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エンドロールが流れた後で  作者: 柏木 遊
幕開け
17/19

番外三 貪欲の城主

貧弱な小僧。

それが、北の魔王の民を束ねるテーセウスの、翼の一党から寄越された代わりの子供への第一印象であった。

こんな貧弱そうな餓鬼が長の息子とは、かの一族もいよいよではなかろうか。

北の覇者と呼ばれる魔族の一族。

しかしこれではあまりにも期待外れではないか。

「名は」

「お初にお目にかかります、翼の一族の長の次男、プロクネと申します」

「面をあげよ」

「は、」

そう言って餓鬼は顔をあげた。

「ほう」

器量は悪くなさそうだとテーセウスは思った。

だが足りぬ。

これではない。

魔力も申し分ない。空を翔ける翼は見かけによらぬ力を秘めていそうに見えた。頭の出来も悪くはないだろう。

だが、こいつは偽物だ。

本物では無い、と思った。

本物はもっと。

力強い。

美しい。

迸る魔力と雄々しい翼で空を支配する。天空の絶対者。

それがテーセウスがかつて見た、翼の一族であった。

それは。

戦場で別れてそれっきりの友の姿であった。

それに比べて、これは雛鳥もいいところではないか。

色がそっくりな所が余計腹立たしい。

「宜しい。中々出来が良さそうな奴ではないか。よく鍛錬を積み、更なる高みを目指し励めよ」

「お褒めに与り恐悦至極に御座います。これからも…」

つらつらと並べ立てられた言葉は流し、ふと息子を思い出した。

「…ですので、これから閣下の元で精進してゆきたく存じます」

「ああ、良い心がげだ。そうだ、吾には息子が居るのだが、丁度汝と同じくらいの年頃なのだ。良くしてくれたまえ」

「は、楽しみにしてきます」

「では今日は長旅で疲れたであろう。ゆるりと休まれよ」

「お気ずかい感謝致します」

そう言ってそそくさとプロクネとやらは退出していった。

我々は完全には従わぬ。

次男が送られて来たということは、詰まり、そういうことである。

我々は、何者も縛ることは出来ぬのだ。誰も、僕等を鳥籠の鳥には出来ぬ。

――ではもし、そうなったならば。どうするのだ?

そうだな、死ぬんじゃないかな?

―また物騒な、

いいや、真さ。僕達は狭い鳥籠では生きられない。僕らは常に空と共にある。それから引き離されるってことは、詰まり死ぬ時なんだよ。

「さて、それが真か否か、確かめてみようか」

耳の裏に蘇ったのはその友の声だった。

雛鳥は籠に入れられた。

死ぬか生きるかは、正直どうでも良かったが。

まあ成長するならば見ものだなと思った。

独り、部屋に戻ったテーセウスは控えている従者に命令する。

「アル、息子をここへ」

「承知致しました」

数分後、息子はテーセウスの元へやってきた。

「父上、お呼びでございましょうか」

「おお、イテュスよ。今日翼の一族の次男がこちらに来たのは知っているな?」

「ええ、何でも私と歳か近しいとか。実に楽しみであります」

「耳が早いな。そうだ、どう化けるか面白そうな奴だった」

「成程、お眼鏡に適いませんでしたか?」

「バレたか」

「父上が他の魔族を褒めるのは、取るに足らぬと思った時でしょう」

「ははは、我が息子ながら末恐ろしいな」

テーセウスは笑った。

それに応えるようにイテュスはさらに饒舌になる。

「ですが、同じく統治者の息子として、話がしてみたいとは思います」

「そうか、好きにせよ」

「ては好きにさせていたたきますね。それでは失礼致します」

イテュスは白いマントを翻した。

それを見送りながら、こいつも本物では無いなと思った。

偽物の子は所詮偽物である。

その上。

単純に弱いのだ。

脆い、柔い、鈍い。

我々は強く在らねばならない。

そうでないものは。皆、紛い物である。

テーセウスもまた紛い物である。

真の魔族は魔王様お独りなのだ。

それで良いと思っていたし。実際昔はそれでよかった。

しかし、ある時真の魔族は魔王様以外にもいることを知った。

吾は本物ではなかったと悟った。

故に本物を欲した。

集めた。

だが足りぬのだ。

息子も紛い物だ。

城も、民も、食事も、女も、兵から部下まで何もかも。

総て偽物なのだ。

だから満たされぬ。

本物になりなたくてもなれぬのだから。

欲しい物は総て手に入れてきた。

力で、金で、権力で。

だがどうしても手に入らぬ。手を伸ばしても、届かぬのだ。

幾ら伸ばしても伸ばしても伸ばしても。

指先さえ掠らぬのだ。

浅ましいと、自分でも思う。しかし諦めきれぬのだ。

吾は、本物になれぬ。

いや、なれなかった。

だからなんだと開き直れなかった。諦められなんだ。

だから。

どう足掻いても苦しいのだ。

彼と並び立てぬことが、この上なくテーセウスのプライドを傷つけた。本物をいくら集めたとて、それでどうこうなる訳でもないなんて、とうの昔に理解していた。

理解していたのだが。

止められぬのだ。

要は現実が受け入れ難いのである。

受け入れられぬから、駄々を捏ねるのだ。

そしてその駄々はいつまでも突き通せるものでもなかった。



雛鳥が若鳥くらいになった頃であろうか。

翼の一族から兄が弟に会いたいと申し出がテーセウスの元へ届いた。

テーセウスは喜んだ。

期待混じりの身勝手な恋慕にも似た、かつて自らを魅了した本物にやっと出会えるかもしれぬというのだから。

嬉しくないはずもなく。

「吾が迎えにゆこう」

待ちきれぬ。

そう思いながらテーセウス部下を引き連れプロクネの兄を迎えに行った。

翼の魔族が住まう領域と魔王軍の境界にてテーセウスは待っている。暫くすると雪順鹿と呼ばれる鹿型の魔物に乗った一団が現れた。

北部の魔族は身体が大きく角が小さい。

北の地に適応していった結果である。

どうっ。

鹿の蹄が積もった雪を蹴散らした。

巨体とは反して、軽やかな所作で一団が雪順鹿から降りた。

その中で、独りの男が前に進み出た。

群青と黒の光沢のある翼で、赤髪の男であった。

「貴殿がテーセウス閣下か?」

「いかにも。吾が魔王軍北部大将、テーセウスである。貴殿が翼の一党のピロメラであるな」

「弟が世話になっております」

にこりとピロメラが微笑んだ。

「いやいや、中々優秀な弟君で、噂がこちらまで届いてまいりますよ。吾の息子と仲良くしている様で息子からも良く名を耳にしますし」

「左様でございましたか」

「さて、そろそろ行きましょうか、我々にはこの地は寒すぎる。それに貴殿も弟君には早く会いたいでしょう」

「ええ、全く」

もう一度、各々乗り物に乗り直すと一行は再び足を進めた。

「狐と狸の化かしあいじゃねーか」

ヒソヒソと話ているのピロメラの共の者である。

「つーかあの方あんな会話出来たのかよ」

話しかけた相手と仲の良い男は素直な感想を述べた。

傲岸不遜。

そんな言葉が良く似合う、血が好きな男。

長はそれを憂いているようだが、別段やべえ趣味という訳では無いので村人は意外とピロメラの性質を気にしていなかった。

しかし気性が荒いのは確かなことで、だからこそ今回の対応を男は驚いた。

お前そんな態度できたんかワレ、と。

「それな」

「聞こえておるぞ貴様ら」

ピロメラの眉にシワがよる。

「「っ申し訳ありせんでした!!」」

「往くぞ、緊張感が足らぬ。奴らに遅れは取るなよ」

「「はっ!」」

ピロメラに気勢の良い返事をすると共のもの達は手網を握りしめ、気を引き締めた。

それを見て、ピロメラはテーセウスから感じた人匙の違和感と嫌悪感を噛み殺して相棒の雪順鹿を走らせた。

嫌な予感がしたのだ。

ピロメラの母は巫女であった。それ故か、勘が鋭いのは生まれつきである。

悪いことが、起こらねば良いのだが。

そう願いながらちらりと目に入った空は曇天であった。



一方、テーセウスは歓喜していた。

やっと。

やっと出逢えた!!

本物だ!!!

嗚呼、なんと好い日だろうか。

あの翼。

欲しい。喉から手が出るほどに。

それにあの魔力。

まだ若いだろうに、なんと言う保有量だろうか。

荒々しい若獅子をも簡単に殺せそうな眼光も、筋肉の鎧で覆われた体躯と翼も何もかもがテーセウスの心を踊らせた。

成程長も手離したくないワケだ、とテーセウスは思った。

兄と比べればアレの落ちこぼれ具合がよく分かる。

プロクネとて悪くは無い。

悪くは無いのだ。

だが相手が悪かった。

ただ、それだけの事である。

先導をしているが故に後ろを振り替えられないのが惜しかった。

「はっはっはっは」

テーセウスは暗い笑い声をたてた。

その頭の中では、これからの絵図を描いていた。

今度こそ、満たされるのではないかとテーセウスに飢餓にも似た衝動が湧き上がった。

気付けば。

空からはらはらと曇天から雪が舞い降りていた。

それでも構わずにテーセウスは馬を走らせ、純白の雪原を踏み荒らした。

その後に、ピロメラ一行が続いた。

御読了ありがとうございました

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