早枯れたかと。

やはり表面は取り繕っていたが、勇者の死が相当堪えたらしく。それから翳りを見せたその灼熱に、再び合間みえられたことが。

思いの外ナハティガルは嬉しかった。

「本当に素直じゃない」

ぽつりとナハティガルはカメリアには聞こえないよう呟いた。

「何かしら?」

「いや、何でもないよ」

なんで聞こえたん??

所謂、第六感と言うやつか。おそろしや。

ナハティガルは、君には一向に敵いそうにないなと、独りごちた。



ありがとうございました

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