立ち話もなんだから
勇者回と思った方、私もそう思ってた。。
いやあ、話し込んじゃって気づいたら永遠と立ち話してた時あったよねぇ。
そう笑いながらナハティガルは歩いていた。
「寒い」
そう言ったのはナハティガルの隣で縮こまっているカメリアであった。
「今は春だ。比較的あったかいし、なんなら雪が降ってないだけまだマシじゃ無いかね」
「人類は寒さに弱いって知ってるかしら?」
「魔法で暖をとるかマジックアイテム使えばいいじゃない」
「此処、霧でジャミングされて魔法が使えなのよ」
そうしたのは貴方でしょ。
カメリアに恨みがましそうにいわれて、ああそう言えばとナハティガルは思い出した。
防犯対策の一環として張ったには張ったが、其の儘で、すっかりと忘れていたナハティガルは魔法が使えるように周囲の霧を払った。
「これで魔法は使えるかい?」
「ええ、ありがとう。」
早速魔法を使い周りを温めたカメリアの頬には赤みが差していた。
「すまない、私には影響がないから本当に忘れていたんだ」
「大丈夫よ、もうあったかいから」
よかったよと、そうナハティガルが言った時、叢を抜けた所に家が見えた。
木造りの一般的な家であった。
家の周りは、膝か、太腿くらいまであった草は同じ背丈に刈り取られていて、きっちりと芝生の体を成している。カメリアはサクサクと碧い草を踏み締めた。
森から退けたからか、自分が草木から、カメリアは森から静観されていたことがよく分かった。
拒絶されているわけではない、しかし歓迎もされていなかった。
しずしずと。
唯、森がそこに在るだけだった。
草木にも多少の意思は宿る。そしてエルフはそれを感じ取り、共感し、友とすることができる種族なのだ。
そらが、森の意思をカメリアは感じ取らことができなかった。
「どうしたの?」
ナハティガルが問いかけた。
「ごめんなさい、こんな森、初めてだったから」
カメリアは正直に胸の内の違和感を溢した。
ああ、やっぱり。
ぽそりとナハティガルが呟いたので、カメリアは厄介な寡黙の質を持つこの男は、きっと自分の胸一つに収めてしまうだろうということを予期した。
何がやっぱりなのか。
ひとつ、カメリアも心当たりがあった。
しかしそれをこの男はとんと自分に教えるつもりがないように思えた。
いや普通に気になるので教えてくれないか、そうカメリアは思っても、自分語りが好きでないこの男は、きっと語らないだろうとも思った。
「仕方ない、この森は魔族以外を拒むから」
無表情にナハティガルが言った。ナハティガルはそのままガチャリと錠を回してドアを開け、中に入ったので、急いでカメリアもそれに続いた
「家は土足厳禁だから靴脱いでね」
そう言ってナハティガルはカメリアを家に上げた。
中に入ると、まず、本の匂いがした。
何時の物かのかわからない魔導書、本、さらに比較的新そうなものから中古品らしき物までが中でごった返していた。
「これは、よく集めたわね」
「いやここまで多いとは私も思わなくってね、これでも一応片付けたんだけど、手持ちのアイテムボックスの容量を超えちゃったんだ」
そう言ったナハティガルは靴を脱いで中へ上がった。
確かに足の置き場はあった。
しかし、人の住める場所の多くを本を占拠していた。
というかアイテムボックスも含めてどれほどの本があるのか。そもそもどれ程の量が収納できるのか。
カメリアは考えるのをやめた。
「キミのこおちゅぎかぁほんのむしってよぶことにしゅうね、そえでこえどうすうん?(綺麗なハムボ)」
「どうちようもないのでもう一個ちゅくう(ノリにノったがハムボではない)」
「無限収納とかは作れないのかしら?」
急に素に戻ったカメリアが訊く。
「君、某猫型ロボットのポッケの仕組み知ってる?」
「知らないわ」
カメリアは即答した。
設定は知っているものの、どこがどういう風になっていて、どう作用していて、どう理論が組まれているかを問われると、カメリアは答えられなかった。
それに、ゆるりと口に弧を引きながらナハティガルは言った。
「つまりそう云うことさ。仕組みが分からんものは作れない」
作れたとしたら、神くらいだよ。
温度のない声で。
ナハティガルはそう言ってから、廊下に積まれた本の山の間を歩いて行った。カメリアもまたその後へと続いた。
突き当たりに差し掛かった頃、そこにあるドアを開けるとこれまた本と紙だらけの部屋が現れた。
辛うじて、本が上がっていないダイニングテーブルと、さらに右奥にある台所で、ここがリビングであることがわかった。
「適当に掛けてて、今お茶持ってくるから」
「オッケー」
唯一の無事な卓を、キッチンの台拭きで軽く拭いて、ナハティガは紅茶の準備をし始めた。
魔法で温めたティーポットから、フワリと芳しい香りが漂った。ポットを傾けると、するすると注ぎ口から
紅い液体が流れ出て、滑らかな陶器のカップの中を満たした。
「それで、どうしてあの森は魔族以外を拒むのかしら」
先に話題を振ったのはカメリアだった。
「一応確認なんだけど、怒らないで聞いてくれる?」
「勿論」
だんまりを決められる方が、カメリアの性には合わなかった。
「此処は、神代の大戦の時、魔法を司る神様が創ったとされる場所なんだ」
「ッなんて場所に家を建ててるのよ!!?」
思わずカメリアが叫んだ。
余りにも勢いが良かったものだから、カメリアは飲んでいた紅茶でむせてしまった。
「ほらやっぱ怒ったじゃん!!」
「ごほっ、神域に等しい場所じゃ無いの!」
悪い冗談の方がまだマシよ。
そう言ってもう一度ぐっと紅茶を飲み込んだ。
「大丈夫だいじょぶ。その戦いで魔法の神様は負けて、今は消息不明なのさ」
「どこが大丈夫なのよ」
「魔族は魔法の神が生み出したとされる種族だからね、親和性も高いし、使い放題なのさ」
魔法の神に近しい種族しか立ち入られないから君は森に拒まれたのさと、ナハティガルは言った。
「だからって、あ〜もう辞めときなさいよ」
「危ない橋だろうが上手に渡りゃそれなりの見返りがあるものさ」
「認めるなら辞めなさいよ、ホンットそこ辺りは相変わらずなんだから」
呆れた様に、カメリアが溜息をついた。
いやはや流石、エルフは絵になるねえ。
当のナハティガルはそんなしょうもない事を、いや、本人にとってはしょうもなく無いのかもしれないが、そんな事を考えていた。
この男、痛い目を見なければ反省しないタイプであった。
「あれ、じゃあ単にこの森から出なきゃいいことでは??」
「残念だけど勇者は神々の加護を集めればこの森に侵入出来るわね」
「神様悪役にも救済措置をください」
「悪いの、必要な犠牲なんじゃ。許せナハティガルよ」
「神様っ!?」
さらりと神様裏幕説を浮上させたカメリアは笑っていた。アプリコットの瞳と形の良い唇を少しはにかませなが笑うので、さながら星が瞬くように見えるのだ。
それが、ナハティガルにとっては眩しく思えた。
やっぱりいい笑顔で笑う女だと、ナハティガルは心の中でそう思う。
「この世界はゲームが元になっている。だから大体この後どうなるかが分かるし、他人の生き死にまで分かってしまう」
「そうね」
大方、君なら上手く演れるかも知れないが。
「私はさ、そこまで深く干渉しようとは思わない」
あれから数百年。
人間となると、如何しても、ナハティガルは喉に引っかかるものが出来た。
ちくりと、喉に刺さった魚の骨の様に。
其れの痛みはナハティガルに黒い影を呼び覚ました。
自分で思ったより、あの戦いを引き摺っているのかも知れないと、思う。
もう誰を恨んだって仕方がないのを分かっているのに。半端に残った人間の自分が魔族の本能に抗おうとするのだ。
いっその事、魔族に成り切れたらどれ程楽だろうか。
だが、それ以上に。
どうしたって彼女が居ると、全部取っ払って、自分は笑わざるを得なくなるという事も、自覚していた。
ナハティガルもぐっと紅茶を呑み込んだ。
「だけどそうだね。うん、引き受けるよ。やっぱり私も勇者の動向は気になる」
「山が動いた」
「前言撤回致します」
冗談を言い合った。
他愛もない話をした。
無駄話をした。
だがかけがえの無い時間だったと思う。
後になって、全て飲んでしまった紅茶は存外冷めていたことに気がついた。
「折り合った話もあるし、もう一杯飲む?」
「そうね、頂こうかしら」
カメリアは少し身を乗り出してカップをナハティガルの方へ差し出した。
それを受け取ると、まだ温かい紅茶をカメリアと自分に注ぎた直したのだった。
「それでだ、そろそろ勇者の話を聞かせてくれるかな」
「そうね、まず何から話そうかしら」
とは言っても余り詳しくは私もわからないわ。
そう言ってカメリアはとつとつと話始めた。
この頃自分で作ったはずのプロットからだんだんズレていくのが不思議でならないのですが、力量不足を痛感します。




