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エンドロールが流れた後で  作者: 柏木 遊
幕開け
18/19

番外四 翼の兄弟

そも、彼奴を俺は弟と思ったことは無かった様に思う。

そしてそれはきっと彼奴もそうであろうとピロメラは思った。

中々彼奴も嘘つきな男なのだ。

「嫌な確信だな」

ははっと自嘲気味にピロメラは笑った。

痛い。

背が。

ズキリと疼いた。

何時もならばばさりとはためく音が聞こえる筈が今はもう聞こえずにいた。

思えば、あの男からの差し入れを受け取ったのが失敗か。

匂いや、味に違和感は感じなかった。

翼を持つ魔族はは魔鳥の因子が混ざっている。

だから、鼻は他の魔族と比べると鈍い。

もし鋭いとしたらそれは翼を持った別の魔物の混ざりものである。

少なくとも、その時点で同族ではないだろう。

恐らくは別の魔物である。

まあそんな奴見たこともないが。

ピロメラはざり、と角を地面に擦り合わせ、身を起こす。

まあとりあえず。

酒に薬を盛られたのを、気付けなかったのだ。

部下は、生きて返す訳もなし。

おそらくは死んでいる。

回らぬ頭でピロメラは昨日の出来事を思い起こした。



一日ではテーセウスの城へはたどり着かない。

故に一団は野宿をしていた。

明日か、明後日には着く距離で、飛べばひとっ飛びだが生憎場所か分からない上先方の、それも城主自らの迎えの申し出を断る訳もゆかず陸路となっている事に多少の苛立ちを感じながらもピロメラは食事を取っていた。

「遅い」

ピロメラは遣り場のない不快感から気がたっていた。

「仕方ありませんぜ、若。あっしらは場所が分かりませんから」

「チッ」

「ガラが悪う御座いますぜ」

共は里でも馴染みの者を選んだ。

でなければ恐らく帰るまでに胃に穴が開くかもしれないからだ。

主にストレスで。

「若!若、向こうから酒の差し入れだそうです、如何致しますか」

「ああ?向こうからの施しなどうk…「さっ、酒だってえェェーー!!??」おいコラ、待て、俺が話してる途中だぞ!?」

遮ったのは部下の雄叫びであった。

図太過ぎる部下達である。

「いやっふー!酒だあ!!」

「上物のワインだ!!」

「中々いい趣味してるじゃねえかあの城主!見直したぜ!!若ぁ〜頼みますよ、呑ませて下さい。程々にしますからぁ」

「んなこたどうでもいい!!ああもう貴様ら本っ当に、チッ、さっさと開けろ、呑め呑め、もう好きにしろ」

先に折れたのはピロメラであった。

「わ、若あーー!!」

「流石!やっぱ話が分かるお方だ!」

「さっさと開けろ、お許しが出たぞ」

干し肉を肴に皆が酒を楽しんだ。

そんな中ピロメラに近ずいた男がいた。

「若、いやピロメラよ、一杯呑まねえ?」

「断る」

その者はピロメラの幼い頃からの親友とも呼べる男であり、乳兄弟であった。

「お堅いねえ〜、弟ちゃんがそんなに気掛かりか?」

「真逆、アレは世渡りが上手い、俺よりもな。だから親父も行かせたんだろうよ」

「へえー、そうなのお。昔はお前に鴨みてえに後ろくっついて歩いてたのになあ」

可愛かったな〜。

男は呟いた。

酒が回っているのか血色がよくそれと同じくらい舌がよく回った。

ピロメラは杯を差し出した。

「注げ、呑む」

「え〜?呑まないって言ってたのにぃ?」

「貴様相当出来上がってるな」

「はぐらかすなよお」

そう言いつつも男は杯に酒を注いだ。

それをグッと呑んでからピロメラは口を開いた。

「俺は奴を弟と思ったことは無い。そして奴もそうだ」

「だろうね、だが彼も策士だね。他の奴らはお前らのこと普通に兄弟だと思ってるよ」

「だが」

「だが?」

「不愉快では無い」

「アレレー?下戸だっけか、お前。あははっ、そうだ、下戸だったねー」

「うるはい。れも、俺も、やつも、信用と信頼はしている。俺もヤツも、情など下らんも鼻で笑うておるのだ。ちは繋がらぬが、根本的ににておるのじゃお。らから奴の考えておることがわかるしオレの、考えておることもあやちゅはわかりゅのだ」

「ははっ、ゴミみてーな言い間違いと滑舌でなんも頭に入ってこねー。でもま、似たもの同士ってことか」

「そうらな。奴の方が計算高いし腹は黒いが」

「散々ないいよー!コッワーイ!!」

「キショ」

「ストレートに傷つくからやめて?」

「うるは、…あ??」

ぐらり、地面が揺れた。

言葉が出なかった。

一服盛られたと思う前に、意識はもうなかった。

遅効性の睡眠薬であったと後で気づいた。




「お目覚めかな」

「貴様っ…!!テーセウス!!!」

力が入らない。

薬が抜けきっていないか別の薬を入れられたか。

どちらにせよ気色の悪い話であるとピロメラは思った。

「ははは、よく吠えるな。吾のアスランよ」

うっそりとテーセウスが言った。

「ほざけ、俺がいつ貴様のものになった。一体これはどういうことだ?」

「なに、簡単なことよ。吾は欲しいと思うた物は手に入れねば気が済まなくてな。――其方の翼を是非吾が手にと思うたのだ、折角だ、お前には特別に話してやろう。この世には本物と偽物がある。吾は本物が集めたいのだ。それが汝をここに連れてきた理由かな」

「なに?」

「お前の強さが本物であると云うことよ。あの出来損ないの弟よりもな」

「不愉快だな。アレと俺を比べるなど」

「なんだ、お前達仲が悪かったのか」

意外だな、とテーセウスは言った。

「まあ全て吾としてはどうでも良い。さて、暴れられない内にやっておくか」

ぱち、と空間が爆ぜるような音がした後に、テーセウスの片手には一振りの剣が握られていた。

ピロメラの頬を嫌な汗が伝った。

「さて、これで汝の翼を切り取ってやろう」

―吾が欲しいのは翼だけだからな。

ニタリとテーセウスは唇を歪ませた。

ああ、嫌な予感は当たっていたと、ピロメラは歯を食いしばった。

魔族の致命傷とは、魔力に関わる器官の破損である。

それが、翼を持つ魔族の場合その翅も魔力の循環器の一つになっている。

故に、そこを破損か、失くしてしまうと魔法が碌に使えなくなってしまうのである。

そうして、そのうち弱って死ぬのだ。

だから、魔力循環器の破壊は魔族としては屈辱的な行為とされる。

それを、この男は今からしようとしているのだ。

今すぐにでもテーセウスを殺してやりたい衝動をピロメラは抑えた。撹魔鉱石か何が仕込まれているのだろう。魔法は使えない。

最悪だ。

抵抗しようにも体が縛られているので動けない上、薬で更に体が怠い。魔法は使えない。

どうしたものか、とピロメラが思案しかけた時分の事である。

つと、テーセウスの手が触れたかと思うとごきりと翼の関節が外された。

元より上げてやつもりも無かったが、呻き声を上げる間も無く刃が刺し込まれた。

ピロメラは何とか魔力で翼の強度を上げ抵抗するも、余計刃が通りにくくなり苦痛を長引かせた。

みりみりみりみり。

血が、魔力が、流出した。

魔力はすぐに霧散したが、血は、そのまま背をつたい、服を汚し赤い水溜りを作った。

鉄の香りが鼻につき、それが双方の本能を刺激した。

ぶつりと音を立てて片翼が切り落とされた。

「ああ、何と美しい」

テーセウスは嗜虐の色に染まって目を細めた。

「だろう、貴様には到底不釣り合いだがな」

「ははっ、減らず口はまだ叩けるようだな」

そう云うとテーセウスはもう片方の翼を乱暴に引きちぎった。

それにピロメラは耐えた。

呻き声一つあげずに。

だがそれで限界だった。





「いっ〜〜ッッーー?!?!!」 

プロクネがイティスと談笑していた刹那、翼の付け根をを激痛が通り過ぎた。

それに堪えきれずに、ガタン、と音を立ててプロクネは椅子から転げ落ちた。

「どうした?プロクネ」

心配そうな声色でイティスが話しかけた。

「いや、なんか背中というか、羽の付け根がめちゃくちゃ痛くなって」

「おい、大丈夫なのか?」

「うーん、一瞬だったからな。アレがずっと続いてたら今頃気絶してたよ」

「医者行け医者」

「やだよ、どうせ効果もよく分からない苦い薬渡されて終わりじゃん」

「ド偏見で語るなよ、この医者嫌い。祈祷だってしてくれるだろ」 

「健康優良児なものでね、医者要らずなんだ」

「行くべきだ」

イティスがプロクネの腕を掴んだ。

「やだっ、腕引っ張らないでっ、いア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーー!」

「止めろみっともない。何がお前をそれ程までに医者嫌いにしたんだ?」

「何がって、そりゃ…」

全てである。

北の故郷では血とナニカの肉に謎の草を混ぜたものを食わせられた上に祈祷が行われた。

魔族なので生肉に対する抵抗はなかったが、

しかし、一向に良くもならなかった。

という訳で熱で食えない肉を口に突っ込まれ、頭に響く祈祷を挙げられたプロクネは、二度と医者に掛からないことを固く誓った。

「医者にはいい思い出なくてさ」

「そういう話じゃないだろ?」

「それはそうだが」

「ほら、行こう」

「ゔぅ〜、もう、仕方ないな」

そう言ってイティスはプロクネを医務室へ連れていった。

医者は軽い触診をしてから診断結果を言った。

「その魔石、対になってますよね」

「そうですが」

「であれば共鳴現象ではないでしょうか。羽自体に異常は見られませんでしたので」

「はあ」

「とはいえ大事をとって明日は一日休まれた方が宜しいでしょう。イティス様には私からお話しておきますから、どうぞご安静に」

「分かりました。では今日はもう寝ることにします」

「それが良いかと」

ニコリと医者は笑った。

その帰り、自室へと戻る途中でプロクネは窓に足を掛け身を乗り出した。

「何してるんだ?」

声の主はイティスのものであった。

「何って、夜風に当たろうかなと」

そのままの姿勢でプロクネは答えた。

「安静にしてろって言われてたろうが」

苦しい言い訳がイティスに通るはずもなく、プロクネは喉を鳴らした。

「聞き耳立ててたなんてサイテ~~、つうかさ、なんで君がここに居るのさ」

「なに、君の事だから、まあそうすると思ってな」

「は〜ん、籠の鳥は大人しくしてろってか?」

「そんなことは言っていない。私達は対等であり、親友だろ」

「だが立場が違う。君は自由だ」

「いいや、お前と同じ、俺も籠の鳥だ。少なくとも、父上の期待に応えられるまではそうなのだろうよ」

「…、私の籠の鍵を持っているのは君の父上じゃない、イティスだろ」

謁見が終わってから直ぐに、プロクネはイティスの管轄下に収まった。

「一時でいい、自由が欲しいんだ」

穏やかな目で、プロクネはイティスの目を見つめた。

先に音を上げたのはイティスの方であった。

「はーー、風切羽も切っておくべきだった」

「それでも私は飛ぶぞ。まだ飛ぶための翼があるからな」

「脳筋馬鹿鳥がもう付き合ってられん、好きにしろ」

「そらどうも」

そう言ってヒラヒラと手を振りプロクネは窓から飛び降りた。

窓からイティスは夜に溶けてゆく小夜啼鳥を眺めた。

「私の」

籠の鳥。鍵が開けられた籠の中には、もう1匹のに雛鳥がじっと耐えるように身を潜めていた。




上空の風は冷たい。

だが凍えるほどでもなかった。

凍てつく夜の星々を眺めれば、道を指し示してくれた。

プロクネは星を導に北へ飛んだ。

王が使うルートは覚えている。それに沿うように空を飛んだ。

羽を風が揺らした。

友の手前、言うことは憚られたがテーセウスをプロクネは信用していなかった。

餓鬼を腹に飼ったままに大人になったような歪さを感じる男だとプロクネは評価していた。

あの竹を割ったような性格の兄が喰われて無ければ良いのだが。

ピロメラはまっすぐな男なのだ。

成すことの善悪は置いておいて、自分の正しさを実行できる男であるとプロクネは思っていた。

清濁も併せ呑めない彼だから、愛されていた。

不器用な男。

でもそれに気付けていない、莫迦な男なのだ。

「嫉妬しちゃうよね、ホント」

ピロメラには自分には無い真っ直ぐさ、と言うか純粋さがあった。

父上は私を行かせた、それは、ピロメラの方が大事だったとか、そういう話ではなはい事ぐらい理解しているのだが、今思えば、自分は選ばれないことが怖かったのだとプロクネは思った。

それも要因のひとつとして加味できるというだけだが。

ふと下を見れば、荷物が散乱している場所があった。

「見つけた」

急降下すれば、音もなく地面に舞い降りた。

壊れた荷箱を探れば大事そうにくるめられた成人用の儀礼服と二通の手紙があった。

印は父の、長のものである。

中には。

そろそろ成人だと思って作らせた。式は村にてこちら流に執り行うため一度帰りたし。

と言う文字が並んでいた。

それと、もう一枚には村の暗号で書かれたものであった。かなり急いだのか字は読み辛いが、短く、

―嵌められた。ピロメラ様が連れ去られた。

とのみ記されていた。

「はっ、あの野郎、遂にやりやがった!!」

空を飛んでいる時小屋があった。居るとすれば、中々有力候補ではないか。

そう思ったピロメラは、荷物に手を付けずに飛び立った。

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