エルフと魔族
大変間が空いてしまい申し訳ありません。
常葉樹が所狭しと生い茂っていた。
しかし、そんな濃く暗いビリジアンでさえも、さらに深い霧で覆い隠されている。
ナハティガルの要塞都市が勇者に壊滅させられたから、数百年。
魔王は討たれた。
勇者パーティが倒したのだ。
まだ平定が終わっておらず、魔王軍残党と出くわす可能性が高いこの北部の山脈地帯だけは未だに人類の存在を拒んでいた。
そんな深い山の中をざかざかと分け入る魔法使いが一人、いた。
彼女の名はカメリア。
かつて魔王を倒した勇者パーティの一員である。
ポニーテールにした金髪に、アプリコットの瞳。桃色のポンチョコートにクリームのスカート。その下ににタイツとブーツを履き、片手には天狼を象った杖を持ってた。
魔法使いである。
少女の様な容貌をしているが、エルフである為に、いくつかは判らない。
パタパタと、紫色の羽虫がカメリアの前を横切った。
「ギィヤアウワアぁぁぁぁああああぃヤアアアアア!?!??!」
絹を裂いたような甲高い金切声を上げて、カメリアは全身全霊で叫んだ。
加えて、ちょっと残念なエルフであった。
「おかしいわね・・・なんか茶化されたような気がしたんだけども。まあいいわ、全てはこんなど辺境に住んでるアイツが悪いわ」
少しは手入れをしなさいよねと、心の中で半端キレながらカメリアは足を進めた。もう暫く足を進めたところであっただろうか。
「やあ、久しいねカメリア。悪いがそれは私が人類と共存でもしない限りどうしようもない問題だ」
音もなく、後ろから男が現れた。
男は、ベースはゼニスブルー。さらに濃紫や群青などの混ざり毛を長く伸ばしてハーフアップにし、服は和装をファンタジー風にアレンジしたようなものを着ていた。
「本当に久しぶりねナハティガル。会えて嬉しいわ」
ふわりと顔を綻ばせて、カメリアが笑いながら言った。
先ほどまで悪態をついていた者とは思えない程、綺麗に笑ったので、思わず、ナハティガルも釣られて笑ってしまった。その勢いで、ナハティガルの片耳にぶら下がった紅い宝石のピアスが揺れた。
「くっはは、ああ、久しぶりだな」
そして、何よりも特筆すべきはその角と背中の翼であった。
髪よりも濃い色彩を持つその翼は、時折場所を調節するかのようにバサリとはためき、丁度こめかみ辺りから、太く、長い角が伸びていた。
所謂魔族であった。
「毎度の事ながら、勇者一行の魔法使い殿が私のような魔族とつるんでいて、ほんとに大丈夫なのか?」
冗談まじりにナハティガルが言った。
「いいのよ、どうせもう私はお役御免だわ」
フフフフフと笑いながら、カメリアは先ほどと打って変わって暗い声で答えた。何時もならば、柔らかい光を湛えるタレ目にも元気がなく、眉間には皺が寄っていた。
「・・・一応聞いてもいいなら聞くが、何かあったか?」
「実は、宮廷魔法使いを解雇されちゃって、仕事が見つからないの」
しょぼんと、カレリアが言った。
勇者パーティの短命種の者が死んでゆく中、、残るは自分と妖精種やドワーフなどの長命種ばかりになっていった時。
カメリアは宮廷魔法使いとして取り立てられ、正確には抱き込まれていたのだった。
だがしかし、給料は流石国家公務員の最高峰相当のものであったし、そも、勇者パーティの一員とて働かなければ生きてはゆけない。
しかもその時カメリアは魔法の実験道具や魔導書等々で、仲間と山分けした魔王討伐の報奨金の大半を溶かしてしまっていた。魔法の研究は、金が掛かる割に消耗品が多く大変お財布に優しく無い。
財布の中身を見るたびに、世知辛さを実感したものだった。
だからこそカメリアにとっては願ったり叶ったりな提案であったが、それが最近、首を切られたのだった。
最初こそ情はなかったものの、長年仕えた王家や同僚との別れは中々に来るものがあった。
「なんだ、私と一緒じゃないか」
それを、拍子抜けだというように、あっけらかんとナハティガルは言った。
「待ちなさい、魔族って仕事の概念あったかしら??」
「一応あるにはあるさ、ただ、基本趣味を仕事にする奴が多い上ぶっちゃけ人間みたいに群れという共同体に頼らずとも生きていけるから仕事をする必要がないし、なんだかんだ言って魔王軍も兵役に近かったしな。まあ私は部下も死んじゃったしで、今は自宅警備員だけど」
でも魔族の自宅は意外と人間が侵入してくるから必要性が高くてね、そう言うとナハティガルはカラカラと笑った。
「いや、それってつまりニーt、」
「単純に働きたくねえのよ、というかなんであの時あんな指揮官できてたのかが逆に謎。あの時、もしたら私はゲームのチートモードだったのかもしれない」
「あの世の貴方の部下が泣くわよ。それよりも、二人とも無職なら、一緒に冒険者ギルドへ行かないかしら!」
良案を思いついたと言うように、両の手を打ち合せて、とても、とても嬉しそうに、ナハティガルにとっての地獄の入り口へと誘った。
ナハティガルにとっては丁重にお断りしたい案件である。
というのも、かつてはナハティガルとて今程仕事に嫌悪感を抱いていたわけでも消極的だったわけでもなかった。
しかしながら、魔法の研究との両立が難しく、どうしても睡眠時間が削られがちになり、研究に手をつける暇さえ無いような日々が続いてしまっていたのだった。
どうにかもっと時間を確保できないかと、ナハティガルは以前より考えてはいた。しかし、業務は減らないし、何なら勇者のおかげで忙しい日々が続いていたのであった。
そんなある日、状況が変わった。
勇者パーティによって、壊滅的な被害を受けたのだ。
それをきっかけに、ナハティガルは自分の職を、北部の統率者という役目を降りたのだった。
それは、単純に部下を失った虚しさもあったし、魔王亡き今その肩書きに大した価値を感じなかった事とらこれ以上人類と争う理由が見つけられなかったもというのもある。
そんなナハティガルだからこそら宿敵とも言える間柄の者とも交友を持っているのだが、その話はまた後で。
ともかく。
それならば、椅子を降りるのは、自分の限界を、時代の幕引きを悟った今ではなかろうかと、ナハティガルは思ったのだった。
そんな中で、復興や引き継ぎ、後任の任命やらも全て片付けてからではあったが、それでも魔法の研究に費やせる時間が格段に増えたのは、僥倖だったと言えるだろう。
そんな訳で、ナハティガルは今の生活を手放す気などさらさらなかった。
「冒険者ギルドをそんな夢のない名前で呼ばなでくれ。あと私はここで魔法の研究したいから、遠慮しておくよ」
「いいこと教えてあげる。召喚された今の勇者パーティが貴方を探していたわよ」
だから大人しく私とハロワに行くわよと、ほくそ笑みながらカメリアが言った。
「ちょっと詳しく」
「何でも、貴方しか落とさないドロップアイテムがあるとか無いとか、言ってたけど、何か心当たりあるの?」
他意は無い、というように何のことなくカメリアが言った。
その時、ナハティガルは驚いた顔をして、はっとカメリアの方を見た。
「うそ、」
と、静かに、唇を震わせるほど小さく、呟いた。
かすかに見開いた目は、僅かな猜疑心と、警戒心とを浮かべていた。
「いや心当たりしかなくて今戦慄いているよ。待ってマジでそいつ勇者なんだよね??」
何時もの調子を取り繕うように。
そう、口の端を釣り上げてナハティガルは言ったが、その目に浮かぶ色を感じ取ったったのか、カメリアはそっけなく機械的に、ただ答えを言った。
「能力的には勇者でしょうね」
「人格は?」
「なろう系男子高校生」
「ジャンルは?」
「えーと、クラス転移王道勇者パーティが1組と影の実力者系が一人?」
「私が死ぬ前に読んでたジャンルじゃん」
だからこそ、頭が痛い。
小説で読む分にはいいが、ナハティガルにとって現実では遠慮したい人種であった。
「ちな追放系」
「ちょっと立ち話も何だからいったん家いこ?」




