逆鱗 二
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はあ、と息を吐く。
熱気と血の香りを孕んだ空気が、ついさっき迄の戦いも相まって、魔族であるナハティガルの闘争本能を駆り立てた。
隣には、巨大な龍が並んでいる。
終わってみれば、随分あっけないものだと思った。
「っあ"〜、焦げ臭い」
「どうしてもこれには慣れないわね」
顔を顰めながらカメリアが言った。
「ア"、魔力、とモりの、子よ。」
ぴりりとカメリアとナハティガルの間に緊張が走った。
ナハティガルは太刀に手を掛け、カメリアは杖を構え、じっとウバラの頭を睨めつけた。龍の口から、ひゅう、ひゅうと空気が漏れていた。
「まだ、息があったか」
カメリアとナハティガルは目を合わせた。
これは話を聞く流れだと。2人の見解は一致した。
「そそ、ソウだ。一度は、きさまら、の、コトは許そうとは思った。然し、アァ、諦め切レなんだナ」
絞り出すような声で、ウバラは言葉を吐き出した。
「其れは、私のせい?」
ナハティガルが訊いた。
「イナ、否。確カニ、ォ前ノコトバ、は腹に据エかねた」
其れには、でしょうねと、カメリアが呆れたように言った。
「然シ、其れダケでは、ナイ。喰う喰われる、ハ、自然ン、の、理。我は、」
其れでも、あの子を諦められなんだな。
絞り出すように龍は言う。
どちらにせよ、あのままではいくら竜と言えども腐って死ぬ運命だった子を。
卵が孵るように、八方手を尽くしたがそれでも孵らぬ我が子を。
愛しい背の君の忘れ形見を。
死なせてしまったと。
龍は嘆いた。
「番は、最早この世に居らぬ、我ハ、あの子を孵スことも、ソナタらの様に、命の廻リにモ、戻してやることもデキなかった。」
我はあの子に何もしてやれなかったと、苦しげに。
「そんなことは無いわ。貴方は確かに母親だったと私は思うけど」
「慰メハ、要らヌ」
「あら、わたくし敵を慰める程優しくありませんの」
「デハ、ドう情カ?ハッ、ワレを見縊るナ、」
「貴方は子供の為に怒ることが出来た。少なくとも、他人ではできないことだわ」
「ソウ、か。しカしソナタは 」
「謝った方が善かった?」
「イイや、其ンなことを抜かしてみよ、ソそなたの頭を噛み砕いてヤル」
しかしそういう声は力がなく、ウバラ自らの死を悟った。
「ナハティガル、治療は出来る?」
「無理、逆鱗を貫かれた龍の後は死ぬだけだ」
もしかしたらと、カメリアは一縷の望みを抱いたが、それは呆気なく切って捨てられた。
「ただ、彼女は原始龍だからね。次代を作らずに死ぬと別の場所でまた生まれ変わるから、また会うことは出来るけど」
ナハティガルは、口許に手を遣って少し考える素振りを見せた後に、壊れ物に触るかのように言った。
「その龍にまた会うつもり?」
「いえ、縁があったら、かしら?」
「そう、私もそれでいいと思うよ」
「解ってるわよそれくらい」
少しだけ、ムキになってカメリアが言った。
「君は、厄介事に自ら突き進んでゆく嫌いがある」
「身に覚えがあり過ぎるわね」
「そういうところが好かれる所以なのかねえ」
「そう言うとこって?」
「いや、矢張り君はお人好しって話さ」
「貴様ラ、は、番なのか?」
「「断じて違う」」
「ほ〜う??、ソウか、ま、トモは大事にスルコとだな」
そう言ってウバラは事切れた。
実にあっさりとした最後だとナハティガルは思う。
「さて、回収しようか」
そう言うと、ナハティガルの影が伸びてどぷりとウバラの骸を飲み込んだ。
「どういう仕組みかしら?」
「影の中に張りつけた異空間があって、自動で解体できるように中に術式を刻んでるのさ」
「中々便利な魔法ねえ〜」
「そうそう、作るのは苦労したけどとても便利でね。次に出す時は骨と肉と革とあと色々になって出てくるよ」
このゲームの魔法は自分で魔法を組み立ててオリジナル魔法を作れることも出来た。
勿論オートマもあるが、呪文や素材、魔導書を集めて名前を作るのが、ナハティガルは好きだった。
つまり厨二病だった。
「ところでカメリア、道ってこっちで合ってるの?」
「ゑ」
「君、ここらの道知ってる?」
「貴方が知ってると思って着いてきてただけだけど??」
「分からないから君に任せてたんだが??」
「「も し か し て 、遭 難 して る 」」
絶対そうじゃないのと、カメリアが嘆いた。
「ええと、北部の人類圏は、シラカワ領までだから 」
そう、ナハティガルは頭の中で北部の地図を広げた。
自分の住所と照らし合わせて、あれから2日ばかり歩いて、全力で走ったが、あの川に落ちたということはつまり――
「逆算してあと1ヶ月と少しでシラカワ領へは着けるでしょうね」
「いや待て待て」
此処がどこか分からないんじゃなかったのかと、不思議そうな顔でナハティガル言った。
「精霊に訊いたの」
「精霊ナビかな??」
「いいからちゃっちゃと行くわよ」
「ああ、分かったよ。私も精霊と契約しようかな」
そのつぶやきを、木の葉の影から聞いていた者がいた。
べっと舌を突き出して、絶対に魔族と契約などしてやるものかと。
カメリアに道を教え、ウバラが出てきた瞬間消えた精霊は思った。
「いやでもこいつの方が幾分か面倒くさくなさそうな性格してそうね??」
もしかしたらそう悪くも無いかもしれないと、少しだけ思う精霊であった。
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