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エンドロールが流れた後で  作者: 柏木 遊
幕開け
6/19

冒険者達

宜しくお願い致します。

ケホケホと、ナハティガルは川からなんとか上がり、岸に辿りついいていた。

カメリアは、まあ大丈夫だろうと考えそのまま川から身を引き上げた。

「おえっ、気持ち悪う」

口の中が泥臭いし、ジャリジャリする上身体も服も水に濡れている。

「サイアクだ」

人間に見つかった時の偽に、水中で人間に擬態する魔法を使い、ついでに服も別のものに替えていた。

ついさっき川で溺れていた人間が、乾いている服を着ているわけが無いのだ。

それは最早アイテムボックス持ちだと、白状する行為だろう。

面倒ごとは御免だった。

なので、服が濡れているのは仕方ない。しかし納得はしているが緊急時でもない今、この状態をそのままにしようとは思えなかった。

「ま、寒さが気にならないのは魔族様様かね〜」

米神を触り、水面で不備がないか確認する。

水の中に映っていたのは、紛れもなく人間の男。

顔の造形はそこまで変わらないが、髪が黒くなり身長も一回りくらい小さくなっていた。

服は北部の民族衣装と、部分鎧を付けている。

元勇者一行にスカウトされた変わり者の北部異民族の男、これならば多少の違和感はごまかせる。

多少差別とかがあるかも知れないが、魔族とバレるよか数段マシだろう。

何分、この世界に転生してから、人としての感覚が狂ってしまったから。

人を辞めたとだから当たり前なのかもしれないが。

それを当たり前とする自分に違和感を覚えたのはかなり後になってからであった。

それが恐ろしかった。

理解できないナニカに、蛹が孵化するように、極自然に成ろうとしていた事が。

この上なく恐ろしく、哀しかった。

人であろうとすればする程、人が解らなくなってしまった事に気が付いて。

どっちつかずの半端者がと。

何度そう思ったことか。

いや、もとより()()だったのかも知れないけれども。

そう思う程に。

それくらい魔族であることに馴染んでしまったのだ。

きっと、それを悲しいとさえ。最後には思えなくなるのかもしれない。

それでも彼女は私と友達でいてくれるだろうかと、少し考えた。

いや、そう思えるならば、まだ大丈夫だろうか。

それの考えは、彼女を己が人であるという確証に利用しているような気がしたし、手前勝手な妄想にも思えた。

手放しに信じられたいし、信じたい身勝手を、カメリアは許すだろうか。

然してそれは、友と呼べるのか。

そうでなけれ、どう名ずければ良いのか。

先に断っておくが、ナハティガルとカメリアの仲は、悪い訳では無かった。しかし、まさかネットの、それもこのゲームで知り合った所謂ネッ友と言うべき存在と、ここまで付き合うことになるとは思わなかった。

1人でポチポチやっていたナハティガルと、課金までしていたガチ勢のカメリア。

比べ物にならない2人がよく友人になれたと、決して口には出さないが、ナハティガルは思うのだった。

やはりゲームは偉大である。

全く人生何があるか分からない。それが楽しいのだとも思うのだが、やっぱり死亡予定のキャラは無いなあと思うのだった。

私は、と言うかナハティガルは。

1部で負けイベのボスになって、それで出番はお終いのキャラ、のはすだった。

しかしある時、考察班がある説を提唱した。

2部の裏ボスこいつじゃねえか、と。

ナハティガルは1部しかクリアしてなかったし、真偽は不明ではあったが。

このまま行けば、しっかり討伐されてしまう可能性が出てきてしまったのだ。

このゲーム、逍遥の旅路は、神話をモチーフにしたオープンワールド型のダークファンタジーで、隠さずに言うと設定が癖に刺さりすぎてダメだった。

気が付けばソフトを買っていた程には十分ナハティガルは面白いと思っていたが、蓋を開けてみると過疎っていた。

プレイは上手くなかったが、シビアでリアリティのある設定が好きだったのだ。

それがウケけなかったのかもしれないが。

全四部作品現在第2部。最早未知の世界である。

しかし、先の事など分からないのが、普通の人間だろうともナハティガルは思うのだった。

とはいえ、黙って殺られる趣味もナハティガルにはなかった。

私は、死にたい訳ではないのだ。

そう、じっと水を吸った重い毛皮の衣の上を脱いで、ナハティガルは思った。

割りかしナハテイガルも詰んでいる自覚はある。だからこそカメリアと手を組んだ。

それに、一緒に馬鹿になれる相手は貴重だと思うのだ。

さて、とひとつ息を吐き、ナハティガルは立ち上がった。それから人がいないか警戒しながら個数制限付きのアイテムボックスから太刀を取りだした。

カメリアが魔法使いなので自分が剣士役をやるのがバランスとして丁度なのだ。

幸にして顔は知られていないし、居たとしてもすでに寿命で死んでいる。

気掛かりはエルフだが、カメリアが加われば知らぬ存ぜぬで通せなくもないだろう。

後は腹を括るだけだと、ナハティガルは自身に言い聞かせた。

ざっと魔力探知を展開し、1箇所だけ魔力が空白になっている場所を発見する。

「カメリアか」

ついと空を見上げ、目を細目ながらナハティガルは呟いた

反応がなかった場所は、此処から少し川上を行った辺りだった。



時は少し遡る。

「っは、やっと陸に上がれたわ」

ナハティガルと別れ、ようやっと岸に辿り着いたカメリアは、濡れた衣服ごと腕を持ち上げて、そこに生えていた草ごと大地を掴み、川で揉まれた身体を引き揚げた。

バシャリと陸に上がると、濡れた髪と衣服が体にへばり付きカメリアの体温を奪う。


丁度カメリアが一息ついたところであった。

「なあ、アンタがさっき流されてきたエルフか?」

「どちら様かしら」

叢を分け入り、冒険者風の男が近ずいてきた。

「俺の名前はガイツ、冒険者だ。依頼中にアンタが流れてきたから駆けつけたんだ」

言っておくが、下心はないぞ。

そう名乗った男は、砂色の髪と翡翠の瞳を持っていた。

剣士なのであろう、腰にロングソードをぶら下げて、銀のフルプレートを身につけ、それに見合うだけのがっしりとした筋肉を躯の内に潜めた、熟練の猛者というのが見て取れた。

しかして、冗句は下手だが、堅実そうなこの男にカメリアは覚えがあった。

「カメリアよ、それとあなたのパーティメンバーも出てきて結構」

少しばかり面倒な事になったかも知れないとカメリアは心の中でボヤいた。

冒険者に助けられると云うことは、それに見合う報酬を出さはなければならないからだ。しかもこの魔境を探索出来るだけの高い実力を持つパーティーである。

報酬もそれ相応に、高い。

手持ちの少ないカメリア達にとってはかなりの痛手である。

とはいえ今回のようなケースはしっかりとした謝礼ではなくて多少の心付けだけでも良いのだが、其れさえも儘ならない己自身にほぞを噛んだ。

これだけでは無いが、最早自分の人生計画のなさにカメリアは泣きたくなる心地を我慢して、冒険者達に向き合った。


さてこの冒険者、どう断ろうか。

ナハティガルさえいれば、とも思ったが、組み合わせが不味かった。



ガイツを華麗にスルーしたカメリアは心の中で算段を立ていった。

「バレてたか、流石だな」

ガイツと名乗った男がそう言うと、ガサリと茂みから男と女が2ずつが姿を現した。

「それでだが、あんた何して川に落ちたんだ? 仲間は居ないのか」

「一寸ドラゴンに追いかけ回されちゃって。それと彼はきっと下流にいるはずよ」

「おい、アンタ何やらかしたんだ?そもそも生きてんのかそいつ」

ガイツの仲間の一人がカメリアに問うた。

獲物は弓。

動き易いボディラインに沿った黒のインナーの様なものに、深緑のマントを羽織っていた。

夜を切り取ったかのような、射干玉の髪と瞳が特徴的な、鋭い眼光の女だった。

「心配してくれてありがとう、貴女は優しい子だわ。でも、そうね。この程度で死ぬ様なら、最初からパーティーには誘ってないの」

「言うね嬢ちゃん」

ヒュウと唇で音を鳴らしながらガイツのもう1人のパーティーメンバーが言った。

「まあ、死体も上がっていないうちに殺しちゃいけねえか。おう、探しに行こうぜあんたの仲間」

ガイツが啖呵を切ると、仲間もそれに呼応をる様に続いた。

「土左衛門になってるかもしれねえがな」

「こら、なんてこと言うの、謝りなさい!」

「…すまねえ」

「ご・め・ん・な・さ・い・で・しょ〜〜!?」

「さすがに今のは無いですねぇ〜」

「ほら嬢や、飴ちゃんやるから謝んな」

「みんな揃ってアタシをガキ扱いすんなあーー!!」

「騒がしいパーティーですまんな。最初のがアイナ、弓使い。次にシシア、僧侶だ。あと男共のヘディとガラマティだ」

「俺たちの扱いが雑すぎやしませんか、リーダー」

簡潔にガイツがパーティーメンバーを紹介した。

それを聴きいていると、そっと森の精霊がカメリアに耳打ちをした。

(この森に魔族がいる、貴女が連れてきたのかしら?)

<貴女は、この森の精霊ですか>

(そうね。それで、お返事は?)

<いえ、とんでもない。本当は貴女達の領域に彼を連れて来るつもりは無かったんです>

(本当でしょうね。まあいいわ、案内してあげるから早く回収して頂戴な)

<ッはい!ウチのがご迷惑をお掛けしまして、申し訳ありませんでした!!>

エルフは精霊に強く出られない種族であった。

刹那、草木の空気が変わった。

肌が泡立ち、髪が逆立つ。

額からは一筋の冷や汗が流れ、嫌に心臓の音が耳につく。

そんな時。

がさり、茂みから音がした。  

ガイツ達は各々が獲物に手を掛けて神経を尖らせた。

その様を見て、ああ、確かに腕はあるなと。カメリアは妙に納得をした。

先程まで、軽口を叩き合っていた冒険者はもう居なかった。

そこには、ベテラン冒険の姿があった。

カメリアは、杖は使えないので、仕方なく搔魔鉱石を投げつけられるように手に持った。

「ガイツ」

カメリアが言った。

「ああ、とんでもなく強え。こりゃヤバいな」

それに冷や汗とも脂汗ともつかないものを滲ませたガイツが答えた。

精霊に相手だけでも教えてもらおうかと思い声を掛けようとするも、既にその姿は無い。

カメリアの口の端がヒクついた。

敵は間も無く姿を現すだろう。


「やあ、カメリア大丈夫だった?」

「アナタ巫山戯ないで下さる??」

姿を現したのは、かつての敵であり、今の仲間であった。

「さっさとその殺気仕舞いなさいよ、このおバカさん!!」

悲しいかな、罵倒の箱入り感がぬぐえない。

しかし。

「あら、何を笑っているのかしら、ナハティガル?」

「すまん」

常に笑っている人間程怒らせてはいけないものは無い、とはよく言うもので。

後にガイツは語る。

あの剣士より魔法使いの女の方がおっかねえ、と。



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